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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
始まりの街
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第三十一話 森の様子を見てみよう

 街から出ずとも受けることの出来るクエストをこなす。

 そう決めてから、約一時間弱。


「まさか知り合いが依頼者とは⋯⋯」

「ほっほっほ、まさか坊やが来てくれるとは。安心して手伝いを任せられるねぇ」


 俺とネムが受けたクエストは、"市場南通りにあるマジックアイテム店への物資搬入"。

 依頼書を眺めた際に、もしやリタ婆の店では? と首を傾げた俺ではあるが──実際、その通りだったようで。


「外に沢山積み重なっている魔石入りの木樽を、店の隣にある倉庫に頼むよ。くれぐれも怪我はしないように。⋯⋯お嬢さんも、重いだろうけれど頑張ってねぇ」

「はい。任せてくださいっ」


 ネムは既にリタ婆と仲良くなっており、朗らかな笑みを交えながらに会話をしていた。


「どれどれ、荷物は⋯⋯うおっ!?」


 運搬すべき木樽へと手をかけてみれば、予想以上に腕への負担が。


「ふぬぬぬぬ⋯⋯」

「無理すんなよネム。二人で持とうぜ」


 持ち上げるのもままならない様子のネム。

 ⋯⋯男手が欲しいな、これ。

 最近の俺とネムの成長ぶりを見てか、ロヴィスカルも今日は休みだし。力仕事を請け負うことが出来るのは、実質俺一人のみ。

 だからといって、依頼品である木樽の運搬を俺だけに任せるようなネムでもない。


「二人で作業を終わらすのが一番。精神的にもフェアだしな」

「へ?」

「いや、こっちの話。俺が持ち上げるから、ネムはバランスが崩れないように支えといてくれ」


 樽の底面を持つようにして腕を回し、背筋に力を一気に込めて持ち上げる。


「おっ、とと」


 重心が後ろへと偏り、ふらつく。


「支えますっ」

「おう。助かるぜ⋯⋯⋯⋯えっ?」


 むにゅり。


 危うく倒れそうになった所へとネムが駆けつけたまでは良かったが、背中には紛れもないアレの感触。

 上体が後ろに反れている事を鑑みれば、確かに支える体勢としては効率的ではあるのだが、しかし。


「ネム」

「は、はい。どうかしましたか?」

「いや、ちょっとばかし危ないっつーか⋯⋯逆側からおさえててくれたら助かるな、って」

「逆側。こうですかね?」


 俺から見て前方へとネムは回り込み、重たい木樽が前後左右にブレないように手を添える。

 背中に感じていた温もりは消えてしまったのは残念だったが、煩悩のせいで荷物を落っことしたりするのは言語道断だしな。適切な判断だろう。


「んじゃ動くぞ。視界悪いからコケんなよー」

「はーい」


 はたして胸を押し当ててしまっていた当人は気付いていたのか、いないのか。

 特に気にした様子もないし、無意識だったんだろうな。思春期なのは俺だけか。


「若いねぇ」

「うぐっ」


 俺が隠していた心の内を見透かしたようなリタ婆の言葉に、思わず顔が赤くなる。

 それを誤魔化すようにして、運搬のペースが多少上がったり、集中が途切れて逆に下がったり。


 ──そんなこんなで一個一個と着実に運搬作業を進行すること、一時間ほどして。


「⋯⋯よくよく思い返したら、最初の体勢って密着し過ぎて⋯⋯いえ、何でもないです。忘れてください」

「え? あ、おう」


 ふとした時に自分の言動を思い出して恥ずかしくなるという状態に陥ったのであろうネムが、ひっそりと顔を赤らめていた。

 ⋯⋯何だこのラブコメ。

 そう思ってしまったのは、無理もない事なのだろう。





 と、まあ。

 追加で一時間ほどかけてリタ婆からの依頼を特に問題もなくこなした後、俺とネムの二人は組合(ギルド)の方へと赴いたわけなのだが。


「悪化してんだろコレ。話しかけれそうな受付嬢、一人も居ねぇんだけど」


 達成報告のためにと建物へ入ってみれば、その場はまさに修羅場のごとく。朝にも目にした忙しなさも完全に増しており、建物内に居る誰も彼もがてんやわんや。


「どうしましょうか。夕方とかにもう一回来て、落ち着いたのを確認してから報告した方が⋯⋯」

「その方が良さげだよなぁ」


 さて、困ったぞ。

 簡単な依頼をもう何個かこなす気が満々だったけれども、この様子では新たな依頼を受けることすら難しそうだ。


「んー⋯⋯」


 騒動の原因とは結局なんなのだろうか? と、首を傾げる。

 "森の方面で何かがあった"なんて断片的な情報だけ与えられている分、余計に気になって仕方がない。


「森かぁ」

「行ったらダメですよ、タツキさん」

「こんな流れで行かねぇよ。でも、ネムも気になるだろ。あの森で何があったのか、ってのは」

「それは確かに気になりますが⋯⋯聞き込みでもしてみますか?」

「いや、それよかもっと良い方法があってさ」


 以前にシルテットが見せてくれた、遠見を可能とする魔道具のことを思い出す。

 あの水晶玉を使いさえすれば、森での異変をリアルタイムで観察することが出来るだろう。


 百聞は一見にしかず、なんて言うしな。

