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第29話


「で、どこにいるの?カオスドラゴン…その…アメノミカヅチ様は」

「それなんだよな」


ソーファン世界で戦ったカオスドラゴンは、星の核に寄生していたので

謎の異空間みたいなところで戦った


だが通常の方法でその場所には行けないので、こちらから挑むことができない


ソーファン世界のモンスターは最初は実体化しておらず俺たちを感知してから攻撃を仕掛けてきたが、それはおそらくこちらの世界とのつながりが弱いからなのだろう


だが、カオスドラゴンは元々こちらの存在…

いや、霊とか神さまの扱いはよくわからないんだけど、異世界からのモンスターとは違うだろう


「元々ここでお鎮まり頂いていたのなら、良い神さまだったりしない?」

日枝薫が素朴な疑問を口にした


が、それはない

何故なら暴走して魔獣と化したからこそ討伐イベントが発生したのだ


そしてそもそもに俺が異世界に行くことになったのも、倒さなければならない存在だと判断されたからだろう


「暴走したソイツと戦ったのが始まりだからなあ……」

「ダメかぁ」


やはり被害を最小限にするにはまだ活動を始めていない今倒すしかない


「こっちから行くしかないな」

「やっぱりそうなるんだね」


いままで扉が出たり出なかったりする条件がいまいちわからなかったが

今ならなんとなくわかる


扉はおそらく必要に応じて出してくれてたんだろう

全ては『龍』を倒すことにつながるように


「じゃあ行ってくる」


俺は魔導書を出し、転移魔法を唱え始めた


ガシッ


魔導書を持っている手首を掴まれた


「こんなとこに置いていくつもり?」


詠唱は一瞬にして完成してしまっている

日枝薫の表情を確認する間もなく、転移空間は俺たちを飲み込んだ



ブオォォン


腕を掴まれたまま俺たちが出てきたのは、アパートの風呂場

すなわち光る扉の前だ


「行けってことだよね」

電気がついていない夕暮れ時の風呂場である

薄暗い中で日枝薫の目は輝いている


「いや、俺だけで行くよ」


強すぎる敵である

以前戦った時にわかったが、レベルマックスの俺たちと対等のモンスターだった

まだ装備やレベルがマックスではない日枝さんが戦うのは危険だ


「君の言いたいことはわかる。でも支援ぐらいはできるよ」


なんだか笑いが込み上げてきた


「ぶふ……」

「え、なんでここで笑った?」


日枝薫の目が細くなる。明らかな不信感


「いや、さっき言った俺の言葉がまるで冒険物語の主人公みたいなセリフだなと思ってさ」


俺は未だに俺の腕を掴んでいた日枝薫の手をそっと外した

しかし、彼女はもう一度俺の手をパッと取って、凛とした声で言った


「今は君が主人公なんだよ!」


そう言うや否や、彼女はもう一つの手でドアの取っ手を回し

俺に体当たりをしながら光の向こうへ飛び込んだ




―――――――――――――――――――――――――



扉の向こうはマリチの家の庭ではなかった


いつものような草木の匂いがしない

柔らかく俺たちを包み込むような風も吹いていない


まるで宇宙空間のような

淡い光が時折きらめく場所に俺たちは立っている


立っている?浮かんでいる…?


「ここは…?」


近くにはいるのだろうが、その姿を確認することはできていない日枝薫の声がした

俺にもどこかはわからない

だが、ここは初めて異世界に来た時に似ている


「……精霊界……いや、神界かも」

「ここが…!」


時折きらめいていた小さな光が少し大きくなった


周囲を見渡すと、少しずつ色の違う光が浮かんでいる


白、赤、青……他にも様々な色


あー…わかったこの光は精霊たちなんだ

精霊たちであっても神の領域では光になって存在してるんだ


つまり俺たちもいまは姿がなく、光になっているのかもしれない



柔らかい風が吹き始めた

様な気がした

なんだかいい匂いもする


[よういち、かおる……ようやくここまできていただけましたね]


声なのか音なのか、いや、なんなら匂いなのか、光の瞬きなのか

なんとも言えないものが頭の中に響いている


何か言いたいが、こちらからは何をどうすれば意思を発することができるのか分からない


[あなたたちは、あなたたちのせかいをまもるため]

[このほしのなかにすまうりゅうをたおさねばなりません]


[ほしのけっしょうをたどりなさい]

[もっとふかいところにいるりゅうをさがすのです]


やわらかい風が強くなった


その直後


空間が破裂した

突如眩しい光が薄暗い空間を吹き飛ばしたような感覚


破裂したという表現が正しいかは分からないが

俺たちはその空間から弾き出されたと感じた


そこは暗い洞窟の中


目の前には巨大な星核結晶が浮かんでいる


ハッと気づいて俺は周囲を見渡した


「うう……」


いた。すぐ近くに日枝さんが


「ああ……無事だった?」


日枝薫は眼鏡の位置を直しながら立ち上がる


「私……きっと女神さまの声をきいたよ…!」


その顔は言いようのない高揚感に満ちている


「やっぱりあれが女神なんだな……てことは」


この目の前の巨大な星核結晶はおそらく星の中心に近いところに在って、ここから溢れる力を辿っていけば『龍』の元に行けるに違いない


「行くか」


俺が前に歩き始めて、星核結晶に手を触れようとしたその瞬間だった


「待って」

後ろに走ってきた日枝さんが俺のもう片方の腕を取り、引き留めた


「……マリチさんは?」


「ここにはいない……」


そう。マリチはいないのだ

いつでも横にいたので気にしたこともなかったが、マリチがどこにいるかを探索する方法はない


「マリチさんがいなくて勝てる相手なのかな?それとも……」


それとも?


