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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
勇者村
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第五十話 距離感

 ──勇者村へと足を踏み入れてから、約三十分後。

 俺とネムは鞄に入ったままのドラを引き連れ、手頃な宿屋を探していた。


「それにしてもいい人でしたね。タツキさんからの贈り物も喜んでくれましたし⋯⋯旅行の幸先良し、です」

「ああ、ディントンさんから貰ったやつか。他人に幸せをお裾分けするっていう物らしいし、感謝の気持ちを表すにはピッタリだろ?」


 つい先日貰ったばかりのものをまた別の相手に渡すというのは少し気が引けるが、元よりあの石細工はそういう使い方をするものらしいし。


 ノインゼリゥの渡り鳥を渡した後、謎の長身(オネェ)とは普通に別れた。

 まあ、人の時間を無駄に使わせるわけにはいかないからな。当たり前の流れだ。


「で、馬車を馬ごと預けてきたは良いけどよ。これからどうするよ、ネム?」

「まずは宿泊先を探さなきゃですね。夜ご飯に関してはルーケンブリッグで買っておいたものが残ってますから」

「あー、そっか。んじゃあ勇者村での美味い飯探しは明日に回すとすっか」


 俺達は泊まることの出来る宿を探すため、勇者村の中をぶらぶらと歩くことに。

 しばらく足を動かしていると、ネムが口を開いた。


「そういえば、先程のお姉さん(謎の男)が言っていたのですが。どうやら勇者村には大きく分けて二つのエリアがあるようなんです」

「二つか。また商業区とかそんな感じか?」

「半分正解です。えっとですね、まず一つ目が"観光エリア"。観光客が入ることの出来る区画で、この中にタツキさんが考えるような商業区が含まれています」

「へえ。随分大きい分け方だな」


 なるほど、と俺は頷く。

 "観光エリア"とやらについての説明から察するに、もう片方のエリアは一介の観光客には入れぬエリアなのだろう──そう当たりをつけつつ、ネムの話に耳を傾ける。


「今私達が歩いているこの場所も、当然観光エリアの中ということですね。そしてもう片方のエリアに関してですが⋯⋯」


 彼女は、ちらりと俺の顔を一度見て。


「⋯⋯"観光不可エリア"と言って、国に召喚された勇者の方々とその家族しか入ることを許可されていない区画があるそうです。つまりはタツキさんと同郷の方々が暮らす居住区、と言えば良いのでしょうか?」

「え、何だその場所。今すぐにでも行ってみたいんだが」


 高層マンションとか建ってんのかな。いや、そんなの建ってたらこの場所からでも目視できるか。

 エリア内に入ることが無理だとしても、近くに行けば中を覗いたり出来ないだろうか、なんて事を考えていると。


「あ。タツキさん、ここから先の区画に宿があるみたいですっ」


 隣を歩くネムが指さす先。

 そこには確かに、真っ直ぐ行けば宿泊施設の並ぶ区画がある事が簡易的な宿屋の絵と共に表記されていた。


「宿なぁ。旅館にホテル、ついでにネットカフェとかが頭に浮かぶけど。相場とかってどうなってんだろーな」

「デイシャさんから聞いた話だと、そこまで高くは無いらしいですよ?」

「あの人、来たことあんのかよ⋯⋯」


 まあ、いつも冒険者として世話になっている相手だ。情報源としては確かなものだろう。


「そういうことならさっさと行こうぜ。個人的には旅館がいいな、温泉が有ればなおよし」


 足を動かすペースを早めつつ、異文化入り交じる不思議な街並みの中を俺達は並んで歩くのだった。





 現代日本において、計画立てて行動するというのはほぼ必須と言っても過言では無い能力だ。

 例えば「来週は遊ぶ予定があるから週末は空けておく」だとか、「今日は雪で混みそうだから早めに家を出よう」だとか。そうしなければ確実に後で面倒なことになる事がわかっているのだから、理にかなってはいる行動だ。


