第二十四話 報告
「いやぁ、いきなり身体が光った時は本当に死んだかと思ったぜ」
「ご、ごめんなさいタツキさん。まさか支援魔法を見るのも初めてとは思ってなくってですね⋯⋯」
げんなりとした表情をうかべる俺の隣で、ネムが苦笑する。
結局、あの後どうなったかと言えば。
支援魔法が発動する際は、対象の身体が一瞬だけ光るらしく──つまりは無事に支援魔法が発動していたはずなのだが。そうなると知らなかった俺は、本当に身体が爆発するのではと慌てふためいた。
⋯⋯それはもう酷い有様だったよ、マジで。
危うく漏らしてしまうかとすら思ったレベルだ。
兎にも角にも、結果だけ見れば成功ではあった。俺が異常にダサかっただけで。
ロヴィスカルが「正常に発動しておりますので、ご心配なく」と冷静に声をかけてくれなければ、最悪失神でもしていたのではなかろうか。
「ま、まぁほら。終わり良ければ全て良しって言うしさ」
「あっ、それ知ってますよ。勇者の方々が暮らしていた世界の言葉ですよね?」
「え? ⋯⋯あー、そうだな。そのはずだ」
スライム狩りを終えての帰り道。
草原を抜けて街へと戻り、今は舗装された道の上だ。
まだ日は高い時間帯だが、どうやら討伐系の依頼には一度に提出出来る数の上限があるらしく。
このままスライムを探して見つけたとしても時間の無駄になるという事で、俺達は組合の方面へと歩を進めていた。
「いや、ところでタツキ君。演技とは言え衣服を切り裂いてしまって申し訳ありません」
「全然気にしてないっすよ? だってコレ、いくつもある貰いもんですし」
「ありがとうございます。とはいえ、事前に許可を得たわけでもなく⋯⋯こちら、衣服の修繕代です」
銀貨を五枚ほど手渡される。
まあ、突っぱねる必要性も感じないし有難く頂いておこう。
「⋯⋯おっと、門が見えてきましたねぇ」
通りの奥、視線の先には目的地である石造りの建造物が。
「では、私めはいつも通り外のモニュメント前でお待ちしておりますので、御二方はクエスト達成の報告を」
「了解っす。行こーぜ、ネム」
「はいっ」
ロヴィスカルに見送られながら扉を潜る。
建物内には、当然だが沢山の冒険者達があちらこちらで飲んだり喋ったり、思い思いに過ごしていた。
それらを素通りし、俺達は受付の方へ。
「こんちわ。今朝受けた依頼の達成報告に来ました」
「報告ですかー。ではでは、討伐証明部位の提出をお願いしてもー?」
相変わらず特徴的な喋り方をする受付嬢だな、この人。
眠たそうな目つきはデフォルトのものなのだろうか?
もしかしなくとも、受付嬢ってブラックな職場なのでは⋯⋯よく考えたら、眠そうな受付嬢ってこの人だけだわ。
無駄なことは考えまいと、俺は袋に保管してあったスライム(幼体)の魔石を取り出し、渡す。
続けてネムも同じく、提出。
「はい、確認完了致しましたー。クエスト達成ですね、おめでとうございますー?」
なぜ疑問形。
「報酬はこちらです、置いておきますねー。正直新人さんに言うのも微妙なとこですが、討伐依頼と言っても報酬はしょっぱいので、タツキさんには早いとこランクを上げることをオススメしておきますねー?」
「ほー⋯⋯って少なっ」
渡された報酬を見てみれば、大銅貨がたったの一枚。
日本円で例えれば百円分。自動販売機のジュースですらろくに買えない値段だ。
これなら、クスリ草を採取していた方がよっぽど効率が良い。討伐依頼とは違って、沢山持って帰ればその分だけ報酬が増えるしな。
「ちなみにランクを上げる方法ってのは?」
「FランクからEランクに上げるには、十回のクエスト達成報告と⋯⋯あとは、最低一回の討伐系依頼を達成ですねー。楽々ですよー」
「なるほどな⋯⋯うん?」
ふと、俺はネムの方を見る。
「な、なんですか? タツキさん」
「いや。もしかして初めて会った時にネムが野垂れ死にかけてたのって」
「う。⋯⋯そうなんです。スライムすら倒せなかったから、ランクが上がらなかったんです⋯⋯」
