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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
勇者村
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第四十八話 再度の出発

 翌朝。


「──朝飯も食ったし睡眠もバッチリ。今なら馬車の操縦もドンと来い、ってな」

「最初からタツキさんが操縦するんですね。疲れたら交代するので、その時は言ってくれれば」

「了解」


 昨日と違って御者台に座るのは俺一人。

 馬が引くことになる座席部分に座り込むのは、ドラの入った鞄を持ったネムだ。

 そしてもう一人、


「帰りもまたこの街に立ち寄るなら、そん時はワシの工房に来い。日中はほとんどあそこに篭っとるけぇの、土産話でも待っとるぞい」


 停車中の馬車を見上げるようにして立つのは、昨日知り合ったばかりの石大工であるディントンだ。彼がこの場にいる理由は単純で、俺達を見送るためだった。

 俺とネムが昨日のお礼と称し、ディントンがオススメしていた店で売られていた出来たてのパンを届けたのが、つい三十分ほど前のこと。

 ディントンと合流してからの三十分間、俺は御者台に乗って馬車を操縦。その間、ディントンにはネムとドラと共に座席の方へと乗って貰っていた。


 この街、ルーケンブリッグにはミステリアと違って朝市が無かったために、お礼の品を選ぶまでに少しばかり時間がかかってしまい──結果、時刻は地球上で言ったところの午前九時くらいに。

 別に街を出る時間を細かく決めていたわけでは無かったが、なんとなく想像していた予定よりかは少し遅くなってしまった。



 ちなみに現在地はルーケンブリッグの南東方面。勇者村へと繋がる大橋のスタート地点である。


「帰ってくるとしたら一週間後⋯⋯あー、五日以上先ってことになりますね。その辺はネムに決めてもらう事になってますけど」

「くかかっ。ま、ワシはのんびりと待っとるわい。存分に楽しんで来るんじゃぞ」

「「はーい」」


 こんな会話を交えつつ、手綱を握っていつでも出発できるように心の準備も済ませておいて。


「じゃあ行ってきます、ディントンさん。⋯⋯出発するぞー、ネム。スピードはあんまり出さないようにすっけど、一応気を付けとけよ」


 背中側に居るはずのネムへと声をかけ、手綱を左右同時に力いっぱい引く。発進の合図を先頭の馬へと伝える動きだ。

 すればゆっくりと馬車が前へ進み始める。速度は一定で、歩くようなスピードを維持したままにルーケンブリッグと大橋を隔てる門を通り抜ける。


「停止する時が右の手綱を三回、力強く。スピードアップの時は右、左、右⋯⋯ゲームのコマンドっぽくて覚えやすいんだよなぁ」


 向かい風を感じつつ、そんな事を呟く。

 どうやらこの世界における馬車の操縦方法は基本的に一種類しかないらしい。地域によって微々たる違いはあれども、国が決めた規約に沿って馬は調教されるそうで。


 まあ、確かにそっちの方が便利だよな。

 もし規格で定められていないとすれば、乗る度に毎回のごとく操作方法が変わってしまうわけだし。そうなれば事故が多発どころの騒ぎじゃなくなること請け合いだ。


「⋯⋯っと。そろそろ門を抜ける頃合だぜー、ネム。大橋も見えてきたぞ」

「大橋! 見たいです、見たいですっ」


 よっぽど興味があったのか、馬車の窓から身を乗り出すようにして前方を見ようとするネム。


「そんなに身体出して落っこちんじゃねーぞ。どうせ御者を交代する時にでも見れるんだしよ」

「あうっ。⋯⋯そうですね、はしゃぎすぎました」

「いや、別にはしゃぐのが悪いってわけじゃねーんだけどな? 俺だって初めての馬車ん中じゃ大騒ぎだったろ」

「確かにそうでしたね。ふふっ、少し子供っぽくて可愛かったですよ?」

「はっず⋯⋯」


 まさに旅行中と言った感じの会話。

 子供っぽいのはお互い様だろ、なんて思いつつ、


「そういや街を出る時さ、後ろにディントンさんと乗ってたろ。俺は馬車の操縦中でよく聞こえなかったけど、何か面白い話でも聞けたのか?」


 どうせなら、と。

 俺は話題の方向性を変更。趣旨を切り替えにかかる。

 とは言えネムとディントンが話していた内容は特に知らないのだが。タイミングがタイミングだけに、大橋についての話をしていたであろうことは察することが出来る。


「あ、そうですそうです! 実はあの時、この大橋がどんな風に造られたのかだとか、どんな逸話があるだとか。とにかく沢山お話を聞けたんですよ。どうせならこの旅路の合間に、タツキさんにも色々教えてあげますねっ!」

「いいね、そりゃ楽しみだ。のんびり話しながら向かうとすっか」





 ルーケンブリッグを出発してから、約二時間。

 勇者村までの進行度合いとしてはまだまだ序盤とも言える、そんな道中にて。


「へぇ。つまり、この橋ってのはドワーフにとっちゃ神聖なものなのか」

「ですです。ドワーフ族からの呼び名は"不壊(こわれず)の大橋"。建造されてから三百と五十年もの間、一度たりとも倒壊箇所の出ていない奇跡の橋だそうですよ?」

「すげぇな⋯⋯いや、俺は素人だから具体的にどのくらい凄いのかは分かんねぇんだけどさ」


 俺とネムは、今まさに馬車で走っている大橋についての知識を共有している真っ只中であった。

 晴天の下、湖畔から吹き付ける冷たい空気が心地いい。

 ⋯⋯ぶっちゃけ知識の共有とか言っておきながら、俺から出した知識は微塵もないが、そこには目を瞑って貰うとして。


「にしても長ぇなこの石橋。何キロあんだろ」

「キロという単位はよく分かんないですけど、馬が歩く速度で丸一日かかるとは言われていますね。走らせれば半日と少しといった感じらしいです」

「馬の歩く速さってーと、だいたい時速が七キロくらいか? ⋯⋯てことは百五十キロ以上の距離あんのかよ、この橋」


 マジでどうやって造ったんだよ、そんな巨大な建造物。


 異世界の技術というものに改めて恐怖に近しい何かを感じつつ、俺は件の石橋を観察してみる。

 横幅は十メートルほどで、今乗っている馬車が横並びで三台は走れそうな幅だ。その両サイドには落下防止用の石壁が積まれており、そちらの高さは一メートルより少し高いくらいか。

 ただ、馬車を走らせていると時折壁が途切れているのを見ることがあり、そういった場所には決まって休憩所らしきスペースが横方向に突き出るような形で設置されているようだ。


 それらの光景を見て、「何だか日本の高速道路を思い出すなー」などと思っていると。


「⋯⋯そろそろ交代しましょうか? 私が馬車の操縦をするので、タツキさんは座席の方にどうぞ」


 俺と同じく外を眺めていたネムから、御者を交代する提案が挙げられた。


「ん? ああ、そうだな。あんま疲れてねぇけど、そういう事ならお言葉に甘えるとすっか。とりあえず次の休憩所に着いたら停めるわ」


 馬の走る速度を少し早める。

 当然、稀にすれ違う通行人には気を付けながら。


「──お。ちょうどいい所に休憩所見っけ。ついでに交代がてら昼飯食おーぜ、ネム」

「あっ、もうお昼ですもんね。ルーケンブリッグで買っておいたお弁当、準備しちゃいますねっ」


 普段と大して変わらない会話を交わしつつ、のんびりとした旅路を続けるのだった。

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