「私たちの世界の事だから、私たちだけで倒さなくてはならないとか?」


あー…なるほど何かしらそういう縛りはあるのかもしれないな

たしかにアメノミカヅチは俺たちの世界の神さまだ

異世界の住人達がその責任をとる必要はないからな


「行くしかない。ここから出たらここにまた戻ってこれない」

「……そうだね。行こう」


俺が手を巨大な結晶に手を伸ばすと同時に、日枝薫も手を伸ばした

二人の手が同時に結晶に触れる



――――――!!!


吸い込まれる


まるで縦横無尽に張り巡らされた血管の中を行き交うように意識が飛ぶ


星々がきらめくような光の奔流の中を進み、俺たちは最も光の強い場所を目指した



・・・

・・・

・・・。



やや目眩のようなふらつきを感じはしたが、体中に力が満ちている

なんか、穴という穴からエネルギーがあふれそうな感覚だ


目を瞑っていても眩しい

周囲が輝きに満ちているのがわかる


少しためらったが、俺は両の目を開いた


「おお……こいつが……」


境界の分からない、果てしなく続く広い場所だ

そして足元に拡がっているのが……輝く結晶


おそらく俺は今、星核の上に立っている


そして距離感がわからないが、何百メートル?か先に

半身が結晶にめり込むように鎮座しているモノが在る


「来たね…!ついに!」


いつの間にか彼女も俺の横に立っていた


「もうここまで来たらやるしかないよな。日枝さんは支援に徹してくれ」

「了解です」


彼女はしっかりと頷いた


ぜんっぜんまえと様子が違う


俺がここに初めて来たときに戦った場所でもないし

カオスドラゴンの姿も違う


以前は言わゆるファンタジー好きの僕らが想像する西洋竜

頭部が小さく首が長く、足が4本あり、長いしっぽがあり、翼膜のある羽が二枚ある

あの姿だった


俺たちは歩きながらそれに近づいていく


だが今目の前にいる姿はどうだ


まるで俺が得た知識に呼応するかのように、妖怪じみた姿ではないか


これは西洋竜の姿ではなく、東アジアに伝わる龍の姿だ。すなわち

胴体がとても長くうねうねととぐろを巻き、足は小さいものが4つ?(前の2個しか見えないが)

全身に……まるで今ここにある星核結晶のような虹色の鱗が生え、頭部には幾本もの触覚や角がある


星の力に護られている龍を打ち砕くには、同じく星の力を持つ武器種が必要だ

できれば日枝さんも星核武器を手に入れてから来たかったが、今ここで言っても仕方ない


「はいドン。スターバスター」


俺は星核武器の一つ、虹色に輝く両手剣を取り出した


「おお……!それがそうなんだね……えっと…かっこいいね!」


さすが日枝さんは社交性が高い

はっきりいって名前も見た目もダサいと思う

だが彼女はそこには触れず、この武器の力を信じてくれているはずだ


「支援開始します」

日枝さんの声に俺は立ち止まった

出来うる限りの防御魔法、支援魔法をかけてから挑もう


しかし星核の力はすべての精霊力を備えた結果、『無』属性なのである

今までの様に特定の属性を吸収して楽勝というわけにはいかない


さらに防御に秀でるクラスであるため、持久戦になることが予想される


まずは相手の攻撃を受けてみよう

もし十分耐えられそうだとわかれば、攻撃系のクラスに切り替え、速攻で勝負をかける



支援魔法、戦闘準備が完成したところで、俺たちは再び歩き始めた


思ったよりでかいな


もう目の前のモンスターの鱗の一つ一つが判別できる距離だ


「いやこれ、寝てるな」


もう魔法が届く距離まできた

しかし魔法クラスに切り替えて大魔法を使うのはさすがに不安要素が大きい


サブクラスで使える最大の魔法で攻撃する


「さあ行くか」


俺の小さな呟きに、日枝薫はしっかりと頷いた


俺はかつてないほど小さな声でぶつぶつと呟きを始める

「この星に住まう偉大なる水の精霊よ…今ここに集いて敵を穿つ大いなる力となれ……」


空中にコポコポと湧き出した水滴が、急速に体積を増し、膨らんでいく

巨大に膨れ上がった水の塊は徐々にぐるぐると空中で渦を巻き、槍のような穂先ができ始める


極大水魔法が完成し、螺旋状に高速回転する青い槍の穂先が龍の後頭部あたり突き付けられた


「水圧で鉄を切ったりする道具あるよね……ウォータージェットランス」



―――戦いが始まった



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