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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
始まりの街
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第二十九話 二本目の武器

 ゴブリン討伐から、さらに十日ほどが経ち。

 俺は、とある場所へと赴いていた。


「おう、兄ちゃん。今日は何の用事だ」


 太い右腕を上げながら声をかけてきたのは、武具屋の店主ヘルガルだ。

 現在、俺が居るのは彼の店。

 俺自身が装備するための防具を買いに来た時以来、実に約二十日ぶりの会話だった。

 そう考えると、この世界での生活にも随分と馴染んで来たわけで。


「二本目の武器⋯⋯サブウェポンを見繕ってもらいに来たんすけど、何か良い感じのヤツって無いですか?」


 ⋯⋯もうそろそろ、新たな武器を一本くらい持っておいてもいいのでは。

 思い立ったが吉日、とでも言うべきか。

 七日に一度、買い出しのために訪れる朝市の帰り道。いつもならばシルテットの家へと直帰している所だったが、今日は違う。


「あの、タツキさん。このナイフとかどうでしょう? 軽くて取り回しも利きやすいですし」

「良さげだな、ソレ。とりあえずキープ!」


 市場にて偶然出会ったネムを連れての寄り道──日本で学生をやっていた頃、下校時に友達とコンビニに立ち寄っていた事が思い出される。


 家に帰ったとして、どうせシルテットのやつはまだ寝ているだろうしな。

 昼飯はそこまで手の込んだものを作る気は無いし、時間的な余裕は意外とあるのだ。

 お利口なペットにも餌は渡してあるから、しばらく寄り道していても問題は無い。


「メイスにアックス、杖⋯⋯いや、コレ棍棒か? うーん、どれにすっかなぁ」


 顎に手を当て腰を曲げ、陳列された武器を眺める。

 どれもこれも絶妙に使い勝手が良さそうなのがまた問題で、何を買えば良いのかが全く分からなかった。


「サブウェポンにするっつったが、どういう状況で使う事を想定してるんだ? それ次第だ。見繕ってやる」


 有難い提案だ。いや、そもそもの目的ではあるが。


「俺ってまだまだひ弱じゃないっすか。だから短剣を振ろうとして、もたつくこと多くって。慣れとかもあるんでしょうけど、支援(バフ)が無い時に不意打ちされた時のことを考えると⋯⋯まだ怖いんすよね」


 ゴブリンに対して放った初撃は酷いものだったなー、なんて思い返す。

 毎日素振りを続けてきた成果か、最近はだいぶ短剣の重みに腕の筋力が追い付いてきたが。それでもやはり、いきなり襲われたりなど咄嗟の出来事に対応しようとすれば、またヒョロヒョロとした一撃になってもおかしくない。


