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第28話

大学の図書館にはめぼしい発見はなく、街の図書館にて見つけた情報

それらしい記述を見つけたかもしれない


俺の中でこの情報はさほど重要ではないと考えている

俺はバリバリに理系で、こういうジャンルの専門家でもないし

だからこれはあくまでも想像の域を出ない



記紀(古事記・日本書紀)には載っていない古い郷土史、風土記の記述

いわゆる地元以外では知られない、小さなお社などの看板等でしか見ない物語


そこに登場しているお宮の名前は『神戸カミド神社』


主祭神はふつうに天照大御神、と、地元の氏神様

けどそのお宮の隅っこに摂社として小さな祠がある


そこに祀られている『門蛇大明神』とやらの御祭神が


天之御門蛇アメノミカヅチ』または『天石門別蛟アメノイワトワケノミズチ


という謎の存在


これは有名な天岩戸伝説に関わっているらしい

いわゆる天照大御神が天岩屋に隠れたという物語だ


御門というのはその時に洞窟をふさいだ岩の事。門の神さまである


岩の洞窟の入口を岩で防いだら普通、隙間が結構できる

自然石と自然石なのでピッタリ合わさることにはならないからだ


しかし岩戸は結界となり外界と隔絶される

その岩戸にできる小さな隙間を通り抜け、出入りできるモノが居た


岩戸隠れした際に隙間から出入りし、天照大神の話し相手になっていたのがこの

アメノミカヅチという、神というか……蛇の妖怪だ


この物ノ怪は、結界をくぐり抜ける力を持っていたと考えられる


それこそが門を越える力……

現実世界と異世界の次元を飛び越える力ってことなのか?