 シルテットの所へ帰って、さっさと借りてくるか。


「五分くらい待っててくれ」

「もう、仕方ないですね⋯⋯分かりました。空いてる席に座ってますから」

「おーけい。行ってきまーす」


 ネムに見送られながらに出入り口を抜け、近場の路地裏へ。

 街の中心部とあって人通りが割と多く、人目につかない場所を探すのにやや手間取ったものの、そう遠くない所でワープ用の扉を召喚することが出来た。


「うし。アイツ寝てないと良いけど」


 俺がその場から消えるところを誰かに見られる前に、急いで扉を開いて身体を滑り込ませる。


「たでーま。⋯⋯おう、お前までぐうたらしてんのかよ。誰に似たんだ、ったく」


 まず視界に飛び込んできたのは、どっかの引きこもりのごとく俺の布団にて寛いでいる植物ペット。

 根っこ状の手足を大の字に広げて仰向けになり、口を開けてぼうっとしている。

 拾ってからまあまあの日数が経ったが、未だに意思疎通が出来ているのか分からない。


「まあペットなんて最初はそんなもんか。横、通るぞ」


 シルテットがここに居ないってことは、十中八九アイツは自室だろう。寝てるか否かに関しては五分五分の確率と言った所か。

 起きている可能性に期待をしながら廊下に出て、向かい側の部屋へと続く扉をノック。

 すると、


「んー? 入っていーわよー」

「お、目ぇ覚ましてたか」


 どうやらちょうど起きているタイミングだったらしい。

 中から聞こえる入室許可の言葉を聞いて、昼間から起床している事に対し、軽く感心する。


「どうしたのよ、こんな昼間っから。何か用?」

「借りたい物があってな。水晶玉の魔道具なんだが」

「遠見の魔水晶ね。割りさえしなければ別にいーわよ、好きに持っていきなさい」


 ソファと隣接して置かれたサイドテーブルの上を、シルテットが指さした。

 ⋯⋯思ったよりすんなりと事が運んだな。

 多少は渋られたりするかと思っていたんだが、用事が早く済むに越したことはない。ネムを待たせるのも悪いしな。


「さんきゅー」


 軽く礼を言い、その流れでシルテットの部屋の扉を外へと直接繋ぐ。

 大通りの雑踏から少し離れた路地に降り立ち。本日三度目の来訪をせんと、他の見知らぬ冒険者達に続いて組合へと向かう。

 前もってネムへと伝えた通り、五分ほどでの帰還だった。


 ふと考えてみれば、秒や分などの単位が地球と同じなのは不思議だな。

 以前、暇な時に図書館で暦について調べたりしたのだが。

 どうやらこの世界には曜日や月と言った概念が存在しておらず、代わりに太陽の高さ──いわゆる南中高度を目安として、一年を決めているらしい。

 簡単に説明するならば、日本で言う夏至の日が年の変わり目となるとでも例えるべきか。

 こちらの世界でも天動説やら地動説やらで論争していた時代はあったのかもなぁ、なんて思いつつ。


「戻ったぞ、ネム」


 休憩スペースにて待ち合わせいた相手へと、片手を上げながらに声をかけた。


「あ、おかえりなさい。取りに帰ってたのは、その水晶玉ですか?」

「そそ。向かい側の席、座るぜ」


 背もたれのない椅子へ腰掛けつつ、円形のテーブルの真ん中へと遠見の魔水晶を割れないようにそっと置く。

 次いで、かつてリタ婆の所で購入したマジックアイテムを用いて魔力を操作。魔道具を起動した。

 すれば、水晶玉の中には見覚えのある光景が映し出される。森の中、俺達が初めてゴブリンと戦闘をした窪地のある場所だ。


「見えるか?」

「は、はい。凄いですね、この魔道具」

「シルテットの持ち物だけどな。借りてきたやつだ」


 呆然とした様子で水晶玉をまじまじと見つめるネム。

 森の様子が気になっているのではなく、魔道具自体に興味があるかのような雰囲気である。

 軽く使い方を実演しつつ解説するのも良いが、今はとりあえず森の様子を確認しよう。


「どれどれ、まずは軽くこの周辺を──」


 ドローンを操作するかのごとき感覚で、次々と上下左右に視点を操作していく。

 背高く生い茂った草むら、風に揺れる枝葉。どれもこれも既視感のある、一見して代わり映えのない緑ばかりの風景ではあった、が。


「お」


 ふと、とある存在が目に止まった。


「フォレストウルフ、ですかね。それにしては色が少し変、と言うか」

「いや、多分違う魔物だろコレ。水晶越しだと分かりにくいが、俺の腰付近くらいまでの背丈がありやがる⋯⋯って、おいおいおい。嘘だろぉ⋯⋯?」


 ソレは一匹だけだなんて生易しい数ではなく、群れとも言える数の巨狼が草むらを掻き分け獣道を切り開いていた。


 この森で何があったのかと眉を顰めた、そんな時。


「おや、遠視の魔道具ですかー。少し見せてもらってもー?」


 真隣とも言えるような近しい距離から、前置きもなしに声がかけられる。


「うおぁ! デイシャさん!?」

「はいはーい。デイシャさんですよー」


 いつの間にやら近くで立っていたのは、見慣れた受付嬢。

 彼女は忙しさから来ているのであろう疲れを表情へと浮かべたままに、じっと俺の手元にある遠見の魔水晶を見つめていたのだった。

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