第十一話 マジックアイテム
「魔力増幅の腕輪に、解毒のペンダント。他にも色々あるけど、ココはあれか。アクセサリー型の魔道具屋さんか」
値札と共に書かれた品名を読み上げ、察する。
ゲームで例えるならば、バフアイテム。この店はどうやら、それと似たような便利グッズを扱っている場所らしかった。
しかし、魔道具か⋯⋯。
数日前のシルテットとのやり取りから、俺には使えないと判断したばかり。
眺めている分には楽しいものの、やはり少しだけ虚しくなってしまう。
どうにか工夫して使えるようにならないものか。
俺がぼうっと悩んでいると、
「何やら険しい表情をしておられますが、どうかなされましたかねぇ」
カウンターの奥から、この店の主である背の低い老婆が顔を覗かせ、問うてきた。
「いやぁ、俺ってばどうにも魔道具と相性が悪いみたいなんすよね。こんなに沢山あるのに、使えないのが残念だなー⋯⋯って」
言いながら小さく頬をかく。
この世界の常識には疎い俺ではあるが。
それでも勇者召喚とやらが行われていることから、何かしら外敵が存在するであろうことは察することが出来るのだ。
ならば必要なのは、やはり第一に自衛手段となるだろう。
街を出て見た瞬間に魔物に襲われて死にましたー、だなんてのは笑い話にすらなりゃしないしな。
「ほっほっほ。少しばかり勘違いしているようなので説明を⋯⋯この店で取り扱っている商品は、魔道具ではありゃせんのですよ」
嘆く俺に対して何を察したのか、老婆が意味ありげなセリフを投げかけてきた。
魔道具じゃない、とはいったいどういうことなのか。
湧いて当然の疑問に、俺はひとり首を傾げる。
「んじゃあ、この効果付きのアクセサリーは?」
「マジックアイテム、と。世間では確かそう呼ばれております」
「へー⋯⋯?」
質問に対して返ってきたのは、新たな単語。
魔法だとか同様、聞き馴染みがないわけではない。
むしろ、薄らとならば意味合いは理解出来る⋯⋯が。所詮はあやふやなラノベ製の知識であり、魔道具との違いなんぞ全く分からん。
和訳でもしてみるか? その場合、ただの手品道具になってしまうが。
「魔道具とは、外部から魔力を供給し動かされる、生活に欠かせぬもの。対するマジックアイテムというのは⋯⋯それ自体が特有の魔力を持っていて、対象に特定の効果を与え続けるお守りのようなもの。ほっほ、日常ではあまり気にせぬことを口にして説明するというのは、意外と難しいことですねぇ⋯⋯」
俺が何か言うまでもなく、マジックアイテムについての説明を続けてくれる老婆。
うーむ、効果を実際に目の当たりにしたわけじゃないからイメージがしにくいな。
つまり、魔道具ってのは電力の代わりに魔力で動かすことの出来る、異世界バージョンの機械ってことなのだろうか。意外にもしっくりとくる辺り、あながち間違ってはいなさそうだ。
だが、マジックアイテムという概念に関しては正直なところよく理解出来ていない。効果が保証されたお守りとでも思っておけばいいのかね。
「決定的な違いを述べるならば、ええ。マジックアイテムの方は使用者の魔力を必要としない、ということさえ覚えていればよいかと」
「ほー⋯⋯って、え。マジですか!?」
思わずつんのめるようにして、二の句を待つ。
使用者の魔力を必要としないと言うことは、逆に考えてみれば俺に魔力が無くとも扱えるってことだろ?
