第17話
妹のいじめ疑惑の対策として、召喚した聖獣カーバンクルをお目付け役にしたのが昨日
その後、家に帰ろうとしたらアパートの周辺に天空都市トュリーヤで倒したゴーレムたちが夜道にわらわらと徘徊していたので、それを一体ずつ(跡が残らぬよう)風魔法で退治していき、なんとか帰宅して就寝した時には深夜0時を過ぎていた
そして今は朝の9時
召喚獣を通して物を見たり聞いたりなどはできないので、あくまでもダメージや状態異常を受けたときにのみ、その変化が俺に分かる
要は部内のいざこざで妹の曜に対して不満があった一部の生徒が放課後にそれをぶつけたってことだろうから、兄の俺がわざわざ介入する話ではない
俺のすべきことは、怪我や性犯罪みたいなことにならないよう抑止力であることだけだ
基本的にカーバンクルは対象者を自動的に守るので、意に反した接触などがあれば自動的に防御魔法や回復魔法を発動させる
すると俺はそのステータス変化が分かるので急いで駆けつける。と、まあそういう予想だ
本来は付与されている本人が敵に対して命令すれば攻撃も可能だが、曜は召喚士(というか冒険者)ではないので己に付いているカーバンクルの存在に気づくはずもないし、それによる事故(主に相手が死ぬ)もないだろう
と、おれは高を括っていたのだが……
午後16時05分
突如、パーティ内表示(パーティを組んでいる仲間のステータスが頭の片隅に表示されている)の曜の横に防御魔法が付与された
これは対象が何らかの攻撃行動を受けたという事だが、もしかしたら体育や柔道の授業で不可抗力のダメージを受けただけの可能性もある
だが警戒態勢中に些細な変化を見逃すということは最大の愚行である
ってことで、移動だ
直接転移するには、自分のかつての母校は繋がりが弱いようだ
なのでまずは実家に魔法で移動し、そこからバスと電車で30分ほど
高校時代に通学していたことを懐かしく思い出す
裏門のあたりまで来たところで、レーダーの表示を見る
一部のクラスが持つレーダー能力は敵だけでなく味方の位置も映し出す
すると体育館の周囲にいることが分かるので、今度は周囲の視聴覚を魔法で遮断し学校内に侵入する
この時間にはすでに授業が終了しているのだった
校舎の外にはそこそこの学生たちがいて、こっそり侵入するにはある程度慎重な行動が必要だ
あえて草むらや木々の間を通り、体育館の裏まで進む
居た
仁王立ちしている曜と真っ向から対峙している一人の女子生徒
あれはこの前に曜に何かを言っていたリーダー格の女子に間違いない
よく見ると右手をかばって驚いたような表情をしている
あれは多分手を出そうとして守護魔法に弾かれたか
遮断魔法がかかっているので気づかれることはないだろうが、ぶつからないようにだけ気を付けながら距離を詰める
「いつ部活やめんの?」
「やめないよ」
「は?なんで。別に舞台とか興味ないんでしょ」
「先輩にやったら?って言われてあの役が気になったからやってるし、あんたに言われては辞めない」
「ムカつく……!」
相手の女子は再び右手を握りしめたが、それを振るうことはなく睨みつけながら言い放った
「後でまたお堂のところで練習ね。絶対来なよ」
「練習ね……なんど言われても今は辞めないよ」
「いいから来な。五時ね」
「……」
そしてその場に立ち尽くす曜を残し、怒りをあらわにしたまま立ち去って行った
お堂ってのはおそらくこの前に見た丘の上のお宮の境内のとこだろうか
たまに吹奏楽部やら演劇部やらが稽古しているのは知っていたが
まさかそんな争いの場にも使われているとはなー
まあもう少し付き合うか
17時にお堂のところ……今日でいいんだよな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お堂の中に入るのは不敬でよくないので(この前は不可抗力)お堂の裏側にまわって視線と音を遮断して待つこと30分
いやおっそい
誰も予定通りに来ないじゃないか
…と思ってたら来た
「あいつどうする?」
「ちょっと脅しとけばそのうち来なくなるんじゃない?」
「あーそれいいわー」
「それよかアイツ来てなくねえか」
便宜上表現するなら「敵」側の学生の女子3人に男子が一人
この前と同じメンバーだ
「は?まさか来ないわけ?」
「あははは」
「いっそ家まで行く?」
「……いや、来たっぽいわ」
階段の下を覗きこむと、たしかに自転車を止めて悩んでる風の曜の姿が見えた
しばらくそこでスマホを触っていたが、やがて意を決したように階段を上ってくる
そしてその後ろを光るリスのような聖獣カーバンクルが付いてきている
曜のMPは最大値に維持されているので、どこかに護符はちゃんと持っているようだ
意外に素直なんだよな
