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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
始まりの街
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第十三話 魔水晶

「ただいまー」


 休日を街の散策をして過ごした俺は、帰り際に出会ったネムを宿まで送り届け。その後すぐに人気のない路地裏へ移動し、シルテットの家(兼、俺の寝床)へと扉を繋いで直帰。

 外履きをスリッパに履き替えて、軽く伸びをする。

 暗い路地と繋いでいた扉は既に後ろ手に閉めてあり、次開いた時には廊下に繋がっているはずで。


「腹減ったし、飯でも軽く作っ──」

「あー! やっと帰ってきたのね、早くご飯用意しなさいよっ!」

「──痛ってぇ!? ばっ、お前、ドアを開ける時くらいノックしろよぉ!?」


 部屋を出て台所へ、と行こうとしたタイミングで勢いよく向こう側から開け放たれたドアの角が、鼻先にクリーンヒット。

 あまりの衝撃に鉄の匂いが鼻腔に広がるのを感じ、慌てて鼻を抑えた。


「はいはい、ごめんなさーい。それより私もお腹が空いてるの。ご飯作って?」

「本当に謝る気あんのかテメェ。つーか待ちきれねぇなら自分で作れっての⋯⋯」


 作る量が一人分増えたところで別に良いんだけどさ。せめて頼み方ってもんがあるだろうよ。

 とはいえ、俺がシルテットに何かを言ったとして、多分何も変わらない。

 この一週間を近くで過ごしてみて、コイツの面倒臭がりな性格を嫌という程に実感しているからな。そこら辺に関しちゃ早々に諦めている。


 ⋯⋯おっと、そういえば。


「なあ、この前見つけた水晶の魔道具ってまだあんの?」


 折角だ。夕食後にでも、魔力増幅の腕輪がもたらす効果を試してみようか。


「ああ、アレ? 私の部屋に置いてあるわよ」

「おっけい。しばらく借りるぜ」

「良いけど⋯⋯使えなくない?」

「さあな、分かんねぇぞ。魔力回路とやらの終わってる俺にも、ちょっとばかしの希望が見えてきたんだよな」


 台所へ移動する前にシルテットの部屋へ立ち寄って、サイドテーブルに置かれていた目的の魔道具を手に取った。

 それを、腕輪を装着している左手に移し替え。


「お、いけるんじゃね、コレ!」

「何の話──ってあら。魔力、扱えるようになったの?」

「そうそう。色々とあってマジックアイテムってのを手に入れてさ。ほら、この腕輪」


 腕を上げて、シルテットに銀色の腕輪を掲げるようにして見せる。


「あなたって今無一文よね。⋯⋯今すぐ返してきた方が良いわよ」

「おい待て、違ぇぞ? パクってきたワケじゃないから。ちゃんと正当な取引で得たやつだから!」


 可哀想な人を見るような視線を向けられ、慌てて否定。


「ったく、お婆さんの落し物を拾ったお礼に受け取っただけだっての。しかも普通に後払いで代金は払いに行くし」

「まーた人助け? よくもまぁ、そんなに困ってる人がぽんぽん目の前に現れるわね。もはやそういう体質なんじゃないの?」

「単なる偶然だろ。よし、じゃあ後でこの魔道具の使い方、教えてくれ」

「いいけど、その前に夜ご飯。食べながら教えてあげるから、早く作りなさいってば」 

「へいへい⋯⋯」


 急かされるがままに、キッチンへ。

 冷蔵庫を開き、肉や野菜などの材料を取り出していく。

 本来、今日はシルテットの使用人としての仕事は休みということもあり、昨日の残り物やらを使って手軽なものを作ることにする。


「さあて。今日の夕食は、っと」


 唐辛子っぽい辛みのある何か(食用)をふんだんに使ったスープをベースに、魔物のひき肉をコンロで焼いて投入。追加で、この世界で過去に召喚された勇者が流行らせたらしく普及されていたチーズを上に乗せ、さらに加熱。

