第二十三話 フラッシュ
ネムが攻撃魔法を放てないとなれば、どうするか。
俺が心の内で解決策を思案していると──、
「ところで、ですが。ネムさんは攻撃魔法以外に、何かしら使える魔法はありますか? 回復、支援、変わり種で精霊魔法や固有魔法などなど、何でも良いですので」
「⋯⋯そうですね。回復魔法は使えないですけど、支援魔法なら少しだけ」
「そうですか。では、試しにタツキ君へと支援魔法をかけていただいても?」
えっ。
急に俺の名前が出てきて驚いた。
支援魔法と言うくらいだから、力が増幅したりとか足が早くなったりとかするのかね。
そういえば、リタ婆の店で売られていたマジックアイテムにも似たような効果のものがあったなー、などと思い返しながら。
「よし来い、ネム。レッツ支援魔法!」
「へ? わ、分かりました。タツキさんのテンションがやけに高いのが気になりますが」
気のせい気のせい。よしんばそうだったとしても無問題。
初めて受ける支援魔法とやらに期待して、ウキウキと気分が浮かれていることは否めない。
だが、ネムの助けとなれる事が嬉しいのもまた事実。
「言っちまえばウィンウィンの関係ってやつだ。気にすることは何もねぇぞ!」
「うぃんうぃん⋯⋯聞いたことない関係ですが、本当に良いんですよね? 受け止めきれずに爆発とかしませんよね?」
「ばくっ⋯⋯!?」
恐ろしい言葉が耳に入り、背筋が冷える。
前言撤回。浮かれた気分は何処かに消えた。
「大丈夫。大丈夫だ。腹は括る、男に二言はねぇ!」
「お顔真っ青ですよ、タツキさん。無理なら無理でいいですから。私が攻撃魔法さえ打てれば解決する話ですしっ」
「つってもなぁ。見た感じだと相当無理しなきゃキツいんだろ?」
「う。まあ、そうなんですが。つまり、攻撃職じゃなく支援職になれって事ですよね⋯⋯?」
不安そうに尋ねられ、俺は返答に窮してしまう。
やはり、ネムは"攻撃職"と呼ばれる役割に何かしらの憧憬を抱いているのだろうか?
とにかく、支援魔法を扱うことを疎遠しているような印象が、彼女には垣間見える。
このまま背中を押し続けてみるか、それとも潔く諦めるか。
俺に出来る事は無いか──と、思考を巡らせていたその時のこと。
「では、ネムさんへ試練をひとつ。今から私がタツキ君に向かって攻撃を仕掛けますので、攻撃魔法を使って妨害をしてみて下さい」
「「⋯⋯へ?」」
呆気に取られた声が漏れ、奇跡的にネムの出した声とハモった。
「──さ。ぼうっとしている場合ではありませんよ、御二方⋯⋯ええ、手加減はしますので」
「ちょっ⋯⋯」
いつの間にやら目の前に居たロヴィスカルが、袈裟斬りのごとき軌道で手刀を振るう。
反射的に上体を反らして避けたはずが、服の胸元がすっぱりと斜めに切られていた。
躱していなかったらどうなっていたのか。考えるだけでもゾッとする。
たたらを踏みながら体勢を立て直し、顔を上げると。
「タツキ君、受け身を」
「のわぁあ!?」
ふわり。
どういう原理か、ロヴィスカルが掌底突きを俺の上腹部にかましたかと思えば、一切の衝撃なく身体が浮かび上がった。
そのまま後方に吹き飛ばされ、
「あだっ」
草原という天然のクッションへと盛大に転がり込む。
「⋯⋯さて、タツキ君には相当なダメージが入っています。次同じ突きを喰らえば、骨折では済まないかもしれません」
「っ⋯⋯!?」
片手を地面について立ち上がろうとする俺を他所に、ロヴィスカルはネムへと脅すように言った。
はて、相当なダメージ?