小学校の時は俺と一緒に剣道をしていたが、中学からは吹奏楽部、高校からは茶道部
あまり一貫性がないように見えるが、まあその時やりたいことをやってるのだろう
そして二年になってからは演劇部を兼部し始めた
誘われて入りはしたものの裏方が楽しいって言ってたのにな
おそらく役者として舞台に上がることになって元の部員と軋轢が生じたのかもな
「……来たよ。何?」
曜はしっかりとした歩みで進み、お堂の前にいる他の4人より少し距離をとって立ち止まる
それを見た4人は妹を遠巻きに取り囲むように歩み寄る
「ほんとに来たんだ。真面目だよね」
「……じゃないと納得しないんでしょ」
「なんかムカつくよねこの子」
「さっさとやろー」
真ん中の女子が曜の近づいて目の前に立った
「部活やめてくんない?」
「嫌だ」
曜がそう言ったのを聞いて、後ろの方にいた男子が動き出す
それを見てさすがにやや怯んだ表情を見せる
「殴ったりとかあんま好きじゃないからさ。自分で脱ぐ?」
「は?」
「だってそうでもしないと辞めなそーだし」
横にいた女子が笑いながら自分のスマホを曜の方に向ける
その瞬間、男子生徒が曜の腕を掴んだ
「じっとしとけよ」
「ちょっと…!やめ…」
「やっぱ女子の服は女子が触らないとセクハラだよねー」
反対側にいた女子が笑いながら曜のネクタイを引っ張ろうとしたその時だった
カーバンクルを包む光が一瞬輝きを増し、曜に触れた女子に対して軽いジャンプ頭突きをした
「あっ!!!」
攻撃された女子がお腹を押さえて崩れ落ちた
えっ。カーバンクルが勝手に攻撃行動をとった?
それとも妹の意思に連動して反応した?
どちらにせよマズいな
なぜならレベル120の召喚士が呼び出したカーバンクルの攻撃は、レベル1の冒険者を通常攻撃のワンパンで殺してしまう可能性がある
俺は強制的にカーバンクルの攻撃命令を停止し、即座に攻撃を受けた女子に回復魔法を飛ばした
と、同時に無詠唱で全員に範囲魔法をかける
その効果は「石化」
永続効果はなく、ものの数分で効果は切れるがその間は知覚も記憶もない
死体に石化はかからない
なので、ちゃんと全員石化しているのを見てなんとか即死は免れたことにほっと胸をなでおろす
死んでさえいなければ先ほどの回復魔法で傷は完治しているであろう
だがしかしどうする?
この場から逃げ出すことは容易いが、それではこの問題はずっと解決しない
もしもの時の為のドラゴンマスク姿で立ち尽くす俺
このいじめもどきのような問題を根本的に解決するためには、いじめっ子たちがそれを諦めるような理由が必要だ
それには……
ヌッ
突如あたりが暗くなった
そして……
ズドンッッ!!!!!!!!
巨大な何かが降ってきて、お堂の向こう側の森の木々を押しつぶす
「真・黒竜(白竜と合体した後の)ドメフメアミア……」
空から舞い降りたSSS級クエストモンスター
まさかこのシーンで登場してくるとは……
巨体すぎて、お堂の向こう側にいながら上半身がこちらから十分見えている
至近距離に湧いた黒竜は最初から俺を知覚する範囲内におり、実体としてそこにいる
そして目の前に立っている俺に対し、巨大な顎をゆっくりと開いた
マズい
「聖獣の加護!全員がはいる範囲で守護!!できるか!?」
俺は少し前に進み、学生たちを後ろにかばうようにしてカーバンクルに命令を飛ばした
聖獣はくるくる回りながら空中に躍り上がり、周囲に輝くバリアを展開する
そして
ズァァアアアアアアアアア!!!!!
黒竜の口から黒い炎のブレスが放射状に広がった
木っ端みじんに吹っ飛ぶお堂
圧倒的なエネルギーが解き放たれてこちらに襲い掛かっている
が、光の守護防壁はそのブレスを弾き続ける
そして
「ルーンブレイド。光の精霊力を付与」
ブレスの勢いが徐々に落ちていくのを見計らって、俺は守護防壁からスタスタと歩み出て黒龍の元へと向かい、両手剣を振りかざした
「分断斬」
ドパッ
黒竜の首をすっ飛ばした
徐々に体が崩壊しながら光となって消えていくモンスターの巨躯
やれやれと思ったのもつかの間、次はこの一瞬にして木っ端みじんになったお堂と、謎に地面が黒焦げになった境内の状況を誤魔化す方法を、学生たちが石化から解けるまでの数分で考えなくてはならない
……。
「カーバンクル。プチメテオでお堂のあったところを攻撃」
ズンッ
カーバンクルはきゅきゅっと小さく鳴くと、空に魔法陣が浮かび上がり少し小さめの隕石を元お堂があったところに落とした
そして石化したままの曜の手を握り、転移魔法を唱える
とりあえず今日のところは突然落ちてきた隕石でお堂がぶっ飛んだという事にして帰ろう
そしていじめ問題を解決するほうはもう思いついているので、あとでそれを曜に説明するとしよう