もしそうならば、是が非でも詳しく聞きたい内容だ。期待に胸を躍らせてしまうのも無理はないだろう。
「興味があるのかい? ならばほれ、試しにこの腕輪をつけてみなさいな」
年寄りらしく皺の刻まれた手で渡されるのは、店頭に並べられていた商品のうちのひとつ。"魔力増幅の腕輪"と記されている品物だ。
「なら、遠慮なく」
受け取り、左の手首に装着してみる。
金属製の腕輪だった。細い輪を描く真ん中をなぞるように一筋のラインが入っているだけの、シンプルなデザイン。
前の世界であれば、シルバーアクセサリーの一種かとしか思えなさそうなものだが、しかし。
「ん、パッと見普通のブレスレットって感じ⋯⋯いや何コレ。なんかふわふわと腕の周りに感じるというか。触覚が拡張されたっつーか」
まるで、腕の周りにふわふわと見えない煙をまとっているかのような。
そんな奇妙な感覚に襲われ、戸惑う。
「間違ってはいないねぇ。それが、魔力というものさね。ちょっとばかし待ってておくれ」
老婆は言い残し、カウンターの方へ。
と思えば、仕事机らしき卓上に置いてあったライトを消して手に取り、戻ってきた。
「これは?」
「魔道具ですよ。ほれ、この透明な部分に触れて魔力を注ぎ込んで下さいな」
注ぎ込むとはどうやって、とは思ったが。
とりあえず流されるままに手のひらで触れてみると、思わず声を上げてしまうような出来事が。
「え、ちょっ⋯⋯」
腕輪から発されていた熱に近い感覚が、無色の石がはめ込まれた部分へと少しだけ吸収されると同時──薄らと、ライトが淡い光を放ち始めたのだ。
「本職の魔法使いやらに比べたらせいぜい砂粒ほどの魔力でしょうけども、魔道具に使う程度ならその腕輪で賄えますからねぇ」
「そりゃいいですね。取っておいてもらうことって出来ますか? 来週にでもお給金が入り次第、買いに来たいんで」
値札を見ると、金貨が一枚。
日本円で言えば、約一万円くらい。
やや高めの買い物となってしまうが、俺にとっては思わぬタイミングで飛来した光明だ。それだけ払う価値は十分にある。
⋯⋯いやまあ、外の市場で露店をやってる人らに「不思議な力を得られるブレスレットです!」だなんて薦められた商品だったら、悪徳商法の可能性も疑っていたところだけども。
「落し物のお礼さ、持っておいき。また来てくれるのを待ってるよ」
──こんなことを言ってくれる老人を疑うのは、非礼というべきだろうし。
「金貨一枚を流石にタダってわけにはいかないんで、ちゃんと買いに来ますよ」
「欲のない若者だねぇ。分かったよ、それじゃあ後払いということにしておきましょう」
「⋯⋯ありがとうございます」
「ほっほっほ。安くしておくからね」
人生経験から来る差だろうか。
このお婆さんには、全くもって敵う気がしなかった。
「では、また来ます」
俺は頭を軽く下げ、退店する。
優しげな見送りの視線を背に感じつつ、外の空気を全身に浴びた。
上を向けば、日は既に建物の影。
夕焼けに染まろうとする空の下、のびのびと歩を進めながらに、同じく黄昏色に照らされ始めた街路を辿る。
気分は上々、浮かれ気味。
なにせ、こちらでの生活を送る際の大きな憂いが消え失せたのだ。スキップくらいはしたくなるさ。
「帰ったらまず、あの引きこもりにでも見せてやらなきゃあな!」
魔道具を一切扱えないと判明した時、アイツが浮かべた表情を思い出す。
馬鹿にするでもない「え、嘘でしょ?」とでも言いたげな視線が、あの時の俺には痛すぎた。当人に悪気のない辺り、なおさらタチが悪い。
だが、今なら評価を覆すことが出来る。
「ま、覆したところでどうすんのって話だけど」
どうせシルテットとの関係なんて変わらないし。
少なくとも当面の間は、家政婦とその雇い主。
魔道具が使えるか否かだなんて、家電製品を使いこなせるかどうかの違いでしか無さそうだ。
⋯⋯いや、まあまあな違いだな。
扇風機やクーラーの有無だけで、夏場の過ごしやすさとかも大分変わる。
生活環境が良くなれば、労働意欲も高水準で維持出来るだろう。
着々と社畜への道を歩み出している気もするが、それはそれ。どの世界でも、食い扶持が無けりゃ生きていけないのだ。
嫌な現実に気付きながら、帰りの扉を開こうと人気のない場所を探し始めた、その時のこと。
「──あれ。タツキさん?」
ふと、聞き覚えのある声が俺を呼んだ。
出処へと視線を向ければ、
「お、ネムじゃねーか。五日ぶりだな、元気にしてたかよ」
パンの入った袋を抱えた、金髪の少女がそこに。
⋯⋯予定変更。
少しばかり談笑でもしてから、帰るとしよう。