 ふつふつと、溶けたチーズが波打ち始め。


「付け合せの堅パンも切って、メインは完成!」


 異世界産香辛料の放つ食欲をそそる香りがキッチンを満たし、ダイニングへと漏れ出していく。


「ねえ、まだー?」

「もうちょい待ってろ」


 みずみずしさの残る葉野菜を切り分け、手早にサラダを完成させる。

 あとはコップにお冷を入れて、順に食卓へ。

 先に座っていたシルテットの前にも並べていき、最後にスプーンとフォーク、ついでにお箸を添える。


「待ちくたびれたわ。はやく食べましょ!」

「俺も腹減ってたし、サッサと食うか。いただきます」

「いただきまーす」


 手を合わせ、食事を開始。

 テーブルを挟んで向かい側にシルテットが座る光景は、既に見慣れたもので。

 最初にこの世界に呼ばれた時はどうなる事かと思ったが、なんだかんだで割と直ぐに適応出来るものだなー、などと思えるくらいにはなってきた。


「うん、悪くないわね。たった五日とかそこらでここまで上達するなんて、意外とセンスあるんじゃない?」

「誰目線だよ⋯⋯まあ、好きこそ物の上手なれって言うしな。そういう意味じゃ合ってるのかもしんねーけど」


 料理をするのは普通に楽しいし。

 ⋯⋯おっと、そういえば。


「⋯⋯ところで結局、その水晶って何なんだ?」


 食卓上の燭台横になんとなく置いた水晶玉へ、視線を向ける。

 魔力というものを扱ってみたく、先程からうずうずとしっぱなしなのだ。

 俺の問いに対し、シルテットは咀嚼していたサラダを嚥下して。


「"遠見の魔水晶"よ。外界の好きな地点をリアルタイムで中継してくれる、暇つぶしにピッタリの魔道具ね」


 さらっと使用用途を説明する。

 大した代物でもないわ、といった表情のシルテット。

 ⋯⋯ははぁ、なるほど。

 つまるところ、千里眼的な──ってちょっと待て。


「え、この世界ってそのレベルの魔道具が蔓延ってんの?」


 だとすれば、地球の文明より圧倒的に進んでそうなんだけど。


「さあ。今は知らないけど、昔はもっとヤバいのがあったわよ」

「⋯⋯例えば?」

「ボタンを押したら街ひとつが滅んじゃう破壊兵器とか。危うく外界全部が更地になりかけた歴史もあるわ」


 なにそれ怖い。

 外を歩いて見た感じ、中世ヨーロッパくらいの文化レベルだったんだけどなぁ⋯⋯。

 身震いする俺に対し、シルテットは特に気にせず喫食を続ける。


「で、どうやって使うんだ結局。魔力を流してみりゃいいのかよ」

「しっかりと見たい地点を想像してね。言っとくけど、一度自分の目で見た場所じゃないと無理だから」

「了解。流石にそこまで万能じゃねーよな、むしろ安心したぜ」


 ふぅと息を吐きながら、俺はゆっくりと左手で水晶玉に触れた。

 集中。腕輪から放たれるふわふわとした熱量を操作し、透明な球体を包みこむ。

 想像する場所は⋯⋯とりあえず、市場でいいか。

 朝、昼と賑わっていた大通りを思い浮かべた瞬間、魔力が吸収されはじめる。まるで、急に主導権を奪われたような感覚だ。


「やっぱ慣れねぇわこの感覚⋯⋯でもまあ、これで成功だろ」

「ええ、そうね。良かったじゃない」


 水晶の中を覗いてみれば、見覚えのある大通り。

 夜道ではあるが、思っていたほど暗くはなく、意外と人も多い。夜市というやつだろうか?

 昼間に比べ、その身に武器や防具を装備している通行人がかなり多い。

 十中八九、彼らこそが冒険者だろうな。

 明るい時間に狩りやらの依頼をこなして、この暗い時間帯には街で過ごすのが冒険者の日常──なるほど、始終ただの予想ではあるが、よく分かった。


 で、明日。

 俺もとうとう、あの中へ身を投じるワケであって。


「⋯⋯よくよく考えたら、防具はねぇし武器も短剣一本だけ。装備がお粗末すぎな気しかせん」


 今更不安に駆られるが、約束してしまったものはもう遅い。

 興味があるからと言って、考え無しに行動してしまえば痛い目を見るのは当たり前。

 まあこれは教訓として、胸に刻み込んでおくとしよう。


 ミートボールを切り分けながら、俺は明日を楽しみにするのだった。

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