 つまりは怪我をするくらいなら、もっと軽くて振り回しやすい武器も持っておいた方が良いのでは、と。

 そんな懸念を抱いてこの店にやって来たことを、俺はヘルガルへと単刀直入に伝えた。


「なるほどな。兄ちゃんの考えは理解した」


 彼はちらりと視線を商品棚に一瞬移し、


「ナイフかメイス、その辺りになるだろうな。冒険者ランクは何だ? 話を聞く限りはそろそろEくらいに上がってそうなもんだが」

「Eランクには、ちょっと前に。ゴブリン以外にスライムとフォレストウルフの討伐依頼を一回ずつ、何とか達成した所っす」


 そう。この十日の間で、俺達は受付嬢のデイシャからオススメされた討伐系のクエストを追加で二つ、終わらせていたのだ。

 ゴブリンの時と同じくロヴィスカルによるアドバイスを受けつつ、今のところ特に問題なくターゲットを討伐出来ている。

 しかし、どれもこれもネムによる支援魔法があってのもの。素のままの俺が単体で挑んでいれば、フォレストウルフ辺りに噛み殺されていた事だろう。


 魔法が使えないってのが、やっぱキツい。

 このままだと、冒険者個人としての限界は意外と早く来そうに思えて仕方がない。頑張らねば。


「順調じゃねぇか。Dランクに上がる頃にはメイン武器も更新しといた方が良いぞ。⋯⋯と、今はそっちじゃねぇやな。ほら、このナイフ持ってみな」

「コレっすか? うお、意外と重っ⋯⋯」


 手元に感じる重厚感に驚き、目を向ける。

 革製の鞘に収納された、刃渡り二十センチほどのナイフだが──それにしてはやけに重く感じられる代物だった。

 とはいえ普段使いしている短剣に比べれば、片手でも余裕で扱える程度の重さ。


「そいつぁ魔鉄鋼製だ。聞いた事あんだろ?」

「無いです」

「⋯⋯ああ、そういやそうだな。兄ちゃんも兄ちゃんで、遠くから来たんだったか」


 俺が勇者の同郷という事を思い出したのであろうヘルガルが、参ったなと言わんばかりに頭を搔く。


「魔鉄鋼ってぇのはな、雑に説明すりゃ鉄と魔石を炭で焼いた金属だ。普通の鉄鋼の作り方は分かるかい」

「あー⋯⋯まあ、なんとなくは」


 鉄鋼ってアレか、スチールってやつ。

 確か鉄と炭素の合金だったような。中学の理科で習った気がしなくもない。


「分かってんなら話が早い。平たく言やぁ、その名の通り"魔力を含ませた鉄鋼"ってわけだ」

「まんまっすね。魔力を混ぜるメリットってのは?」

「耐久性の大幅な増加だな。密度が上がって加工はしにくくなっちまうが、飛躍的に硬度も高まる。重てぇから防具には不向きとはいえ、鍛冶屋の連中は重宝してるらしいぜ」

「重い分、普通のナイフとかより一撃の威力もありそうだしな⋯⋯よっし、決めた。コレにするぜ。値段はどんくらいですかね」

「金貨一枚と銀貨五枚。手持ちはあんのか?」

「高っ⋯⋯あ、手持ちならあるんで。心配しなくて大丈夫です」


 日本円にして約一万と五千円。

 使っている短剣が確か銀貨三枚の値段だったのに比べ、実に五倍の価格だ。もはやナイフの方をメイン武器にした方が良いのではなかろうか、とすら思えてくる。


「金貨が一枚に銀貨が五枚、ジャスト。会計お願いします」

「おう。確かに頂いたぜ」


 自分用の財布を腰に着けたポーチから取り出し、必要な枚数分の貨幣を数えて渡した。

 すれば、ヘルガルは笑って受け取る。取引成立だ。


 ──というわけで。

 二本目の武器を手に入れた俺は、待たせているはずのネムの所へ。


「ネム、用事は済ませたぜー」

「へあ!?」

「わりぃ、驚かせたか。何か探してんの?」

「⋯⋯あ、えっと、はい。どうせなら私も何か武器のひとつでも持った方が良いのかな、って」


 完全に気が緩んでいたタイミングで声をかけたせいか、上擦った声で返答するネム。どうやらそれが恥ずかしかったのか、ほんのりと顔を赤くしていた。


「ネムの武器かー。確かに持ってた方がいいかもな、自衛手段はあった方が良いに決まってるし」


 役職云々とか以前に、女の子だしな。


「ですよね。それなら私は、こっちのナイフに。タツキさんと同じ物だと、私では重くて振り回せなさそうなのでっ」

「嬢ちゃんも買うのか。鋼鉄製のナイフだと銀貨が五枚ってとこだ」


 安っ。

 いや、それでも普段使い用の短剣より高いんだけどさ。魔鉄鋼にするだけで金貨一枚分も値段変わんの?


「言ったろ、魔鉄鋼ってのは加工の難易度もはね上がるんだよ。別に、嬢ちゃんが可愛いからって贔屓してるわけじゃねぇからな?」


 俺の疑問は筒抜けらしい。

 聞くまでもなく、先にヘルガルが答えを口にした。

 つまりは魔石分の材料費の他、加工の手間賃も代金に含むって事らしい。当然と言えば当然の理由だった。


「納得っす」

「なら良い。⋯⋯おう、嬢ちゃんの分もしっかり頂いたぜ」


 ヘルガルとの会話を他所に、ネムが支払いを終える。

 これで、俺とネムの戦力は微々たるものながら上昇したと言えるだろう。使いこなせなければ意味なんて無いけれど。


 伸び代が見えてモチベーションが上がる中、


「そういや兄ちゃん。少し耳貸せ」

「ん、何ですか?」

「お前さんの友達からの伝言だ。"Aランクになったよん、おっ先ー"だとよ」

「⋯⋯チッ」


 あんにゃろう。

 俺は悔しさと喜ばしさが半々に混じった舌打ちを、店内にでかでかと響かせるのだった。





 同時刻。

 草原の奥の奥、名も無き森林地帯。


「ひぃっ! た、助けっ⋯⋯ぁああ!?」


 背の高い木々が陽光を遮るその場所にて、誰かの絶叫が虚しく木霊する。

 彼の視界に映るのは、物言わぬ死体、死体、死体。

 そして、ソレらを遥かに凌駕する数の──、


「嫌だっ。死にたくなっ、ぁが」


 聞こえてくるのは、獣の荒い吐息。何かが砕ける鈍い音。


「ぁ⋯⋯⋯⋯」


 何もかもが終わるその直前。

 最期の最期に視えたのは──ただひたすらに、()だった。

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