目を逸らされた。
「ちなみにですがー。ネムさんの以来達成数はクスリ草の採取だけで五十回を超えてますねー」
⋯⋯うわぁ。
彼女がクスリ草を発見することが上手い理由を垣間見た気がした。
まるで落ち穂拾いのごとく、毎日集めていたんだろうな。
そこまでしてもひもじい思いをしていたのかと考えると、さすがに不憫と感じてしまう。
「つまり今回の達成報告によって、ネムさんは晴れてEランクに格上げということになりますねー。⋯⋯いやぁ、流石の私もホッとしましたー」
同感だ。
Eランクにはクスリ草より効率稼げる採取依頼があるのだろうか。ネムが一人で討伐依頼を受けることはまず無いだろうしなぁ。
信仰だとかで何もせずともお金を貢がれているどこぞの駄天使に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだ。
「それはそれとして、タツキさんの服がセクシーで大胆な事になっていますがー。これからも冒険者を続けるつもりなら、早急に防具を買ってくださいねー?」
「あー、それなら今日の帰りに買うつもりだから大丈夫だ。アテもあるしな」
「これから買いに行くんですか?」
「おう。ネムも来たけりゃ来いよ」
「でしたらご一緒しますね。Eランクになったので、私みたいな魔法職でも防具は必要になるでしょうし」
その発言に対して、受付のお姉さんが頷いて返す。
クエストボードを見た感じ、Eランクからは討伐系の依頼も色々と増えるみたいだしな。妥当な判断なのだろう。
「じゃ、そろそろお暇すっか。長居すんのも悪ぃしな」
ロヴィスカルも外に待たせてしまっている事だし、あまり長い間お喋りするのも良くはない。
ここらが話の区切り目としていい塩梅だと、俺は席を立った。
「またのお越しをお待ちしておりますねー?」
去り際にかけられた言葉に軽く手を挙げて返し、ネムを連れて出口の方へ。
「えーと、ロヴィスカルさんは──」
「おや、タツキ君にネムさん⋯⋯あと一人、隠れている子供を探さねばなりませんので少々お待ち頂いても?」
⋯⋯また子供達と遊んでら。
前も感じたが、ロヴィスカルという男は子供達に好かれやすい何かがあるのだろう。
「さ、見つけましたよ。今日はここまでと致しましょう」
「ちぇー、見つかっちった」
「中々隠れるのがお上手ですねぇ。⋯⋯ああこら、後ろ髪を引っ張るのはおやめ下さいと言っているでしょうに」
背後から手を伸ばしてグイグイと髪を引く男の子を窘めるその姿は、育児に悩む父親を彷彿とさせる。
嫁さんとか居るんだろうか、ロヴィスカルって。
⋯⋯いかん。実の両親が今どうしているかとか、色々気にしてしまいそうになるな。
頭をぶんぶんと振って、余計な思考を追い出しておく。
どうせ、もう会うことは無いのだ。
前世の思い出は胸に閉まって、たまに振り返るくらいがちょうど良い。
「タツキさんタツキさん。防具を買いに行くのなら、ロヴィスカルさんにアドバイスを貰ってはどうですか?」
「ん⋯⋯ああ、それも良いかもしんねーな」
ネムの提案に、俺は考え事を止めて首肯し返す。
「防具、ですか。確かにこれからの事を考えれば、早い段階で揃えておいても損は無いでしょうねぇ」
「買うとしたら皮製の軽い防具のつもりなんですけど。ロヴィスカルさん的にはそこんとこ、どう思います?」
「ふぅむ。以前、長く走ることが出来るとタツキ君は自らを評していましたので、その長所を伸ばすのであれば妥当な判断かと」
「了解っす」
買うべき装備の材質は、皮で特に問題もなさそうだ。
ならばこのまま、ヘルガルの営む武具屋へと向かえば良いだろう。
「そんじゃまぁ、付き合って貰うみたいでわりーけど⋯⋯行こうぜ!」
ネムとロヴィスカルの二人を先導するようにして、歩き出す。
──で、この後はというと特に目立った問題もなく。
専用の軽装備を無事に買い揃えた俺は、ホクホクとした気分で一日を終えることとなるのだった。




