第二十一話 モテない勇者
「いやぁ、タツキちんもこっちの世界に来てたなんて。もう運命感じちゃうよねー、これ」
「うぜぇ⋯⋯」
目の前で軟派なセリフを吐く男──名を、潜木リキヤ。
小学校時代からの友人である彼が、何の因果か俺と同じくこの異世界の地に立っていた。
⋯⋯いや、本当になんでだよ。
俺以外にも召喚される人がいるってのは事前に聞いていたが、まさか親しい間柄のヤツだとは思わないじゃん。
つーか勇者ってこんな街中でばったり出会えるもんなの? どっか山奥で魔物狩りとかをしてたりだとか、そんなイメージがあったんだが。
「俺ね俺ね、冒険者ってヤツやってんの。これがおもしれーのなんのって!」
「え。勇者なのに冒険者? ⋯⋯あー、テンプレっちゃテンプレだわな」
「そーそー、タツキちんがよく読んでた漫画のシチュエーションと一緒! 初めて魔物とバトルする時はチビりかけたけど、今じゃもう敵無しよん」
軽いノリでそう言いながら、へらへらと笑うリキヤ。
そんな彼へ、俺はため息を吐きながら。
「お前さぁ。調子に乗った結果、ぽっくり死ぬとかマジでやめろよ? ただでさえ俺らって普通の高校生だったんだし」
「ま、そーね。でもさぁタツキちん。俺ら勇者って皆トクベツな魔法が使えるじゃん? だから、魔獣相手なら無双出来ちゃうんよねー」
⋯⋯そういやそうだったか。
一度ネムから勇者についての話を聞いた時のことを思い出す。
彼女いわく「勇者の方々はえげつない魔法を使ったりする」との事。
つまり、俺と違って正式に勇者として召喚されたリキヤもその例に漏れないのだろう。
「世の中ってほんと不公平だよなー⋯⋯」
思わず、愚痴をこぼす。
別にチート能力が羨ましいわけじゃない。
俺と違って魔法が扱える、という点を羨んでいるだけだ。
「分かるわー。俺の愚痴も聞いてよ、タツキちん。こんなに頑張ってんのに相変わらずモテねーの、俺。勇者だぜ勇者? ちょっとくらいさ、可愛い女の子とお近付きになれたっていーじゃん!」
「うわ」
「俺は貴族みたいに女の子を侍らせたいのよね。なのに、寄ってくんのはむさ苦しいオッサンしかいねーもん」
下心丸出しの勇者じゃねぇかよ、嫌すぎる。
年相応の不純な動機に軽く引いていると、
「⋯⋯むさ苦しくて悪かったな」
疲れたような、低い声が耳に入った。
成り行きを見守るように横で沈黙を貫いていた、熊人のオッサン──ヘルガルのものだ。
「んー、ヘルガルのおっちゃんは世話んなってるし別にいーんよ。問題なのは、さっきみたいに追っかけてくるヤツらっつーか⋯⋯俺は美少女パーティが組みたいの!」
「そんな贅沢なこと言ってるくらいなら、この兄ちゃんの手助けでもしてやったらどうなんだ? 友達なんだろ」
くいくいとこちらを指さすヘルガル。
「タツキちんの手助け? ⋯⋯知らないオッサンよりマシかもなぁ」
「リキヤ。言っちゃ悪いが、俺ってもうパーティ組んでる相手居んのよ」
「うえぇ!? ⋯⋯び、美少女? 美少女なん?」
まず可愛い女の子かと詰め寄る辺り、本当リキヤってアホだなと思う。
さて、どう答えるべきか。めんどくせぇ。
「あー、冒険者なんだから強さの方が重要じゃね?」
「そんな言い方するってことはやましいことがあるってことじゃん。どーせ金髪の魔法使いとかみたいな美少女だろ!」
勘が鋭すぎんだろコイツ。
確かにネムは素朴な可愛さを持ってるし、ロヴィスカルは美男子⋯⋯こっちは関係ないな。
とにかく否定することも出来ず、俺は口を噤む。
「裏切り者ぉ! タツキちんのこと、非リアだって信じてたのに!」
「お前から見た俺の人物像について、ちょっと話そうか。答え方次第ではぶん殴る」
「ごめん!」
謝るの早っ。
握り固めた拳が行き場をなくす。
ここまで潔く謝られたら謝られたで、言い逃げされたみたいな感じがして腹立つな。
