第16話
地方の大学に通う俺は基本的に車生活である
大学には自転車で通っているが、遠出や実家への帰省は車である
なので車がない状態での帰省は不自然な為すぐに転移魔法でアパートに帰宅
妹のことは気になるが、学校に潜入するのは難しい
周囲からの視覚聴覚を遮断する魔法は永続ではなくめいっぱいバフをかけても30分が限度だからだ
とりあえず自分の大学生活を維持しつつ、こまめに帰省するようにしてみよう
それとは別に、もうひとつ確認すべき大事なことがある
大学は自分の取っている講義しか受けないので、学年が上がっていくと同級生と言えど会わない日は多い
この日は必修の講義がない日だったので、確認すべき相手、日枝薫の姿は確認できなかった
と思っていたら、昼休みに学食で声をかけてくる小柄な眼鏡の女性の姿があった
「あ、日枝さん。ご無事で何より」
「湊くんもね」
「まさか別々の場所に出るとは思わなかったよ。どこに戻ってきた?」
「その……そのことでちょっと話したいから他の場所行っていい?」
なんだか緊張した面持ちだったので、場所を食堂ではなく人通りのない学内のベンチに移す
とはいえなんとなく相談の内容の予想はつく
「家にゴーレムが出たんだよ」
「おーー」
「あのゴーレムって、きっと私たちが倒した個体だよね」
「お気づきになられましたか」
「今思い出したら初めて向こうの世界に私が行く前、ミナトくんオークと戦ってたよね」
なかなか鋭い。あっちとこっちでモンスターがつながる現象にすぐ気づいたか
「もしかしたらなんだけど、向こうの世界でオークを倒したことはある?ゲームの時でなくリアルの異世界で」
「ある。そしてお察しの通りその後にスーパーに出た」
「なるほど……」
小さく呟いた後、彼女は顎に手を当てて考えを巡らせている
おそらくだが扉を越えたところは自室で、そこでゴーレムと戦ったのだろう
日枝さんのレベルだとそこら辺のモンスターが出ても対処はできるだろうが、今後も現実世界にモンスターが出るのであれば、向こうで何をするかはよく考えて行動せねばならない
ボス級の大型モンスターがこっちにも出現するとなるとなおさらだ
「理由はわからないけど、ご想像の通り向こうで倒したモンスターはこっちにも出る」
「それって……全部?」
オークやゴーレムぐらいはいい
しかし高位のネームドモンスター、例えば天壇山脈の双子のドラゴンなどが来た日には災害だ
そのことに考えが及ぶのは当然だ
「わからない」
「確定ではないのか。経過時間にもなにか条件があるのか…」
「あ、ちなみに近づくまでは実体化しないよ」
「え?それは具体的に言うと?」
おっと、俺の曖昧な表現を詰めてくるではないか
けど俺も最初からここをないがしろにする気はなかったので説明を続ける
「今までのモンスターは俺が近づくまでこちらの世界に干渉できなかった。幽霊みたいにただそこにいるだけ(幽霊実際に見たことないけど)。けど俺を知覚した瞬間に実体化してこっちの世界に影響を与えられるようになった。日枝さんもおそらくその対象になっていると思う」
「何てこと」
彼女は思わず眼鏡を外しておでこに手を当ててうなだれた
元々綺麗な顔だとは思っていたけど、眼鏡を外すとそれが余計に感じられる
いや今はそんなことを考えてる場合ではない
「つまり……私たちはこっちの世界に出現してくるモンスターを、周囲に被害が出ないように気を配りながら討伐しなければならないというわけね」
「まあ……この世界の健全な維持を望むなら?」
「私たちがモンスターに出会わなければ被害は生まれないように思えるけど、この広い世界でわざわざ私たちの生活圏内に現れたという事はきっと何かしら関係がある場所にやってくるのでしょうね」
「それはそう思う」
彼女は再び考え込んだ
とっさの出来事に対しても動揺したり思考を停止するようなタイプではない
新しい事象に対処するために脳をフル回転させているようだ
そして顔を上げて、言った
「よし。強くなろう」
「へ」
「君は強い。きっと何が出てきても平気だと思う。けど私のレベルは中途半端で、私よりも強いモンスターが現れた場合に被害を抑えられない」
「今回のゴーレムは日枝さんが止めを刺した個体が、日枝さんの一人の時に出たのかもしれない。でもパーティで一緒に倒した敵が日枝さん一人の時にも出てくるのなら今後そういうことは十分あり得るな」
少しため息をつきながら彼女はカバンをごそごそし始めた
そしてスマホを差し出しつつ言葉に力を込める
「緊急連絡先おしえて」
「え」
「それと次向こうの世界に行ったら、もっとレベル上げるし、強い装備を取りに行く」
「お、おお……。それは熱いな」
「熱いとかじゃなくて、なんか私たちの行動と関連してるし、義務じゃない?」
実力や立場のある者は、世界に対して責任を負うというのが彼女のポリシーなのだろう
人は皆で支え合って生きている
彼女の人生はきっとまっすぐなのだ
しかし俺にはその感覚が希薄だ
友達は少ない(ほぼいない)し、恩師と呼ぶような人も思いつかない
けどなんというか……今のこの状況というか、人生の指標として
女神アステラが(こんな)俺を選んだ理由や意味を知りたいという気持ちはある
もしかしたらそれを知ることによって自分の存在意義を感じられるかもしれない
ってさすがにそれは大袈裟か
「そういうことだから、もし私一人の時に倒せないモンスターと遭遇したらすぐ連絡するし、なるべく一人でも対処できるようになりたいから冒険も本気でやる」
「なんか俺のせいで日枝さんもそういう状況にしちゃってごめん」
「別に大丈夫だよ。こうなると知っていたとしても私はあの扉をくぐったと思う。だってファンタジー世界に実際に行けるなんて最高だよ」
まさか日枝さんの口からそんな言葉が出るとは思わなかったが、よく考えたら彼女は自分でソーファンをプレイしていたのだ。そういう一面があったということか
「そう言ってくれてありがとう」
「だから、また扉が出たら教えてね」
「わかった」
ブブブ……
連絡先を交換中だったので手の中にある端末が珍しく、鳴った
その通知を見ながらぼそっと呟く
「家族から連絡だ。じゃあ日枝さん、また今度」
彼女は小さくうなずいた後、軽く手を振りながら去っていった
<週末帰ってこれる?>
妹の曜からだった
この前のことに関連してるのだろうか
あれから俺は色々と策を練っていた
妹の方から少しでも伝えてくれるのであれば実行はたやすい
<ちょうど忘れ物があったから今日帰る>
車で二時間もかけて帰ることは(面倒すぎて)もはやできないので
ある程度の時間を見計らって転移魔法で飛ぶ
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「で、どうした?」
夕飯が終わるころを見計らって俺は実家に帰った
綺麗に整頓されている元俺の自室に入ってきて、妹は立ったままこっちを見据えている
「やっぱりおかしいから聞きたいことあって」
「おかしいこと?」
「昨日部のメンバーといざこざあった時に、お堂のとこで変な人に会った」
割と単刀直入に言ってきたな。これはバレてるか?
