第18話
誰かに自分の尊厳を貶められそうになった時
それに抗うには戦うしかない
戦い方にもいろいろある
話術で和睦する、距離的に回避する、様々な方法があるだろう
だが目の前の相手に今すぐ何かを強制されようとしたとき、それを断るためには暴力で勝る必要がある
逆に言うと何者にも負けない強さがあれば誰かに何かを強要されることもない
今までの現実世界であればそれを急に成し遂げるのは難しい
が、ソーファン世界の恩恵があればそれは可能なのだ
ソーファン世界の女神「アステラ」様のおかげなのか、はたまたこちらの世界の何かの神さまのおかげなのかはわからないが、少なくとも今の俺にはそれを成し遂げる方法がある
「な、なんでまた兄がいるの。というか私いつの間にか家にいる……?!」
「曜、ゲームやろうぜ」
「は!?」
俺には実は一つ気になっていたことがある
ソーファンの世界で様々な力の源になっているのは星の力『星核』だ
世界にはいくつかその力が強く結晶化しているところがあり、そこに触れることで様々なクラスに転職できるようになる
一度も星核の力に触れた事のない、つまり冒険者ではないものが召喚獣の力をつかえるなんてことがあるのだろうか
曜が無意識にカーバンクルに命令できたのにはなにか意味がありそうだとずっと思っていたのだ
「ゲームって兄が昔からずっとやってるやつ?」
「えっ」
「だって部活やめて試験前以外ずっとやってたやん。なんかネットのやつ」
「よく覚えてたな」
「うん。なんか人数多い方が面白いとか言って無理やり誘われたし」
あ。
曜の言葉を聞いて俺は自分の高校時代の記憶を呼び起こされてきた
ソーファンは最大6人PTである
当然ながらNPCを入れるよりもガチプレイヤーの方が強い
だが誰かと組むという事は、相手の予定に合わせたりドロップアイテムの取り合いのようなしがらみを生む
実際オンラインで他のプレイヤーとのもめごとも多い
なので俺は最終的にマリチというもう一人のプレイヤーを生みだし、一人で二人のキャラを動かしていたのだ
彼女が誕生したのは大学に入ってバイト代を自分で稼げるようになり、自分で自由に課金ができるようになってからの話だ
それまでは見ず知らずの人と時々組みながら冒険をしていた
ちょうどそれぐらいの時期だろう
俺はまだ中1の妹をソーファンに誘ったことがあったのだ
妹はまったく乗り気ではなかったが、一応初期設定やキャラメイキングは終えて冒険者としてソーファンの地に降り立ったのだ
しかしその最初期のイン以降、一度もプレイはしていないのだが
もしかして、その一瞬とはいえ冒険者になったことが関係している?
他の人間のステータスを『調べる』したことはなかったのだが、確かに曜のステータスはレベル1の白魔導士になっている
なるほど
レベル1だったとはいえ
ちゃんと冒険者だったんだ
という事はだ
わざわざ新たにソーファンプレイヤーにする等という不確定要素の多いことをしなくても話は早い
やるしかない。あれを
「曜。何も言わずにちょっとだけここで待っててくれ」
そういうと俺は自室にあがって、そこでアパートに転移した
そしてある程度の予感を感じつつ風呂場に向かう
ある。やはりこういう何か必要に迫られる時にはあるんだ。この扉は
それを確認した俺は元の実家の自室に戻り、玄関に立ったままの曜のところに戻った
「今までの曜の疑問、すべてを解決してやろう」
「は。え?」
そういうと俺は曜の肩にすっと左手を置いた
そして右の手のひらを上に向け、転移の護符を出現させる
「え!?なにそ……」
フォンッ
思いっきり土足のまま俺のアパートに転移された曜
「あ、え、え?」
さすがに混乱して動揺している妹の手を引き、風呂場のドアを開け放つ
そこには淡く輝く扉
だが、そのまえに、おれは日枝さんに連絡を入れる
<また扉出たぞ>
平日の夕方だが、幸い今日はバイトなどはなかったらしい
すぐさま返事が来る
<すぐ行く!>
さて日枝薫が来るまでは異世界に行くのは待機しておこう
自分が入った後の扉がどうなるか見当がつかないしな
「えっと……なにこれ」
固まり続けていた妹がようやく口を開いた
ここでダメ押しだ
俺はすかさず頭部分のみ普段着モードを解除し、竜鱗兜になった
「あっ。それ前に見たやつ。やっぱ兄だったんだ、って、え、いま何した?」
さらに全身も解除し、いかつい鎧姿になる
「あ、ちょ」
そしてエクスカリバーを手のひらに出現させた
ストン
腰が砕けて思わず床に座り込む曜
放心状態の曜の精神を逆なでするように玄関のチャイムが鳴り、日枝さんが入ってきた
「え、あ、誰」
「この人は大学の同級生。別にただの友人だ」
俺は目線がまっすぐのままの曜に丁寧に説明をする
「こんにち……こんばんはかな。お邪魔するね。ってどなたかしら」
「こんばんは日枝さん。こちらはうちの妹の曜です」
「妹さんがいらっしゃったのね。ってなんか固まってるけど大丈夫?」
「えっと色々ありまして、今から扉をくぐらせようかと」
「あ、そうなんだ~。へー……って色々大丈夫!!??」
と、なんだかんだ多少ざわついたが、俺は曜の手をとって立ち上がらせた
そして、ちょっと生き生きしている日枝さん、放心状態の曜、そして俺の順番で扉をくぐる
眩しい光が俺たちの身体を包み込む
そしてソーファンの世界にまた転移されていく
その時光の中で俺はいつもとは違う柔らかい風を感じた
…探しなさい……
そして、声を聴いた




