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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
勇者村
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第四十六話 ルーケンブリッグ

 野を越え丘を越え──初めて馬の手綱というものを握ってみてから、半日近く。


「やぁ⋯⋯っと着いたぁ、ルーケンブリッグ!」


 中継点の街では休憩を挟みながらに馬車を走らせ、ようやく本日の目的地である勇者村への架け橋となる地、ルーケンブリッグに到着。


「んんっ、流石に腰が痛くなりましたね。お疲れ様でした、タツキさん」

「腰っていうか尻が痛ぇ。ついでに言うと、ずっと手網を握ってたから両手とも関節がミシミシ鳴いてやがる。⋯⋯お、回復魔法」


 俺とネムが揃って疲労感を訴えると、ネムの膝上に乗っけられていたドラが淡い光を放つ。すれば身体中の軋みが少し和らぎ、失われたスタミナは回復しなかったものの、疲労感の増大は収まった。


 しかし本当に優秀だな、ドラ。

 言葉を理解出来るどころか気を遣うことまで出来るなんざ、もう一端の人間と変わらないだろう。


 そんな風に心の中でドラを褒めつつ、


「⋯⋯にしても、中々無機質な街っつーか。全体的に灰色成分多めな所だなぁ」


 ぐい、と両腕を上方向に突き上げて伸びをし、辺りを観察。


「ですね。初めて来ましたけど、石造りの建物ばっかりです」

「あー、だから街自体は灰色一色なのか。つってもまあ、活気はあるな」


 時間が時間だけに薄暗いが、街灯の役割を為す魔道具に照らされた街並みには人々の往来がしっかりとあった。

 全体的に筋骨隆々の男が多い印象を受ける、そんな街だ。


 と、そこで。


「──おろ。アンタら、勇者村への観光客けぇ」

「ん? ⋯⋯おわっ、()()()()。初めて見た」

「くかかっ、そんな驚くことでも無いわ。この街は石大工の街じゃけぇのお。ドワーフの十人や百人、探しゃ簡単に見っかるわい」


 御者台の斜め下から見上げるようにして話しかけてきたのは、背丈の小さな髭モジャのお爺さん。

 この世界特有というよりも異世界ファンタジー定番の種族であるドワーフのお爺さんが、見るからに数百キロの重さがありそうな柱状の石材を肩に担いで立っていた。


 なるほど、石大工の街。

 目の前の彼を見れば一目瞭然。なんならこのルーケンブリッグという街が石造りの建物ばかりというのも、簡単に納得がいくほどの光景だ。


「あ。そういえばルーケンブリッグが出来たキッカケって、確か⋯⋯」

「嬢ちゃんは知っとるようじゃのぉ。勇者村へと繋がる大橋がこの地から架かったのが、三百と五十年近く前。その時に余った石材を使うて造られた街が、この石大工の都とも呼ばれるルーケンブリッグじゃい」