一応誤魔化してはみる
「へ、へえ。変な人ね」
「なんか竜のお面みたいなのかぶって相当ヤバそうな人」
やはり変質者の扱いだ
まあそこは俺が同じ立場でもそう思っただろう
「あれ、兄だよね」
「はい」
「普段こっちにいないはずの兄が帰ってきてたし、今思い出したら声も似てた」
「いや偶然。ほんとに偶然に、あのお宮で調べたいことがあってん」
少し余裕がなくなってくると、我々は子供の頃に住んでいた関西弁が出てくる
そして……
妹の目がめちゃくちゃ細くなっている
本気で不信感を抱いてる時って人間こんな目になるんだ…
「いつからつけてきてたんか知らんけど、見たやんね?あとあのお面要る?」
「なにが?」
俺は目をそらしつつ答える
どうやら俺が妹の後をつけたという脳内設定になってるようである
不審者扱いを受けているのは不本意だが、それはそれで俺にとっては好都合だ
仕方なくその設定いただこう
「……いじめとかちゃうからね」
「ほう」
「誰が舞台に上がるかって言う話し合いでちょっと揉めただけ。気にせんといて」
なるほど?あくまでも干渉されたくないということか
でもあのリーダー格の女子はかなり曜のことに苛立っているようだったし、あの体格のいい男子をわざわざ連れてきていたのも暴力の香りしかしなかった
しばし考えていたが、今がいいタイミングだろうと判断
おれは作戦を実行に移す
「別に何のことかわからんけどとりあえず、これお守り」
俺は全然関係ない風を装って、一つの護符を出した
いびつな形の石に紐を通しただけの武骨な物だ
「え、なんなんそれ」
一瞬とまどった曜だったが、少し持ち上げて光に透かせてみせると石の中に複雑な輝きが含まれてとても綺麗なことに気づく
「マジで何も気にせず、これを学校行くときどっかに身に着けといてくれん?」
「なんか気持ち悪いこと言うなあ……まあそれぐらいやったらええよ」
そういいながら再び紐を指でつまみ、石を光に透かせて揺らしている
俺はその隙に右手を後ろに回し、指で小さく魔法陣を描いた
そして声にもならない声でつぶやく
(霊獣召喚・カーバンクル)
「それだけ。わざわざ来てもらってごめん。でも別に何もないし大丈夫やでってこと言っときたくて」
そういいながら曜は部屋を出ていこうとした
その背中におれは標準を合わせ、さらに小さく詠唱した
(霊獣の加護・対象「ミナト ヒカリ」)
そこから声を大きくして曜に言った
「あ、寝る時とかもそれ近くに置いとってな」
一瞬だけ怪訝そうな表情をして振り返ったあと、後ろに手をひらひらさせると曜は自室に消えていった
そして、そのあとを青く仄かに輝くリスのような生物がドアをすり抜けていった
霊獣カーバンクルは召喚者とそのパーティのメンバーを守護したり、回復したりすることができる
これにより何かダメージを受けたときは俺に分るようになったし、自動的に守護魔法や回復をかけてくれるし、その気になったら敵に小さな星の欠片を落とすこともできる(学校に穴が開くだろうが)
ただ召喚獣の召喚・付与にはひとつ大きな問題がある
実は召喚獣を使役している間、緩やかに付与されている者のMPを消費するのだ
それは強大な召喚獣ほど当然高コストであり、カーバンクルのコストは全召喚獣の中でもっとも小さい
召喚士になったものがまず最初に契約する召喚獣である
様々なスキルや装備を備えている召喚士であればずっと召喚していてもMPは減らないが、そうでない場合はおそらく数分で還ってしまうだろう
そこで先ほど曜に渡した護符の出番というわけである
あの護符の付与効果は3秒ごとにMPが3回復するという性能だ
しかもレベル1の者でも装備できる
それによりカーバンクルの消費コストは相殺され、俺が解除するか、カーバンクルが敵に倒されない限り永遠に守護は続くというわけだ
さあよろしく頼むぞカー君




