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第15話

天空都市トュリーヤ調査団の活動は、自己崩壊プログラム起動のあれこれで一旦幕を引いた


今回侵入した遺跡は地上攻撃を管理するエリアで資料的価値は乏しい場所であったため、あれ以上の調査は無意味であったと思われる


今後、古代王国の兵器が地上にどの程度の影響を及ぼしうるかは、さらなる調査の結果が待たれる

(まあ最終的にミッション内で使用法を知る古代人の末裔に発射されますけどね)


さて


国使団と冒険者ギルドのメンバーたちから報酬と称賛を存分に受け取った我々がまず向かった先

それはマリチの家の庭にある古代樹の根っこである


「あった……!」


そこには淡く輝く光る扉

竜退治から古代遺跡探索となかなかのハードワークであったが、扉はいつ消えるかわからないし、何より現代人の我々にはやっぱり家の布団の方がゆっくり休める


「ウ~ン」

俺がおもむろに扉の方に歩み寄った時、マリチが急に唸りだした

「見えないけど……なんかそこにあるのはわかる気がする!」


とんでもないことを言い出した


「え。そうなんか……じゃあもしかしてさわれたりするか?」

俺はドアの取っ手のところを指さした

「よし。やってみよう」

マリチは袖をまくり上げてジリジリと手を伸ばしてきた


そして……思い切って……


握る!


ドラゴンの角をもへし折るそのパワーで!




すかっ


「はうっ」

「無理だったか」

「マリチさんには感知できないんだ…」


マリチは基本的にポジティブで自信家である

憮然とした表情はしているが落ち込んだりはしない


魔妖精族の女性の気質が元々陽気で好奇心旺盛だというのことも関係あるのかもしれない


「むむむ。ずるい」

「まあ、またすぐ戻ってくるよ」

「行ってらっしゃいなの」


うしろで手を振るマリチに日枝さんはお辞儀をして

俺たちはドアをくぐった


くぐってから思ったが、そういえばこの前は空に出て落ちたんだった

うかつに飛び込んでしまったが果たして……


‥‥‥


ん?なんだか薄暗い場所に出たな

足場もきちんとある


ギシィ


なんだか古い板の間のような床

周りをよく見ると隙間から光が差し込んでいる

つまり木造の古い建物の中ってわけか


そして……一緒に扉をくぐったはずの日枝さんの姿はない

扉で世界がつながっているというよりも扉のような形をしている転送装置で、どこに出るかはそれぞれバラバラなのか?



歩くたびにギシギシと床が鳴り、なによりとてもカビくさい

密閉性が低く小さな光がたくさん差し込んできている部屋だが、一か所だけは細く縦に筋状の光が入ってきているので、あそこが扉なのだろう


俺はゆっくりと近づいて行った

と……


「……。……!……」

誰かが話す声が聞こえる


扉の向こうに複数人の気配がする

……どう考えても先ほどまで無人だったと思われる場所から急に人が出てきたら不審がられるだろう


俺は小声で、自分が発する音をすべて遮断する魔法を唱えた

元々は聴覚反応のモンスターを回避するための魔法だが、現代社会においてこれほど有用な魔法はないだろう

同時に周囲からの視覚を遮断する魔法も使いたいところだが、こちらはわずかな衝撃でも魔法が解けてしまう為、使いどころを考える必要がある


とりあえず聞き耳を立てる


「あんたみたいなのが皆の和を乱すんだよ」

「分かったら部、やめてくんない?」

「うざすぎるし」

「……」


ふむ。これは……学生のいじめかなんかの現場では?

話だけ聞いてる限り、女子3人が一人の女子を糾弾している構図か


どうしたものか

基本的に人間関係ってどちらにも言い分があり、部外者が立ち入るべきではないと思っている

もちろん過剰な加害行動などがあるならそれを止めるべきなのだろうが、他人が余計な干渉をするのは必ずしも正しいとは言えない(という持論が俺にはある)


しかしさすがにいつまでもここで待たされるわけにもいかない

音遮断魔法のすごいところは、俺が関わって出した音も狭い範囲であれば効果があるところである

ということで、軋む扉を少しだけ押し開ける


む。女子生徒3人のほかに大柄な男子生徒も1人いる。これはなんだ。威圧する役か?


そしてよく見ると妙に見覚えのある制服だ

これは俺が昔通っていた地元の高校のもので……現在俺の妹が通っているところのものだ


って、ひかり?!