「──うお、そろそろ帰って夕飯の支度しなきゃヤベーな」
外から差し込む陽光が、気付けば橙の夕焼け色に。
「ああ。そういや兄ちゃん、あの別嬪⋯⋯嬢ちゃんのお付だもんな。飯も用意してやってんのか」
「そうなんすよね、本当ぐーたらな雇い主で」
「ねぇタツキちん。別嬪? 別嬪って何?」
⋯⋯別嬪というワードに耳ざとく反応した馬鹿は放っておく。
「おっちゃん、防具は今度買いに来るんで。アホみたいな会話に巻き込んじまって申し訳ないっす」
「気にすんな。そこで凹んでる勇者に伝言がある時は俺に言ってくれりゃ良いぜ」
「あざます。リキヤ、そのうち一緒に飯でも食いに行こーぜ」
「うん。出来ればメイド喫茶で」
ねーよ、そんなもん。知らんけど。
「そんじゃ帰るわ。またな」
ひらひらと手を振りながら、店の外へと向かう。
別にあの場で扉を繋いで帰るという方法も取れたが、念の為。
人通りの無い路地に入り、さらにその中でも周囲からの見通しが悪い場所を探し、
「ここでいーや」
見つけ次第、何も無い空中に鍵を差して捻ってドアを出現させ、そのまま帰宅。
何度か随分とこの流れにも慣れてきた。
しかし、いつ何処で他人に目撃されるか分からないしな。
今のうちに見られた時の言い訳を考えておいた方が良いのかもしれん。空間を繋ぐ魔法とかってあるのだろうか。
まあ、その辺りに関してはネムにでも聞いてみるとして。
「たでーま。帰ったぜー」
扉を抜ける前にシューズを脱ぎつつ、俺の部屋へ。
「⋯⋯ん。今日はアイツ、俺の部屋にはいねーのな」
五分五分くらいの確率で俺の部屋に居座っているシルテットだが、今回はその姿がベッドの上に見当たらなかった。
となれば十中八九アイツの自室か、それともシャワーでも浴びているのか。
どちらにせよ、俺のやるべきことが夕飯作りであることは変わらない。
凝った料理を作るつもりも無いし、三十分ほどで作れるだろう。
──と、キッチンへ向かおうとした、その途中。
「おっさけー、おっさけー⋯⋯あら? おかえり。いつの間に帰ってたのよ」
「ついさっきな。あと別に俺は酒飲まねーから隠さなくてもいいぞ、ソレ」
「あ、そうなの?」
何事も無かったかのように、背中側へサッと隠したばかりの酒瓶を胸の前に持ち直すシルテット。
全く買った覚えのない酒瓶だ。
まさかコイツ、自分で買い出しに⋯⋯いや、無いな。この出不精に限ってそれは無い。
シルテットがどこからともなく嗜好品を持ってくるなんざ、今に始まったことじゃないからなぁ。
気にするだけ無駄だと思うことにして、俺は台所へと向かう。
「ねーねー、夜ご飯はお酒に合うやつ作って欲しいんだけど。出来そう?」
「おまっ⋯⋯そういう事は作る直前に言うなよ!?」
多少料理が出来るようになってきたとはいえ、急なメニュー変更はさすがにキツい。
予定としては肉料理を作るつもりだったし、合わないことは無いはずだが。
「てかさ。俺まだ未成年だし酒なんて飲んだことねーから、どんな料理が合うかなんてフワッとしか分からんぞ。それっぽいイメージだけで作った結果、カタツムリのソテーとか出てくるかもしんねーよ?」
「⋯⋯やっぱさっきのナシ。お酒のことは考えなくて良いわ!」
よし。脅迫成功。
「なら予定通りっつーことで。ちなみに、メインは肉巻きおにぎりな」
「めちゃくちゃお酒に合いそうなんですけど⋯⋯!」
良かったな。俺にはよく分からんが。
そのまま廊下を抜け、続けてダイニングでぽけーっと寛ぐクスリソウモドキを横目に素通りして台所へ。
さて、料理の時間だな。
──この後、ほろ酔い状態のシルテットによって、初めての酒を飲まされることになることも露知らず。
俺はのんびり、薄切りにした魔獣肉をぱちぱちと焼いていくのだった。




