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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
勇者村
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第四十九話 入ってみよう、勇者村

 昼飯を食べ終えてから軽く休憩したのち、さらに八時間ほど経った頃。


「ここが勇者村の入口か⋯⋯つっかれたぁ!」


 日は既に沈み切り。

 頭上には満天の星が広がるその下にて、俺は両腕を思いっきり突き上げながらに清々しい笑みを浮かべていた。


「お疲れ様です、タツキさんっ。お水、飲みますか?」

「飲む飲む。⋯⋯っと、その前に一番頑張ってくれたコイツに飲ませてやってくれ」


 明らかに一番の功労者である、名も知らぬ馬を撫で回す。

 すれば馬は小さく嘶き、擦り寄るようにして首を捻ってきた。可愛い。

 ──と、戯れるのもここまでにして。


「そういや此処ってサラマンドラ王国外なんだよな。入国⋯⋯入村審査とかってのはねぇのか?」


 視線の向く先には、舗装された道路。さらに奥の方を見れば勇者村とその外を分割する石の塀。

 高さはそこまであるように見えず。やろうと思えばよじ登って侵入出来てしまいそうな、そんな塀が長く長く横に広がっている。

 門兵も居らず、はたしてこのまま進んでいいのかと不安になってしまうのは日本人の性だろうか、なんて思っていると。


「⋯⋯こーんな道のど真ん中で立ち往生して、どうしたのかしらぁ?」


 俺達の乗ってきた馬車の後方から声がかけられる。

 振り向くとそこには見知らぬ長身の男性が、腰に手をあてたポーズで立っていた。


 男の背後には六台もの馬車が控えているというのも気になるが──それよりも気になってしまうのは、彼の顔面。

 その端正な顔立ちには女性らしい化粧が施されており、ローズ系カラーの口紅が塗られた唇から放たれるテノールボイスが印象的だ。


「あー⋯⋯俺達初めてココに来たんすけどこのまま入っていいものか分かんなくって。勝手に馬車で入って不法入国的な扱いを受けるのは嫌ですし⋯⋯」


 初めて話すタイプの人種にしどろもどろとしながらも、折角こうやって話しかけてくれたのだから、と状況を伝えることに。


 幸い、謎の男は全く迷惑そうな素振りを見せることなく。むしろ愉快そうな表情で、


「あーら、やっぱりそういうコト。んふふっ、分かるわその気持ち! 確かに変よねぇ、国との境目には薄くて低い壁が一枚だけだもの。アタシも初めて来た時は素通りしていいのかしら、って悩んじゃったわ!」


 男は口角を目一杯に吊り上げ、共感を示す。

 続けて目を細め、


「けど、百聞は一見にしかず⋯⋯あ、世間一般に勇者って呼ばれてるコ達の国の言葉よ。簡単に言えば聞くより見た方が早いってイミね」

「や、それは分かるんすけど──」

「あら博識! まあとにかく不安ならアタシ達の後ろに着いて来なさい? 面白いモノが見れるわよぉ?」


 最後にウインクをして、男は自らの馬車へ向かった。


 さて、どうするか。

 俺は後ろへ振り向き、今の会話を聞いていたであろうネムへと視線を送る。

 座席のある車内で灯されたランタンの明かりに照らされながらに、彼女は頷く。どうやら謎の男を信じてみることに異論は無さそうだ。


「じゃ、着いてってみるか。オネェキャラに悪いヤツはいねぇだろ⋯⋯知らんけど」


 この世界の住人にはお人好しが多い。

 ネムに然りロヴィスカルに然り、他にも沢山。

 いつかこの先、お人好しのフリをした詐欺師に出会ったらコロッと騙されてしまいそうな程には危機感が緩んでしまっている。そんな気がしてならない。


 ⋯⋯けれども自覚があるだけまだ良いほうか。気はいつだって引き締め直せるしな。

 御者台に再度乗り込み、道の端へと馬車を寄せる。

 すれば六台の馬車がゆっくりと横を通り過ぎ、俺達を先導するかのごとく直進。


「さ、俺らも出発するぞ」

「了解ですっ。ドラちゃんは鞄の中に入っててくださいね? ⋯⋯うん、いい子いい子」


 がたんがたんと音を立て、馬車が動き出す。

 馬という種がそもそも賢いのか、それとも今目の前にいる馬が賢い個体なのか──発進すると同時、俺達の乗っている馬車は目の前を走る六台の後ろに着くような位置を指示するまでもなく維持しだしていた。


