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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
始まりの街
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第二十五話 勉強くらいは

 俺が家政夫としての仕事をこなす際、密かに楽しんでいることがある。

 延々と連なる物置のごとき汚部屋を片付ける度に発見できる様々な書物。

 それらをまとめてひとつの部屋に保管し。結果、書斎と呼ぶに相応しい休憩スペースが、私室の隣に出来上がっていた。

 確かに出来上がってはいたのだが──、


「魔物図鑑っぽいやつを見っけたは良いけど、固有名詞多すぎて訳わかんねぇ⋯⋯! 『ヨルグニア島の王鳥』? 何処だよその島。『赤霧の魔物群』? なんだ赤霧って。酒の品種か何かかっての」


 元よりこの世界に関する知識があまりにも少ないせいで、書かれている内容の半分すらも理解できない始末。

 揺れるタイプの木製チェアにだらりと腰掛け、天井へと視線を移しながら愚痴を零していた。

 この世界について知るために本を読もうとしているにも関わらず、この世界について知らなすぎるがためにそもそも読むことが出来ない。馬鹿みたいな話だ。


「お前は良いよなー。悩むことなんて無さそうで」


 再度視線を下ろし見れば、ペットのクスリソウモドキが床に座って、その根っこ状の手には俺を真似るようにして本を一冊抱えていた。

 ほんの数日前に掃除というものを教えた時も感じたことだが、見た目に反して知能指数が高そうだ。

 実は滅茶苦茶に賢くて文字も読めたりしてくんねぇかな。

 ⋯⋯無理だろうなぁ。だって、もう真似するのに飽きたのか本の角をガジガジ齧り始めたし。


「シルテットのやつでも叩き起してくりゃあ楽なんだろーけど⋯⋯アイツ、絶対面倒くさがって部屋から出なさそうだし」


 躾のなっていない葉っぱの妖精から本を取り上げつつ、どうすべきかと判断に悩む。

 シルテットに対しては賢いという印象など一切無いが、それでもこちらの世界関連の単語は俺より確実に分かるはず。

 かと言って。もし仮に俺がアイツを頼ったとしても、素直に解説という面倒な役割を引き受けてくれるかどうか。

 九割九分──いや、それ以上の確率で断られる未来しか想像がつかない。


「ま、いーや。イチかバチか、声掛けてみよっと」


 おもちゃを取り上げられて落ち込んだクスリソウモドキを、つまんで頭に乗せ。

 そのまま書斎を出ようとし、


「お腹減ったわ! ご飯⋯⋯って、どうしたの?」

「デジャヴッ⋯⋯」


 いつの日かと同じタイミングかつ同じ角度で、扉が顔面にクリーンヒット。


「ねぇ、聞こえてるー? お腹減ったんですけど」


 鼻頭を押さえてうずくまっていると、指先でつんつんとつつかれる。


 コイツは何で、俺が部屋を出ようとした時にノックもなく扉を開けてくるのか。

 かつて日本で生活していた時、コンビニのトイレで知らない人に対して同じことをしでかしたのは苦い思い出だ。凄い気まずい空気が広がる中、ひたすらに謝ったっけなぁ。


 ⋯⋯いや、そんな過去話はどうでもいいんだ。


「ちょっとツラ貸せや⋯⋯」

「急にガラ悪っ。な、何? なんなの? 私、何かしたの?」

「状況みて察しろ、ドアホ」


 鼻押さえてんだろうが。


 しかし、こんな事でいちいち怒っていては身体が持たないというのは、これまでの生活から学習済み。

 大きく息を吸って、吐いて。

 冷静さを取り戻すことによって、苛立ちの感情ベクトルを呆れに変換。


「んんっ。で、何? 飯だっけ」

「あら、しっかり聞こえてるじゃない。お昼寝から覚めたら、お腹減ってたのよねー。あなたも暇してるっぽいし、ちょうど良いかなって」


 全然暇では無かったけどな。

 なんなら、本の内容を理解するためにお前を呼びに行こうとしたとこだよ。


 そう愚痴ってしまっても良いのだが、


「分かった。ただしひとつ、条件がある」


 ──いっその事、この状況を利用してやろう。