いじめ?られていると見受けられる女子は俺の5つ下の妹、みなと ひかり


曜は高校二年生だ。彼女が高校に入った頃から俺たち兄妹はそれほど絡みが無くなり、それほど仲のいい兄妹というわけではない

とはいえそれは成長して独り立ちしていく過程でお互いを尊重してのことであり、別に仲が悪いわけでもない


ただ……いじめのような行為が本当にあるのなら話は別だ

兄として手助けをする気概はもちろんある


ゆっくりと扉を押し開け、身体がギリギリすり抜けられる幅を作ったところで俺は視覚遮断の魔法をかけゆっくりと身体を外に出す

幸い少し距離があるようでこちらに気づいた者はいなさそうだ


なるほどここは小さなお堂の中で、ここは人気のない境内というわけだ


そしてゆっくりと声が聞こえる距離までじわじわと近づいていく


なんか……一方的に罵っているだけで、妹の曜は何も言い返していないからよくわからない

しかし話しているうちに3人組の女子の方は徐々にヒートアップしてきて険悪なムードになっている


これはよくないな。少し暴力の香りがしてきた

どんな事情があるにせよ兄として行動を起こす必要があるかもしれない


……

少し悩んだ結果

俺は頭部分の装備だけ可視化し、フルフェイス兜に変えることにした

これなら行動を起こしたとしても誰かはわからないからいいだろう


身体は普段着のままなので突然現れた仮面かぶった変態って扱いになるがまあ仕方ない


リーダー格っぽい女子が曜のネクタイを掴む

それに抵抗すると、今度は別の女子がカバンを取り上げようとする

それを思いっきり振り払って逃げようとしたところを後ろで見ていた男子が遮った

5人の男女に囲まれる形になった曜


リーダー格の女子が右手を少し上にあげ、攻撃姿勢を作りかけたところでさすがに諦めた


「視覚妨害魔法、範囲化」

範囲魔法の素晴らしいところは、俺が脳内で敵と認識している対象にだけかかることだ


「うわ!!なに!!?」

「急に目の前が真っ暗なんだけど!!!」

「何しやがった!?」


「え…?」

急に自分たちの顔を抑えて悶える相手に動揺する曜


そして突如目の前に現れた厳ついマスクをかぶった俺(バレてない


敵対行動をとると視覚や聴覚を遮断する魔法は解けてしまうので

魔法が解けてしまうのは仕方ない


「だ、誰!!!??」


まあ仕方ないわなこの反応

収拾のつけようがないのでとりあえずボソっと

「ひとまず逃げろ」


とだけ言った


不審者の発言に一瞬、怯えたようにも見える怪訝な表情を浮かべたが、曜は一瞬だけ振り返ったあとそのまま道の向こうにあると思われる階段を走って降りていった


ようやく落ち着いて周囲を見渡すと、そこは俺の実家がある街の高台にある神社の奥宮だ

祭りの時とかでもない限り普段は人気はなく、まれに犬の散歩や放課後の学生が立ち寄ったりする程度だ


さて。

相手を暗闇状態にする魔法の効果はそれほど長くない


魔法の発動と同時に出現した俺の姿を彼女らはまだ誰も見ていないであろう

となればさらにややこしくなる前にここから去るべきだろう


「転移魔法・実家」


俺は掌の上に呪符を発言させ、そのまま転移した


ソーファン世界とは違って、こちらの世界で転移を行うにはかなり強いイメージの場所でにしか行けないらしく、今のところ行けそうなのは独り暮らしのアパートの自分の部屋と、実家ぐらいのようだ


いきなり部屋の中に出現して中に誰かいても説明がめんどいので、とりあえずは玄関の前に移動し、竜鱗兜を「表示しない」に切り替えてから玄関に入った


幸い家には誰も居なかった


そして妹の曜はまだ帰ってきていないようだ

まあ、どう考えても俺の方が早いからな


まつこと十五分ほど


「ただい……え、お兄?」

「よう」

「大学じゃないの?」


これは今の時期は大学のある遠くの地方にいるはずでは?という意味である

とはいえ片道3時間ほどの距離の場所で一人暮らしをしているので、急に戻ってきていてもそこまでの異常事態ではない


「忘れ物があって寄っただけなんだけどさ、それよりも」


俺は妹の全身を一瞬だけ観察して違和感のあるところを探した

が、特に怪我とか痣がある等はなく、仕方なくカマをかける


「なんか最近母さんから曜が疲れてるみたいって聞いたんだけど、学校でなんかあった?」

「え?別に」


俺と妹の通う学校は地元ではそこそこの進学校である

地味キャラの俺とは違って曜は交友関係も広く、確か茶道部と演劇部を兼部していたはずだ

たしか演劇部は後から誘われて入ったとか聞いたような


確かさっき揉めてた時、部がどうのこうのって言われてたからその辺か?


「まだ部活あんの?もうそろそろ引退する頃じゃ」

「……秋まではまだあるよ。次の学祭でまた役で出てくれって言われてさ」


一瞬の間があった。そして頭の中で言葉を選んでいるような口調だ


「勉強も忙しいのに大変だな。そこでなんかあった?」

「え?」

「いや、あんまり役はしたくないって言ってたのに大変だなって思って」

「あー、そういうことね。まあ、役は人数が限られるからね」


友人の誘いでそこまで前向きでもなく入部した演劇部の方は、実際に人前で演技したりはそこまで好きではないらしく、もっぱら裏方での活動が中心とは以前から聞いていた

と、いいつつメインではないものの何かしらの役を与えられることが多く、稽古が大変とも


察するに。役をもらって活躍したい部員を押しのけて、さほど目立ちたくないと言っている者が役をもらって舞台に上がるという事が部員同士の軋轢を生んでいるのだろうか


「そっか。まあなんかあったら言ってくれよ」

「え?あはは」


曜は少しだけ心無い笑みを浮かべると、自分の部屋に入っていった


隠したな。という事はまだ干渉されたくないという事だ

なんならあの時に会ったはずの変態マスク(俺)のことも隠したということは、あの出来事そのものが周囲にバレたくないという事だ


ならその意思を尊重しよう

ただ、何かあった時はすぐに言ってほしい

今なら強いので



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