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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
始まりの街
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第二十六話 ランクを上げるには

 ここ最近、なんだか日本にいた時と比べて常に動き回っている気がする。

 朝、早起きして朝食を作りつつ夕飯の仕込み。

 昼までの間には、キッチンや風呂などの掃除を済ませ。

 午後、夕飯の時間が来るまでは町の図書館で過ごす。

 夜はシルテットが風呂に入っている間にアイツの散らかった部屋を掃除し、一日を終える。


 唯一落ち着ける時間と言えば、図書館で本を読み漁っている時くらいだろうか?

 兎にも角にも、そんな忙しい日々を過ごしつつ──、


「はい、無事タツキさんもEランクに昇格ですねー。おめでとうございますー」


 シルテットのやつに召喚されたその日から、三十日以上が経った頃。

 俺は、小さな目標をひとつ達成していた。


「わぁ! 良かったですねタツキさんっ。これで、パーティとしてもEランクの依頼が受けられますよっ」

「だな。これでやっと冒険者、って感じがするぜ」


 冒険者としてのランク昇格。

 Fランクをチュートリアルとするならば、ようやくその過程を終えた段階に来たというわけだ。

 つまりは実質的なスタート地点であり、ここからが本番と考えても差支えは無い。


「スライム討伐にゴブリン討伐、他にも色々。怪我にだけは気をつけなきゃあな」

「そうですねー、身の丈に合っていないクエストを受けたがる新人も多いのですが、タツキさん達は慎重さがあって私的にも安心してますよー? ⋯⋯特に最近は、魔物の動きも活発になっているようですしー」


 間延びした口調で不穏なことを言うのは、俺とネムがよくお世話になっている茶髪の受付嬢。

 相変わらず眠たそうでやる気もなさげだが、しっかりと仕事はこなすし、何より話していてトゲがなく関わりやすい相手だ。


「身の丈、かぁ。そーいやEランクから昇格する時の条件って、やっぱり少しは厳しくなるんすよね」

「もちろんですねー。総クエスト達成数が三十回以上、討伐クエスト達成種類が三種類以上⋯⋯そんな条件となってますよー」

「三倍か。結構時間かかりそうだな」


 FからEにランクを上げるのに一ヶ月。

 であれば、単純計算で次のランクまでは三ヶ月。

 ⋯⋯俺は七日に二日しか冒険者としての依頼を受けていないからなぁ。それだけ時間がかかるのも仕方ないか。

 となれば、問題はネムとの間に広がる差。

 ネムがどの頻度でクエストをこなすのかは知らないが、最低でも彼女の方が二倍は早くランクアップしそうなものだ。


「意外とそうでも無いですよー? Dランクに上がるためには、とにかく数さえこなせれば良いですからー。まあ、それ以上のランクに上がるためには実力が必須なんですけどねー?」


 ──実力。

 才能や努力、得てきた経験の全てが一緒くたになった上で評価される、単純ながらも難しい要素。

 知識も無いし魔法も使えない俺は、当然冒険者としてはまだまだ未熟である。

 だからこそ"経験を着実に積むこと"が、俺自身の実力を成長させるための数少ない道のりだ。


「えっと、Cランク以上になるには試験があると聞きました。戦闘能力はもちろんのこと、座学試験以外にも人間的な善性の審査とかもあるんですよね、デイシャさん」

「ですねー。組合(ギルド)側としても高ランクの冒険者が問題を起こしてしまうと、かなり後始末が面倒なのでー」


 ⋯⋯ん?