 長い髭の蓄えられた顎をさすりながら、ドワーフのお爺さんはけたけたと笑う。


「ま、さして観光するような名所も無いがのぉ。ワシらみたいな根っからの大工でもなけりゃあ、つまらん場所じゃて」

「そっすかね。石造りの街って、それはそれで目新しいから見ていて楽しいっすけど」

「⋯⋯ほう。ほうほう! 嬉しいことを言ってくれる若モンじゃのぉ! いよぉし気に入った。滞在期間はどんくらいけぇ、こんワシが石大工の都を案内しちゃる!」


 嬉しそうに目尻を下げるお爺さんを前に、俺は何と答えるべきか迷う。

 こうやって好意的に接してくれる相手の提案を無下にするのは好きじゃない。だがしかし、俺とネムの予定としては明日の朝にでもルーケンブリッグを発つ気なわけで。


「あー⋯⋯すっげぇ残念なんですけど、滞在すんのは明日の朝まででして。馬車のレンタル期間もあるんで、長居は難しいというか」

「⋯⋯ほんなら仕方ないのぉ。残念じゃて⋯⋯」

「いや、決して本当は興味無いとかそんなんじゃないんすよ!? だよなぁ、ネム!」

「えっ。は、はい。タツキさんの言う通りですから、元気を出してくださいっ」


 あからさまにシュンと落ち込まれ、俺はネムと共に慌てて慰めにかかる。


 ──ああもう、心臓に悪いな。こちとら、お爺ちゃんとかお婆ちゃんとかには笑顔でいてほしいと思うタイプの人間なんだよ。

 いやまあ別に、そんなの当たり前のことだけどさ。

 さてさて、どうやってこの状況を切り抜けるべきか。


「⋯⋯えと、タツキさん。今日の夜は特に予定もないですよね」

「ん、無いな。なんなら今から予定が出来ることになるけど、ネムはそれで良いか?」


 俺の問いに、ネムが素早く頷いて返す。


「よし、そんじゃあお爺さん。まだ夜は続くんで、色々と紹介して貰っても良いですかね?」

「い、今からけぇ。ワシは大丈夫じゃが、アンタらは⋯⋯」

「俺らも大丈夫なんで、お気になさらず。旅行ってのはほら、旅路も楽しむもんですし」

「⋯⋯本当に出来た若モンじゃのぉ。ますます気に入った!」


 お爺さんは目を丸くしたかと思えば、ぶ厚い胸をドンと叩いてこちらへと向き直る。

 次いで手を口元に軽く咳払いをしてから、


「このワシ、ディントンが責任もってこの街を案内しちゃる。ワシは荷物を家まで置いてくるからぁよ。アンタらも馬車を宿に預け次第、早速出発じゃい!」


 大口を開け、意気揚々と笑ったのだった。





「ほれ。此処がこの街のシンボル、"石秒針の時計塔"じゃ」

「うわ、すっげぇ。時計の細部まで全部が石で出来てやがる⋯⋯重量バランスとかどうなってんだコレ」

「石材と一括りに言っとるが、種類は何千とある。その中から適切な素材を選び出し、丁寧に加工し、慎重に組み合わせさえすればどんな建造物でも造れるのが石大工よ。その時計塔のように、の」


 あの後、俺達は適当に宿泊場所を見つけ。

 ルーケンブリッグを案内してくれるというドワーフのお爺さん──ディントンと再度合流。それから既に一時間ほどかけて、今は街の中を観光している最中だった。


 まず手始めに石造りの住宅街を抜け、次いで様々な店の立ち並ぶ商業区画へ。

 終始、案内役のディントンは「あそこの店で食う石焼きのステーキは世界一旨い!」だとか、「あっちの店のかまどで焼きあげたパンは、香りが最高じゃて。明日の朝にでもいっぺん食うてみぃ!」などと、とにかくテンションが高く。つられて俺とネムも笑顔が多くなっていた。


 商業区画を抜けたのが、つい先程。

 現在いる場所はと言えば、ルーケンブリッグのど真ん中にある時計塔の前。

 天を貫かんばかりの高さに積み上げられた石材が形作るその巨塔は、観光の名所と呼んでも差し支えないほどの荘厳さを充分に孕んでいた。


 当然のごとく俺とネムは呆然とする。

 なぜなら目前にそびえ立つ巨塔は、俺達がこの街へと馬車で訪れるよりも前から見えていて。しかもそれが石のみで造られていたとなれば、驚くのも当たり前だ。


「さて、と。他に紹介してやれそうな場所なんざ、勇者村へと繋がる大橋しか無いが⋯⋯アンタらは明日にでも見ることになるわな。どうすっかのぉ」


 顎をなぞりながら、ディントンが悩ましげに呟く。


「こんな面白い場所に連れてきてくれて、オススメの飯屋まで紹介してくれて。俺らからすりゃあ充分に満足させて貰いましたよ。ネムもそう思うだろ?」

「はいっ。出来ることなら明るい時間に来てみて、石大工の方々がどんな風に作業をしているのかも見てみたかったです」

「⋯⋯⋯⋯そうけぇ。嬉しい限りじゃて」


 この会話ののち、十秒ほど誰も喋ることなく時間が過ぎ。

 街の中央ということもあって、途切れることなくあった人の往来に切れ目が見えた時、ディントンは一度だけ深く頷いたかと思えば。


「ならば、最後に──ワシの工房へと案内しちゃる。はぐれんように、しっかり着いてきぃ」


 そう、言葉を繋いだのだった。

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