ソーマファンタジーという異世界において、一万年前にあった星核の暴走の際

そのエネルギーを喰わせるために元になった神獣と呼ばれるモノの正体がこれかも


なんかもう人智を越えているのでよくわからないが

次元を超える力を持っていたその存在だったからこそ

異世界から何らかの方法で召喚されたのかもしれない


多分だよ多分


けどきっと

カオスドラゴン、アメノミカヅチはだからこそ向こうからこちらに還ってくるのだ

俺と同じように異世界の力を手にして


何故最初のきっかけがカオスドラゴン討伐だったのか

この町に住んでいた俺が代表として選ばれて異世界に行ったのか


全ては繋がっていたに違いない


俺である必要がない気も少しするが、おそらく……これは自画自賛になるが

この地域に住んでいたソーファンプレイヤーの中で最強が俺だったのだろう


だからこそ俺が選ばれたんだきっと



いやこれホント、妄想の域を出ないけどな……



―――――――――――――――――――



今日は日曜日

俺は町の丘にある神社に向かった


以前に聞いた話だと、日曜日にはここにいるはずだが……

堂々と声をかけるほどの社交性もないので、チラチラ遠巻きに社務所を観察する


それほど大きなお宮ではない

社務所の中で受付や作業をしている職員の数は二人しかいない

しかしそのどちらの方も眼鏡はかけていない


「眼鏡で判別すんなし」

「おわっ」


後ろから声をかけられた

俺は目がそれほど良くないので眼鏡の有る無しで探していたのがなぜバレた


振り向いたところに立っていたのは白衣に緋袴姿の日枝薫ヒエ カオル

前髪をきっちりとピンで上げている


「『神戸神社』にようこそ」


かみどじんじゃ。


そう。俺が落ちてきて、日枝薫が働いている場所


こここそが神戸神社


「後で話せる?」

「16時まで待ってもらえれば」


30分ほどか。なら境内を探索して潰せる時間だ


「じゃあ後で鳥居のとこらへんで」


この神社には一人暮らしを始めてから何度も来たことがある

何故なら俺は小高い丘が好きだからだ


こう見えて俺は、うひょーーーい!みたいなはしゃぎ方はしない人間性なだけで

割とちょっとしたことに喜びを感じるタイプなのだ


時々来ては散策していたが、特に何か変わった物はなかったように思う

今も境内周辺の杜(森)まで観察してみたが気になる構造物などはなかった


「お待たせ」

普段着姿の日枝さん

異世界でみる冒険者の雰囲気は微塵もない

俺は本題に入る前に、少しだけ気になったことを聞いてみる


「改めて聞くのもなんだけど、日枝さんって魔法とかこっちでも使えんの?」


質問の内容が少し意外だったのか、少しだけ驚いたように目を大きくしたが、日枝薫は人差し指を立てて小さな炎を揺らめかせた


「おかげ様で私も立派に冒険者です。コンロの火が付きにくい時とか助かってる」

魔法の使い方が生活感に溢れているので思わず苦笑してしまう


さて本題


「日枝さんはこの神社の詳しい伝承とか知ってる?」

「ぜんぜん」


さほど期待はしていなかったのだが、彼女の答えはあっさりしていた


「だってお正月の助勤バイト募集で働き始めただけだしね」

「やっぱりか……じゃあここの神社の奥宮の話は?」


今度はある程度返答の予測があるので、少し答えに期待して聞いてみる


「ああ。それは知ってる。ここより少し北にある山の上にあったよ」

「あった?過去形?」

「この前火事で燃えたからね」


俺やん

その原因俺なんよ


正格には黒竜が超絶ブレスで吹っ飛ばしたから俺じゃないけど


「あれ。でもあそこにあったのってお寺だったよね?」

「なんか江戸か明治にお寺と習合したらしいんだけど、元は神社の奥宮だったらしい」

「案外詳しいね」

「たまにお客さんに聞かされてるうちに覚えた」


そういいながら日枝薫は少し笑った

少しずつ紫色に染まる空を前に見ながら、二人で境内の階段を降りる


俺はピタッと立ち止まった


この一瞬、前にも後ろにも他の参拝客がいない


「そこ、行ったことある?」

「あるよ」


俺は左手に魔導書を出し、右手を日枝さんに差し出した


彼女は一瞬だけピクッとしたが、すぐに俺の手の上にチョンとお手をした


俺は思わず笑みをこぼしてしまう

そして、誰か人が来る前に一瞬で転移した


俺も日枝さんも、おそらくそんなに思い入れはない場所

だがこの物語の根幹に関わる場所なので、行ける気がした


先ほどの境内よりもさらに見晴らしのいいところにやってきた


黒龍のブレスで木っ端みじんになったお堂

焼けた瓦礫や木片はすべて撤去されている


だがそこは更地になってはいなかった

そこには小さな石塔が立っており、四方を注連縄で囲われていた

おそらく宮司さんが作った、お堂が再建されるまでの小さな結界だ


俺は他のブレス跡などには目もくれず、静かにその石塔の前にしゃがみ込んだ


とても古いお堂だ

そこに刻まれている文字は摩耗してしまって判別できない


「そのお堂が何?」


日枝薫が俺の後ろに近づいてきた


「カオスドラゴン……」

「え?」


俺はどう答えるべきか一瞬迷ったが、これまで通り洗いざらい話すことにした


「異世界に出入りしてるのに、今更信じる信じないも無いだろうけど」

「それはそうだね。別に何を言われても驚かない自信があるよ」


そうだろうな

異世界への順応性も高かったし、眼と肌で見て感じたものを疑うような愚かな彼女ではない


「俺が異世界に転移したきっかけは、カオスドラゴン退治だった」

「最近になって実装されたエンドコンテンツだよね?でも不思議と短期間の限定イベントだった」

まだピンと来ていないようで、日枝さんは少し首を傾げる


「ソーファンの世界と現実世界がつながる原因がこいつだったんだよ」

俺は石塔のてっぺんをなでなでしながら、日枝さんの方を見上げていった


「あ」

彼女の知性に満ちた目が見開かれる


「異世界に女神がいるなら」

まっすぐに前を見つめたまま、彼女はぽつりぽつりと思考をまとめるようにつぶやく


「こちらの世界にもいる可能性はもともとあった」

彼女の目線が少し下に動き、石塔に移った


神戸宮かみどのみやの奥宮には……」

「異世界に移動できる門の神さまがいたんだ」


「あー……」

日枝薫は空を見上げた

それは分からないことや不思議が全部繋がり、知る喜びに満ちた表情だ


「だからここに来るんだ。みんな」

「そうだ」

「私たちがいたから来るんじゃなかった」

「彼らが来るところに俺たちが居たんだ」


俺は石塔にかかっていた埃や煤を綺麗に払ってから立ち上がった


「俺が思うに……異世界の女神さまが俺たちを呼んだんじゃないんだ」


彼女は俺の言葉を聞き、しばし目を瞑り考える

……。


「あ。そっか」

次の瞬間、パッと目を開いて手を打った


「私たちの女神さまが私たちを向こうに送ったんだ」

「そうなんだよきっと」

「でもなんで?」


「アメノミカヅチ…異世界に呼ばれていったこちらの神さまは」

「カオスドラゴンになったんだよね」

「カオスドラゴンは星の核の力で暴走したんだ」

「あー……あーーー!!!」


ついにそこまで思考がたどり着いたらしい

俺は日枝薫を見て何度もうなずく


「帰ってくるんだ!?私たちみたいに!」

「異世界の力を手に入れて!」


日枝薫が目を見開く……が、その顔にはどこか嬉々とした表情がある


「大丈夫じゃないね!!」


「なんで笑ってるの?」


明らかにヤバイのに俺もつられて笑ってしまった

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