「デイシャって⋯⋯お姉さんの名前か?」


 しれっとネムが口にした事に驚いた。

 受付嬢と言っても首からネームプレートがぶら下がったりしているわけでもなく、何だかんだで名前を知る機会が今まで無かった。

 だが知らなくとも別に困ることはないし、聞いてしまえばナンパかとからかわれる未来が透けていたために「お姉さん」との呼び方が定着していたのだが。


「はいはーい、デイシャさんですよー。タツキさんも好きに呼んでくれて構いませんからねー」

「いつの間に自己紹介済ませてたんだよ」

「四日くらい前ですねー。ネムさんと雑談していた時に、ぽろっと漏らしちゃいましたー。別に困ることも無いんですけどねー?」


 なるほど、二人は随分と仲がいいらしい。

 まあ、ネムがあまりにもFランクから脱却出来ないことを心配していた節もあったっぽいしな。女子同士ということもあってシンパシーを感じたりするのだろうか。


「そんじゃあデイシャさん呼びで。年上っぽいですし」

「二歳上ですけど、女性に年上は厳禁ですよー? 血の気の多い女性相手に言おうものなら、どことは言いませんがちょんぎられますよー」

「怖っ!?」


 多分ちょんぎられるのであろう部位がヒュっとする。


「⋯⋯なんて冗談はさておいて、話題を戻しましょうかー。昇級試験の話をお二人にするのは気が早い気もしますが、最近だと"蹴りの勇者"がAランクになろうとしてますねー」

「へー、勇者⋯⋯蹴り? 二つ名みたいな?」

「その認識であってますよー。表に出て活躍している勇者には、それぞれの特徴を示す単語が頭に付けられるわけですねー」

「何それ面白そう」


 厨二病チックな単語を付けられて悶えた勇者とか普通に居そう。

 しかも世界中からそう呼ばれるんだろ? 最初は浮かれそうだけど、一周まわって冷静になった時が地獄だろうな。


「ちなみに"蹴りの勇者"であるリキヤさんですがー。ソロとしてBランクまで到達した時点では、歴代最速記録でしたねー」


 アイツかよ。

 そういやヘルガルの店で偶然出会った時に、冒険者やってるとか言ってたわ。

 あのお調子者がBランクか。

 頑張ったんだろうなぁ、友人として喜ばしい⋯⋯けど、なんかイラッとする。


「⋯⋯よし。俺らも同じくらいのランク目指そーぜ、ネム!」

「えっ。き、気が早くないですか? ひょっとしてタツキさん、勇者に憧れてたり?」

「いや、憧れとはちょっと違うな。単に追い付きたいってだけだ」

「なるほど⋯⋯?」


 ネムが首を小さく傾げる。


 確かに説明不足だわな。

 だが、たった今話題に昇った勇者の友人だとこの場で言うのも信憑性が薄く感じられるだろうし。

 とりあえず、話題を変えようか。


「──ところでデイシャさん。なんかオススメの依頼って無いですか?」

「名前呼びにした影響で敬語になってますよー? まあどっちでも良いんですがー。そうですねー、討伐依頼であれば低難易度順にゴブリン、スライム、フォレストウルフって感じですかねー」


 ⋯⋯まあ環境次第で難易度なんて上下しますけどー、と最後に付け足すデイシャ。


「ゴブリン? スライムより弱いってのは意外だな」

「スライムはなかなか倒れないのでー。怪我をする危険性が高いのはゴブリンの方ですよー」

「名前からして凶暴そうだしな。やっぱ小鬼みたいな見た目なのかね」


 想像するのは緑色の醜悪な小人。

 ファンタジーではド定番の種族であり、その大抵が人間を襲うイメージが強い。

 対してスライムの幼体は攻撃してこなかったからな。

 考えてみると、ゴブリンの討伐依頼こそが俺の初戦闘となるのかもしれん。ロヴィスカルと行った茶番は抜きとして。


「ど、どうしますかタツキさん。ゴブリン討伐、受けるんですか?」


 やや緊張気味にネムが聞いてくる。


「ネムが大丈夫そうなら受けてみてぇな。どうせ慣れなきゃいけねーだろ? 戦闘自体もそうだし、何より命を奪うってことによ」

「う。確かに、そうです」

「それにスライムと違ってゴブリンは人型だし。少しどころかかなりキツいだろうけど、経験を積むって考えりゃ無駄にはならん」


 荒療治気味ではあるが、効率的。

 自分自身も心の準備をしとかなきゃなー、なんて思いつつ。


「結局いつかは通る道ですしね⋯⋯分かりました、タツキさんの判断に従います」

「よーし、じゃあ今日はゴブリン退治っつーことで決定だな! てなわけでデイシャさん、クエスト受注お願い!」

「はーい、ゴブリン討伐ですねー? 分かりましたよー」


 やる気は十分。

 俺は、拳を手のひらでぱんと鳴らしたのだった。

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