 この分だと馬への指示を出す必要もあまり無さそうだ。楽で助かるな。


 先頭をゆっくりと走る馬車のかがり火を目印に、俺達も着いて行く。

 列をなして進むこと、ほんの数十秒。

 ふと、変化が訪れた。


「⋯⋯あれ。一番前の馬車が消えたぞ?」

「えっ、馬車が消えたって⋯⋯火が消えたとか、じゃなくてですか?」

「違う違う! あの勇者村との境目の壁を越えた瞬間、馬車が消えたんだよっ。ほら、前から順に次々と!」


 左手を手綱から離し、前を指さす。

 車内に座るネムからは見えない位置だろうが、慌てている俺にはそんな事考える暇もない。


 かと言って着いて行くと決めた手前、今更馬にストップの指示を出すわけにもいかず。


「⋯⋯チッ、俺らも行くしかねぇな。腹括っぞ、ネム!」

「わ、分かりましたっ」


 すぐ目の前を走る馬車も消え、俺達の乗る馬車を引く馬も鼻先から順に前から音もなく姿形を消していく。まさに、()()()()()()()()()かのごとく。


 異常事態に腰が引ける。

 が、空中で途絶えてしまって見える手綱は異空間の先で繋がっている感覚がある。

 どうやら壁の向こうは、単に魔法か何かで見えなくなってしまっているだけなのだろう。


 瞬く間に、俺自身の身体も段々と壁の向こう側へと飲み込まれ。


「ちょっ、腕が消え⋯⋯⋯⋯ん?」


 気が付いた時には、全く見知らぬ場所にいた。

 眼前に広がる街並みは初めて見る景色──否、どこか見覚えのある、しかしかつて見た事のない景色。


「白線のひかれた紺色の道路に、その両左右を繋ぐ横断歩道。ココが勇者村⋯⋯っていうか、日本の街中?」


 既視感。

 その三文字が視界を埋めつくしはすれど、圧倒的な違和感が拭えない。


 思えばそれは当然のことだろう。

 なにせ道路を走るのは鋼鉄製の車などではなく馬車であり。よくよく観察してみれば、電信柱の一本すら立っていない。

 結局は日本の街並みを真似ただけの場所であると、実際に日本という地で生まれ育った俺には分かってしまう。

 そんな点から生じる違和感が、俺の目をチカチカとさせる。


「ほぁあ⋯⋯此処が勇者村、ですか。まるで異世界です」


 ちらりとネムの方を見やれば、感嘆するような息を吐きながらに目を輝かせていた。


 それにしても、"まるで異世界"か。

 ネムからそんなセリフを聞くのは、なんだか複雑な気持ちというかなんというか。不思議な気分だ。


「タツキさん、あっちにあるひし形の網は何ですか?」

「どれだ⋯⋯あー、フェンスのことか。街中だったりで事故が起きた時の衝撃を和らげたりするやつだったと思う」

「タツキさん、タツキさん。道端に背の高い木が植えられているのは何ですか?」

「街路樹ってやつだな。植えられてる理由はわからん。つーか街路樹くらいこの世界にもありそうなもんだけど⋯⋯っと、馬車停めるぞ」


 街並みに関する質問へと答えているうちに、どうやら馬車用の停留所へと辿り着いたらしい。先を進んでいた馬車の列が左に寄っていき、縦列駐車の要領で並んでいく。

 俺もその流れに続いて後方へ。

 操縦に不慣れなこともあって上手く列を乱さずに停車出来るか不安だったが、見よう見まねでなんとか停車。やや斜めになってしまったが、まあそれは仕方ない。後でネムに修正してもらうとしよう。


 というわけで、無事に勇者村の中へと入れたこともあって御者台を降りる。

 すると、


「どーぉ? 驚いたでしょ。アタシも最初に来た時はビックリしちゃったもの」


 俺達を先導してくれた謎の男がすぐ側までやって来て、女性的な言葉遣いのままに話しかけてくる。


「あ、さっきのお兄さん⋯⋯オネェさん? とにかく助かりました。多分あのままだったら、俺ら二人して野宿してたかもしんなかったです」

「いいわよぉ、お礼なんて! アタシ達は道を譲ってもらって、アナタ達は後ろを着いてきただけ、ね?」


 語尾にハートマークが付きそうな口調で話す、目の前の(オネェ)

 しかし、謙虚な人だな。俺達に恩を売ったなんて感情、一切無さそうだ。


「私からも、ありがとうございました。⋯⋯ところで、お姉さんは何回か勇者村に来たことがあるんですか?」

「んふふっ、可愛いコねぇ。食べちゃいたいくらい! ち・な・み・に、アタシは観光で四回くらい来たことがあるだけよ」

「四回も!? 羨ましいです、凄いですっ」


 ネムも馬車から降りてきて、話に花が咲く。


「あ、そうだ」


 ──いいお礼、思いついた。

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