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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
始まりの街
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第二十八話 ぐだぐだな戦闘

「行くぞネムっ。ゴーゴー!」


 ターゲットがこちらに気が付いていないのを良い事に、俺は短剣の柄に手をかけながら飛び出した。

 その勢いのままに一気に引き抜こうとして──、


「タツキさん!? 支援(バフ)、まだですよ!?」


 慌てたパーティメンバーの声が、背後から。

 ⋯⋯やっべ。


 格好よくゴブリンを一刀両断するつもりが、素の筋力では思った通りの軌道を描けることなく。


「あ、あっれぇ? こんなはずじゃ無かったんだけどなー⋯⋯」


 緩慢な動作で放たれた初撃を、俺の想像していた五割増しくらいの素早さで躱したゴブリン。

 ヤツらは、当然の事ながら殺気立った様子でこちらを睨んできた。


 我がことながら馬鹿すぎんだろ、俺。ネムの支援魔法がパッシブスキルなわけないだろうに。

 続けて突撃するわけにもいかず、抜き身の短剣を真正面に構えてジリジリと後退する。


「⋯⋯いや、マジですまん!」

「だ、大丈夫ですよ。ミスなんて誰にでもありますからっ。⋯⋯というわけで、『補助魔法(アシストマジック)攻防強化(ダブルブースト)』!」


 ネムが右手を前に突き出して詠唱した瞬間、俺の身体を白い光が包み込む。

 俺とネムが初めて討伐依頼を受けた時にも一度目にした光景だ。あの時は危うく爆発するのでは、と酷く慌てふためいたんだったか。

 あまり思い返したくない黒歴史を思い返しつつ、俺はゴブリン達を見据える。


「今度こそ。さぁ、行くぜ行くぜー⋯⋯」


 冷静に、慎重に、距離を詰めていく。

 最初の一振りの時とは違い、ターゲットは臨戦態勢の真っ只中。もし気を抜こうものならば、先手を取られてしまうことだろう。

 戦闘経験が皆無の俺にとって、そんな状況は対処が難しいはず。

 先手必勝⋯⋯かどうかは微妙だが、後手に回るよりも先手を取った方が良い事は確か。


「ふっ!」


 間合いまで残り三メートルといった所で、一気に地面を蹴飛ばし。


「──だらぁっ!」


 横薙ぎに、全力の一閃。技術もへったくれも無い、がむしゃらに振るっただけの斬撃だ。


「うし、まずは一匹目ぇ!」


 しかし、意外にもすんなりとその一撃は小鬼の胴体へと吸い込まれていった。

 真っ二つとまではいかなかったものの、剣先はしっかりとゴブリンに横から食い込んで──って、あれ?


「ちょっ!?」


 刃の部分が上手いこと抜けてくれねぇ!

 脳内でシミュレーションした感じだと、一回斬ったら直ぐに次の一撃を放つつもりだったのに!


 俺がもたもたとしている間に、仲間を殺された事で激昂した残りのゴブリン二匹がこちらへと迫る。

 もういっそのこと、剣を捨てて素手で戦ってみるか?

