第25話
マリチ流の魔法理論を伝授されたところで、妹の黒魔導士生活が始まった
しばらくは黒魔導士でレベルを上げ、召喚士をとったらそっちをメインクラスにして黒魔導士をサブクラスにする
ソーファンには多くのクラスが存在しているが、召喚士は実はもっとも神に近いクラスだと言われている
これは実装されている最終ミッションまで終わらせた者だけが知っていることなのだが、女神のいる神界は精霊界と近い次元に在るらしい
ゆえに精霊たちと通じ合える召喚士は最も神に近いと言われる
光や闇の上位精霊は神のように扱われていることもあるしな
俺とマリチは(ゲーム内のミッションでの邂逅はカウントしないとして)
こちらの世界に初めて来た一度だけ女神に会っている
その時も精霊たちの力を借りて女神に会いに行ったのだ
しかしその時、女神とどんな話をして何があったのか
そこは全く覚えていないのだ
『カオスドラゴン』を倒したお礼と、あと『何か』をよろしくお願いします
と言われた気はするが……
なんだっけなーー?
曜がいることにより、俺たちは召喚士がたどるクエストやイベントを、改めてリアルでこなしていくことになる
もしかしたらそこで何かが見えてくるかもしれない
―――――――――――――――――――――
火>氷>風>土>雷>水>火……
6つの自然属性は相関関係がある。そして地形や天候の影響を受ける
さらに連携空間での威力増幅の関係など、魔法には複雑なルールが存在しているが…
「魔法は慣れ」
マリチ師匠は基本的にそういう方針でいくらしい
「どんなことでもそうだけど、まずは好きになることが大事」
などと、案外良いことも言うし、これはこれでいいのかもしれない
属性ごとに精霊がいるので回る箇所は6か所
活火山
地下水脈
暴風の岬
流砂洞
氷河
古代遺跡
「なんで雷の精霊は古代遺跡なん?」
どこを回るのか説明していた時に、曜が質問してきていた
確かにそれ以外のところは自然の地形なのに、そこだけ人工物だ
「もともと雷の精霊力が強い特殊な場所があって、古代人があとから遺跡を作ったとかだっけ?」
曖昧な記憶を呼び起こして答える
「そういえば雷鳴の遺跡はいつも天気が悪かった記憶があるね」
日枝さんは召喚士をとっていないそうだが、遺跡自体にはミッションで行ったことがあるそうだ
帯電する特殊な古代樹(幹回り十メートル以上、高さ100m級の巨木ばかり)の森の中に埋もれるように存在している遺跡だ
「のちのち精霊と契約するためにはもう一回行く必要があるんだが、とりあえず初回は行けば終わりだから近い方から順に行こう」
というわけで、俺たち4人の世界巡りが始まった
近い順に行くならば、まずは地下水脈
世界で最も広大な密林に降った雨は、石灰質の地層を溶かしながら地下に流れ込む
悠久の時より流れ続けた地下水は、いまではいくつもの巨大な地底湖を作っている
そしてもっとも清らかな水を湛えるところにそれはある
「これが水の精霊石だな」
俺も実際にこの目で見たのは初めてである
なるほど強い力を感じる
「星核結晶が水の精霊力を満たした状態だね」
石は地底湖の中から突き出すように露出している
「青く透き通って綺麗な石…」
日枝さんは目を潤ませて感動している
この世界に来てからずっと意外なこと続きだが、実はほんとにファンタジーや物語好きだったんだろうなあ
「ところで……あそこまでどうやっていけば……」
おなじく感動していた曜だったが、素朴な疑問を口にする
かつてソーファンの中では地底湖の端っこに調べられるところがあってそこを触ればイベントが始まったが、この精霊石は湖の中にあって、身体を濡らさずに触れることは不可能に思える
「そこは心配無用だ!」
声がした方に振り返ってみると、いつの間にかマリチが淡く輝く巨大な水蛇のような生物の上に跨っていた
「あれは…水の精霊、大いなる蛇だね。あんな風に誰かが乗ってるのは初めて見たけど」
日枝さんはクスリと笑った
「さあ精霊石に触れるんだよ!」
せっかくなので俺も乗せてもらおう
巨大な蛇の背中に、マリチ、曜、日枝さん、俺の順に跨る
水しぶきをあげながら精霊石に近づき、蛇体はぐるっと石に巻き付く
「なんとなく私も触っとこう」
そういいながらマリチはぺちぺちと石を叩く
それを皮切りに曜と日枝さんもそっと石に触れる
「俺もせっかくだから記念に……」
そっと右手を伸ばし、触れた。ひんやりと冷たい――
――――――――――――――――――――――――――
カオスドラゴン……
古代に……を喰らいし……神獣……
星の力を……存在……
は… から……きた……
追え……
果てまで……
――――――――――――――――――――――――――
「どうしたヨーイチ」
「兄?」
「湊くん?」
「ん?」
気がついたら3人が俺をゆさゆさしていた
「はっ!今のは?!」
精霊石に触れ、意識を共有した時に感じた
あの声は…女神アステラだ
精霊石は純粋な星の核の結晶体
星核同士は繋がっていると聞く
もしかしたら純粋な星核は神界にも通じるのかもしれない
あの声、あれは俺が前に聞いて忘れている(というか覚えておけなかった)記憶の断片に違いない
「集めよう」
俺は思わずそう呟く
「え?最初からその予定だけど?」
曜はキョトンとしている
「そうだね」
マリチは俺をみてニヤリとした
もしかして……マリチも何かを聞いた……?