 具体的には、飯を作る代わりに辞書代わりになれ、という魂胆だ。


「⋯⋯条件って何よ」

「別に大したことじゃねーよ。俺って本来、今日は休みのはずだろ? にも関わらず顎で使われるってのは、ちょっとな」

「ふーん。お金でも払えばいいのかしら」

「違う、金なんていらな⋯⋯くはねぇけど。俺が今必要なのは、お前だ」

「へ?」


 何言ってんのこの人、とでも言いたげな視線を向けられる。

 うん、今のは言い方が悪かった。くっそキザな漫画のキャラみたいだったわ。


「やっぱ今のナシ。手伝って欲しいことがあんだよ、深い意味はねぇぞ」

「ふーん? 照れ隠ししちゃってー。口説こうとしたけど、大天使だからって怖気付いちゃったんでしょ?」


 にやにやとしながら近付いてくるシルテット。

 アイアンクローでもかましてやりたい気に駆られるが、機嫌を損ねられても面倒だ。


「違ぇっての。俺がそんなプレイボーイに見えるかぁ? ⋯⋯とにかく、飯作って欲しいんなら対価は貰うぜ」

「はいはい、肉体労働じゃなければ何でもいーわよ。あんまり長い時間の拘束は勘弁して欲しいところだけど」


 よし、言質取ったり。

 機嫌の良さげな時は意外とチョロいぞ、コイツ。


「じゃ、調理が終わり次第呼びに来る。待ってな」

「はーい」


 さて。キッチンに向かいますかね。





「──納得いかないわ」


 しばらくして、再び書斎の中。


「納得いかないって何がだよ。ちゃんと飯は用意したじゃねえか」

「確かに用意してたわよ、そこは認めるわ」


 不貞腐れた様子のシルテット。

 原因は当然のごとく、俺にある。


「拗ねんなっての。料理ってのは、あらかじめ仕込みを済ませておくもんだろ?」


 そう。実を言えば、シルテットの分なぞ初めから用意していたのだ。

 見たところ、朝から何も食べずに寝っ転がりっぱなしだったからな。そろそろ腹を空かせるのでは? とヤマを張っておいて正解だった。


「もー、そんなの手間も何も無いじゃない。良いようにしてやられた感じがするんですけど」

「約束は約束だ。おら、勉強手伝え」

「うえっ⋯⋯手伝うって勉強のことなの? 肉体労働じゃなければ良いとは言っちゃったけど、面倒ね⋯⋯」

「俺にはまだまだ分かんねーことだらけだからな。まずはこの辺から頼むぜ」


 つい数十分前に読むのを諦めた、B5サイズほどの本を手に取る。

 学校での勉強は全然好きじゃなかったが、この世界の事を知るために行う調べ物は何故か苦じゃない。

 新しいゲームをする前に世界観の説明を受けているような気分、とでも言うべきか。


「ちなみに言っておくけれど、この部屋にある本って随分古いものばかりよ。考古学者にでもなるつもり?」

「マジか」


 大誤算。

 紙質がそこまで傷んでいない本ばかりだったため、まあまあ最近のものかとばかり。

 日に焼けていないだけなのか、それとも家自体に何かしらの仕掛けでもあるのか。


「⋯⋯ま、いーや。何も知らねぇよりマシだろ? むしろ博識になれるっつーか。ほら、クスリソウモドキの先祖みたいなイラストもあるし」


 ぱらぱらと適当にページを捲った所にあった絵を指してみる。巨大な樹の化け物が人々を襲っている状況を抽象的に表したかのような、おっかない絵だ。


「先祖と言えば先祖よ、ソレ。植物型の魔物を世界中に撒き散らした、結構強い魔神の絵画だもの」

「魔神? ラスボスチックな響きで好きだな、なんか」


 デカい火の玉とか放ってきそう。絶体絶命にまで追い詰められた時、進化とかするんだろうか。

 我ながら下らない妄想だとは思いつつも、此処が異世界ということもあってどこか否定しきれない怖さがある。

 そういった時折感じられる非現実的感覚に、俺は未だ慣れず。


「やっぱ早いとこ、図書館にでも籠るかぁ。つーわけで明日の午後、暇なタイミング見っけて行ってくるわ」


 この世界の地理に始まり、歴史やそこから派生した文化などなど──生き抜くために必要な知識は沢山だ。

 ただでさえ忙しい毎日ではあるが。興味とやる気の尽きない間に、勉強くらいは頑張ってみようと思う。

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