 そんな馬鹿な考えを抱いた時、


「タツキさん、左に飛んでください! ⋯⋯『炎の弾幕(ファイアバラージ)』っ!」


 飛んできた指示に従い、左方向へと全力で跳躍。

 すると、俺が直前まで居た付近の地面目掛けて火の弾丸が大量に降り注いだ。

 そうなれば当然、ゴブリン達の動きも止まる。


「ナイスアシストだぜ、ネム!」

「お気になさらず、です。体勢は立て直せそうですか?」

「おうよ!」


 幸い、最初に受けた支援魔法の効果もあってか、剣を持ったままに動くことが出来ていた。

 短剣にぶら下がっている、既に事切れたゴブリンを踏んで引き剥がす。死体を足蹴にするのはさすがに気が引けたが、四の五の言ってる暇なんてない。


「二匹目っ!」


 速度が甘かったのか、一匹目の時に比べると"斬った"と言うよりも"叩きつけた"に近い感覚が、手のひらにジンジンとした痛みとして伝わってくる。

 が、俺にとっては好都合。

 先程と違って二撃目を阻むものは無いのを良い事に、流れるようにして三匹目の獲物へと飛びかかり、


「うぉるぁあ!」


 もはや、バットを片手でフルスイングしたようにしか見えない荒い横振りをぶちかます。

 手応えはあった。確実に仕留めたであろう、クリーンヒットだ。


「フラグ? そんなものはねぇよ、勝利だああああ!」

「ふらぐ⋯⋯? あ、しょ、勝利ですね。大丈夫でしたか、その⋯⋯色々と」

「大丈夫大丈夫。やり切った感が凄くてな、良い汗流したぜー」


 実を言えば結構心に来ている節はあるんだけどね。

 魔物とはいえ、人型の相手をぐしゃりとやったのだ。罪悪感とは違った辛さが四割、達成感が六割と言ったところ。

 だがまあ元々覚悟していたこともあって、そこまで精神的には負担を感じてはいない。

 むしろ、目の前で割とショッキングな光景を見る羽目になったネムの方が心配なまであるが、


「なら良かったです。クエスト、無事達成ですねっ」


 様子を見る限り、どうやら案ずる必要は無さそうだ。


「おう、ホッとしたぜ⋯⋯⋯⋯んあ? ロヴィスカルさんは何処だ?」


 休憩でもしようかと思ったその時、いつもは後方待機している紺色髪の彼が居ないことに気が付いた。

 まさか戦闘の際にはぐれたのだろうか。いや、あの人に限ってそんなはずも無いな。


 なら、何処へ?


「──御二方とも、よく頑張ったようで」

「おぅわ!? いつの間にそんな所にっ⋯⋯て、何ですかそのオオカミ!?」


 窪地のど真ん中に立っていたロヴィスカル。

 その背中側には、大型犬よりも二回りはデカいオオカミが横たわっていた。


「ああ、こちらですか。どうやら御二方とゴブリンの戦闘音を聞きつけたのか、近くの草むらにて潜伏(ハイド)しておりまして」

「えっ」

「ははは。そうですねぇ、今回ばかりは私めが仕留めさせて頂きましたとも。本来ならばタツキ君が相手すべき魔獣ではありますが、初のゴブリン討伐くらいは成功させてあげたかったのですよ」


 嘘だろオイ。俺、ゴブリン倒したからって油断しきってたんですけど。

 と言うか、あのサイズのオオカミを音もなく倒してたってのかよ、この人。

 もしかしなくとも、冒険者ってのは皆が皆こうだったりするのかな⋯⋯。


「だぁあもう! 帰ったら即、素振りだ素振り!」


 危うく自信を喪失しかけた俺ではあるが、頭を思いっきり左右に振ってマイナス思考を追い出す。いきなりの行動に対してネムが少しビクッとしていたが、悪く思わないで欲しい所。


 続けざまに両手を上へ挙げて思いっきり伸びをし、空を仰ぐ。

 雲ひとつない晴天が木々の隙間からチラチラと顔を覗かせる光景は、日本で過ごしていた頃にも何度か目にした事のあるものだった。

 気持ちが落ち着くと同時、やっぱり此処は現実なんだと再認識させられ。


「価値観、変えてった方が良いよなぁ」

「タツキさんの、ですか?」

「そそ。いざって時に躊躇っちまったら危ねぇだろ? 例えば、ロヴィスカルさんが仕留めたオオカミ。犬みたいだからって殺すのを避けちまったら、俺らが殺られるかもしれん」


 ま、そこら辺は異世界どうこう関係ない気もするけど。


「そんじゃあ討伐証明部位、持って帰ろうぜ。ゴブリンのはどの部分だ?」

「複数体とも同じ部位なら、どこでも良かったはずですよ。耳とか⋯⋯うっ」

「おまっ、大丈夫かよ。アレなら俺が全部やるぞ」

「へ、へーきです。おんぶにだっこで冒険者なんて務まりませんから。⋯⋯剣、貸してください」

「無理はすんなよ。ほら、二匹分はやっといたから」


 鞘に収め、そっと手渡す。

 短剣を受け取ったネムは、顔を青くしながらも意外とすんなり、三十秒足らずで最後の一匹分の解体を終わらせた。

 もう少し時間がかかるものかと思っていたが、ひと思いにやってしまった方が楽だと察したのだろう。そしてそれを実際に行動に移してしまえるあたり、ガッツがある。

 そんな彼女だからこそ、攻撃魔法をモンスター相手に放てないのは、何か重大なトラウマでもあるんじゃないか? と密かに心配しつつ。


「で、出来ました。⋯⋯すみません」

「お疲れさん。じゃ、今日は帰るとしよーぜ」


 最後の"すみません"は俺に向けたものか、それともゴブリン達へ向けられたものか。

 とにかく、俺達は今回も無事に依頼を達成したのだった。

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