確かに着地の衝撃で色々痛いが、それも別に大したものではない。
大丈夫だから気にしなくていい──と、慌てふためくネムへ伝えようとした所で、
「では、タツキ君。もう一度」
「⋯⋯あー、そういう事」
ロヴィスカルがこちらに目配せしたのを見て、察する。
この人は、ホラを吹くことでネムの背中を押そうとしているのだ。
そうと分かれば、便乗するしかない。
「あぁクソ、痛ってぇ! ロヴィスカルさんもマジっぽいし、頼むぜネム!」
「では、行きますよタツキ君。次で終わると良いですねぇ」
今度は一足でなく、ゆっくりと近付いてくる指南役。
俺も後ずさるようにして離れるが、その距離は着々と狭まっていく。
あと五歩。四歩。三歩⋯⋯すぐ先で紺色の髪を揺らすロヴィスカル。
彼は、俺の腹に向けてもう一度掌底を打ち込まんと構え──、
「ダメです! 『炎の弾幕』っ⋯⋯」
「うおぉ!?」
あと三秒足らずで接触するのでは、と思った矢先。
俺とロヴィスカルを隔つようにして放たれたのは、大量の炎の弾丸だった。
「⋯⋯おや、止められてしまいましたか」
ひょい、と華麗なステップで後ろに下がったロヴィスカル。
彼は、服に付着した土埃を払いながら優しげに微笑んで、
「ええ、ええ。攻撃魔法など、直接放てなくとも良いのです。⋯⋯ああ、ちなみにタツキ君はほとんどノーダメージなので、ご心配なく」
俺の手を取り、立たせて見せた。
「マジで凄いっすね、ロヴィスカルさん。あんだけ吹っ飛ぶ威力なのに衝撃ゼロっすもん」
「⋯⋯へ?」
間抜けな声が、場を通り抜ける。
どうやら、ネムは一連の行動の意味をイマイチ理解しきれていないようだ。
「いや、ネムって魔法で攻撃出来ないんだろ? だったら今みたいに誰かを守る感じで使えばいーんじゃねーのって話⋯⋯なんすかね、ロヴィスカルさん」
最後の最後で正解なのか不安になり、つい答え合わせをしてしまう。
「正解、と言えば正解なのですかねぇ。私としては、先程のように攻撃魔法を使える支援職が居ても良いのでは? という話でして」
「なるほど。微妙に的外れなこと言ってすんませんした!」
「いえいえ、間違った事を言っているわけでもなし。謝る必要など無いかと思われますよ? ⋯⋯と、さて。ネムさん」
「は、はいっ!」
唐突に名指しで呼ばれ、きゅっと身を強ばらせるネム。
そんな彼女へと、ロヴィスカルは。
「そう急かなくても良いのです。ええ、今は攻撃魔法を上手く扱えなくとも、いつの日か克服出来る時が来るやもしれませんからねぇ。それまでは、仲間を頼り。仲間と共に成長してみてはどうでしょう?」
そう言って、俺の方を見る。
つられたようにしてネムの視線もこちらに。
⋯⋯何これ、むず痒い。
仲間云々とか、少年漫画のノリかよ。まさか現実で聞くことになるとは思ってもいなかった。
「んんっ。ま、俺で良けりゃ力になるぜ。つーか俺より先輩なんだから自信持てっての」
咳払いして照れ隠ししつつも、とにかくフォロー。
「⋯⋯ですね。私はタツキさんの先輩なんですから、しっかりしなきゃ」
「おう、その意気だぜネム!」
これで一件落着か。
そう、俺が楽観的な思いを抱いた時。
「では、ネムさん。タツキ君へと支援魔法をかけ、スライムを倒してもらいましょうか」
「分かりました。タツキさん、今から魔法をかけるのですが⋯⋯爆発しないで下さいね? いきますよ? 『補助魔法・攻防強化』」
「えっ」
だから、爆発って何?
問おうとするも、時すでに遅し──俺の体を包み込むようにして、白い閃光が迸った。