「よし。私もこの場所を記録した。この調子で行こう」
日枝さんはどこかからかノートを取り出し、何やらメモっている
「いつかこの世界で感じたことを、私は物語にまとめようと思う」
ある日急に訪れることになった異世界
逆に言えば、急に来れなくなることもあると思っている
そんな時に大事になってくるのが思い出や記録だ
それらは寂しさや別れを肩代わりしてくれるのだ
「素敵なアイデアだね」
日枝薫のはじめたこのノートはいつかきっと素晴らしいものになる
「さあ次はどこに行く?」
珍しくマリチが俺に訪ねてきた
普段は割と俺が考えてることを先読みするかのようにふるまうのに
「最初は冒険者生活に慣れるために、なるべく汚れないところがいいよな」
「だったら氷河だね」
次の我々の目的地は氷河だった
この世界が平坦なのか球体なのかはいまだによくわかっていないのだが、北の最果てに行くと氷河地帯というものがある
実は氷の奥地に魔王城なるものが眠っているのだが(魔王は50年ほど前に倒されており現在不在です)、今はそこはスルーして氷の精霊石のある地下洞窟に行った
氷河の次は火山。噴火口の横に炎の精霊石はある
その次は暴風の岬
海に出っ張った半島で、周囲の地形により常に強風が吹き荒れる
その半島にある海岸洞窟に風の精霊石は眠る
土の精霊石は流砂道。かつてドワーフたちが掘った坑道より入り、流れる砂に身を任せると辿り着くことができる
最後は古代遺跡、雷の回廊
特殊な葉で常に静電気が発生し帯電する古代の樹木林に埋もれるように存在している
この遺跡はまさに雷の精霊石からエネルギーを吸い出すために作られた古代超文明の遺跡だ
ここには凶悪なガーディアンゴーレムたちはいない
というか地上にあるほとんどの古代遺跡は、多くの冒険者たちに探索され、ほとんどそのセキュリティ機能を失っている
それらの力を集めた聖獣の宝石を、大草原にある太陽の祭壇に捧げる
ここは精霊たちの力が集まるところと言われ、古代のシャーマンがさまざまな儀式をしていたと伝えられる場所だ
「とまあ、全力の急ピッチで世界一周解説をしてきたわけだが、ようやくだな」
俺は汗と湿気と砂と静電気でめちゃくちゃになった髪を振り乱しながら言った
マリチは長い髪をくるくると巻いて結い上げているので特に変わりがないが、現代っ子の二人はさすがに少し不満げではある
「ファンタジーあるあるで水浴びする…?」
「兄がそんな冗談言うんだ」
「まあ、後で湯をいただくので今はいいかな……」
マリチの魔法操作であれば水浴びしてドライヤーして綺麗に乾燥するところまで出来そうだが、その意見は即却下だった
「まあ今じゃないな!」
マリチは俺の背中をぽんぽん叩きながら笑った
太陽の祭壇は高さのさほどない階段ピラミッドである
やたらと幅のある段差をなんとか上っていくと、小さな石の台座があり、宝石をそこに捧げることでカーバンクルと契約し、晴れて召喚士になれるというわけだ
「さ、ヒカリ。置くがいいよ!」
ヒカリが祭壇に赤い宝石を置くと淡い光と共にカーバンクルが形を成していく
小さな青い聖獣は妹の曜の前で頭を垂れ、お座りをした
そっとその額の宝石をなでなですると、契約は完了
聖獣はぴょんと躍り上がって新たなる契約者に応えた
「これで私も召喚士なんだね?」
曜は振り返りながら弾む声で言った
その笑顔を見て、マリチと日枝さんは小さく拍手をする
「ヒカリおめ~~」
「おめでとう曜ちゃん!」
ようやく過酷な旅が終わった……
俺もうんうんと頷きながら、心の中でみんなの労をねぎらった
「さあ家に帰ろっかー!」
マリチが転移魔法を唱え、俺たちは順番に黒い渦に吸い込まれた
―――――――――――――――――――――
ん?
気がついたら俺は光り輝く空間にいた
正面には小さな聖獣
周囲を見渡すと、大いなる蛇、気高き獣、白き女王、雷帝、豊穣の風、堅き岩
そして見上げると、星を統べる真龍の王
―女神アステラの導きにより訪れし者よ―
誰が声を発しているのかも分からないが、空間に静かに満ちるように響き渡る
―古代に現れし混沌の竜を討て―
「混沌の竜……カオスドラゴン……か?」
―星の力を得し竜は滅びず―
「最初に倒したはずなんだけどな…?」
―追え。異界の果てまで―
「え?あ、そうか!もしかして現実の方に出るのか!こっちで倒したからそりゃそうか。忘れてたなそのこと!」
―混沌は、異界よりきて、異界へと還る―
「え?」
―追え。神界に至る前に―
―――――――――――――――――――――――
「おーーいヨーイチーーー!」
「兄ーー?」
「湊くーーん」
三人がゆさゆさしている
「はわー!!」
フカフカした草のベッドの上から飛び起きる
「大丈夫そ?」
近すぎるマリチの目に吸い込まれるように呆然としたのち
俺は思わずつぶやいた
「大丈夫じゃねえ……」