 兎にも角にも、先のことを考えておくというのは後々の面倒を回避するためには重要な事柄である。

 そして現代日本とは程遠いこちらの世界においても、前述した内容には気をつけるべきだったようで。


「申し訳ありません。現在、空き部屋がひとつしか無く⋯⋯」


 俺とネムの目の前で、カウンターテーブル越しに女性が申し訳なさそうに頭を下げていた。

 別にそこまでは良かった。新しい宿を探せば済む話だから、なんの問題も無い。

 そう、新しい宿さえ捜せば問題ないはずなのに。


「二人部屋ですか? それならその部屋で大丈夫ですっ」

「かしこまりました。滞在期間はどの程度でございますか?」

「ええと、ひとまず五日ほど⋯⋯」

「──ちょっ、ネム!?」


 あろうことか、借りる部屋はひとつで良いとネムが受付の人へと言い出した。


「た、タツキさん? そんなに慌ててどうしたんですか?」

「いやいやいや。流石に泊まる部屋は別々の方が良いんじゃねーのかよ」

「うーん⋯⋯私は気にしませんし、大丈夫ですよ? それに二人部屋を借りた方がきっと安く済みますから、お得ですっ」


 圧倒的な価値観の違いは、異世界間における文化の違いから来るものか、はたまた目の前の彼女が一時期陥っていた金欠状態からの経験によるものか。

 その問いに対する答えが何にせよ、困ったことになったと頭を抑える。


 極論、宿なんて取らずに野宿するなり、俺の場合はシルテットの家へと夜の間だけ一旦戻るなんて手もあるが。

 しかし折角の旅行の最中なのに家へと帰ってそこで寝泊まりするなんてのは、興ざめも甚だしい。


 ⋯⋯そして何より、だ。

 結局のところ、思春期男子が持っていて然るべき"興味"という名の下心。それがただひたすらに俺の中に有る判断能力を揺さぶってくる。

 ネム自身が良いと言っているのだから、同じ部屋で寝泊まりしたところでさしたる問題は無いのだろう。

 ならば、別に良いのではないか──だなんて。

 最近は麻痺しかかっていた普通の男子高校生的な感性が、俺の中に再び現れるのを感じていた。

 その原因は十中八九、この勇者村という故郷を思わせる地に来たこと。街並みに目を向ければその度に懐かしい気分になるのだから、当然の現象だ。


「あー。うん、そうね。お得だってんなら、そうかもしんねぇ」


 今まではどこか俯瞰的に過ごしていたこの世界での日常。まるで夢でも見ている感覚にも近い、そんな毎日を送っていた。

 が、たった今。急に肩を捕まれ地面に叩きつけられたかのごとき勢いで、俺の意識は現実に向けられることに。


 同じくらいの歳の異性とひとつの部屋で過ごす。

 そんなイベント、男子高校生からすれば逃すわけにはいかないはずの展開で──、


「お客様、お客様」


 ふと、目の前から聞こえた声に思考をやめる。

 俺が顔をそちらへと向けると、


「大変申し上げにくいのですが、他のカウンターにて別のお客様が最後の一室に入られてしまって⋯⋯」


 気まずげな表情を受付の女性から返される羽目に。

 続けて、


「もし、お客様がよろしければ他の宿に空き状況を確認致しますが。どうなさいますか?」

「あっ⋯⋯お、お願いします」

「かしこまりました。直ぐに確認してまいりますので、少々お待ちください」


 なんということか。

 どうやら俺は無駄に悩みすぎたらしく、恋愛漫画にあるような良イベントを逃してしまったらしい。


「あはは、ちょっと遅かったみたいですね。⋯⋯あれ、タツキさん?」

「⋯⋯⋯⋯いや、大丈夫だ。大丈夫。⋯⋯ほんと遅かったな、ってな⋯⋯」


 真横で唐突に項垂れた様子を見せた俺に対し、こてんと首を傾げるネム。

 そんな可愛らしい仕草すら、今の俺の心には虚しく映る。


 と、まあ。こんな感じで、勇者村で過ごす時間は過ぎていく。

 この後は結局一人部屋を二人分借りることとなり。夜中、自分が思いのほかネムのことを異性として認識していたことに気が付き悶々としたりもしたのだが──それはまた、別のお話。

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