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召喚主は駄天使でした  作者: ふりえもん
始まりの街
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第十話 初の休日、市場にて

 右を向けば、人の波。

 左を向けば、立ち並ぶ露店の群。


「やっぱ外っていーな。賑やかだし、何より広い! 初めての休日は異世界散歩でもして過ごしますかねー、っと」


 俺は軽く伸びをしながら、先日も訪れた市場へと続く街路を歩いていた。

 前述した通り、今日は休日。その昼間。

 つまりは家事代行の仕事が無い、自由な時間だ。

 ⋯⋯この五日間はあの家から出ることが無かったしな。

 インドア派をどうこう言うつもりこそないが、やっぱ外に出て陽の光を浴びる日くらいはあった方がメンタル的にも良いと思う。

 まあ、そんなわけで。

 俺はシルテットの許可を得て、もはや外界から隔離されてるとしか言いようのないあの空間から外へと出てきたのだ。


「にしても便利なもんだな、ほんと」


 今に至るまでの経緯を思い出し、呟いた。

 以前はどこぞの路地裏へと繋がった扉だが、どうやら他にも色々な場所へと繋げることが出来るらしい。

 正確には、扉を開けた本人が一度訪れたことのある場所ならばどこでも、と言った方が語弊が無いだろう。

 つまり、かの有名など〇でもドアには遠く及ばない。が、それでも相当に便利ではある。

 ちなみに前回シルテットが路地裏へと繋いだのは、人目に付かない場所だから、とのこと。


「そりゃあ目の前にいきなり人が現れたらびっくりするもんなぁ⋯⋯」


 しみじみと思い出されるのは、この前出会った金髪の少女、ネムのこと。

 俺が扉を通じてシルテットの家へと出たり入ったりする度に、信じられない出来事を目の当たりにしたかのごとく、目を丸くしていたっけか。


「なんだかんだで世話を焼いちまったけど、今頃どうしてんのかね。また腹空かせてたりしないよな」


 流石に大丈夫だとは思いたいが、あいにく俺はこの世界の厳しさを知っているわけじゃない。

 もしかすれば女子供が一人で稼ぐのは難しい社会のかもしれないし、はたまた魔法さえ使えれば意外となんとかなるのかもしれないし。

 どちらに転んだとしても、結局俺に出来ることなんて祈ることくらい。

 ならば一旦ネムに対する心配は置いておき、今はこの街を歩いて探索することに意識を向けるとしよう。

 俺は歩くペースをそのままに、街を陽の光と同様に包み込む喧騒へと耳を傾けた。


「──らっしゃいらっしゃい! 今朝方冒険者が狩ってきたばっかの新鮮なお肉だよっ!」

「こっちは隣領から仕入れたばかりの魔道具売り場ぁ! ほらほら、生活に役立つ便利な品物がいっぱいさ!」


 響き渡る、活気の嵐。思わず澄ましていた耳を塞いでしまいそうなほどのやかましさ。

 もしもこの前、朝市へ訪れていなかったのならば。俺は今頃、露店を構える面々の活力に萎縮していたことだろう。


「相変わらず人混みがすげぇなオイ。もう昼だから朝市は終わってるはずだろうに」


 すいすいと通行人にぶつからないよう上手く人の波をすり抜けつつ、奥へ奥へ。

 店頭に陳列された見慣れぬ品物らへと好奇心がそそられる度に立ち止まり、ひとしきり眺めてはさらに奥へ。

 相変わらずの冷やかし具合だが、まあそれはそれ。金さえあれば色々と買ってただろうし。


「お、どうでいお客さん。ウチの魔道具は。興味あるんなら色々と説明しまっせ? 例えばほらコレ、最新の癒しアイテム"万華香"!」

「なんだソレ」

「コレはですねぇ、様々な種類の花やらなんやら、果てには野菜でも混ぜ入れ、魔力を流すとあら不思議──」

「あ、じゃあ無理なんで良いっす」

「あぁんっ、お客さぁんっ!?」


 胡散臭い見た目の商人からのキャッチセールスを通り過ぎたり。


「ちょっと、そこの良い服来た坊ちゃん! ウチの武器、買ってったらどうさね?」

「⋯⋯あ、俺?」

「そーうそう! 見たとこ身なりが綺麗だしね、お金はあるんだろ? だったら是非ともウチの店にお金を落としてってくれよっ」

「勝手な決めつけは良くないと思うんすけど、その辺はどう思いますかね」

「あっはは、冗談キツい坊ちゃんだねぇ。さ、オススメはこの杖、色々な魔法の効果を強める効果が──」


 押しの強い商人から逃れるのに苦労したり。

 とにかく色々と新鮮な体験をしながらも、なんだかんだ楽しく露店を巡っていく。


 その後、かれこれ一時間ほど歩き回った頃合。

 俺は大通りから少し外れた場所にあるベンチに腰掛け、小休憩をとり始めたわけなのだが。


「⋯⋯うぷ」


 悲しいことに、見事なまでの人酔いを起こしてしまっていた。

 別に人混みが苦手、ってわけでもないんだけどな。なんなら前の世界じゃ休日に商店街とか行ったりするの、わりと好きだったし。

 目立った誤算をあえて挙げるとすれば。文化的な意味合いではもちろんのこと、獣人やエルフなど多種多様な種族が闊歩する街の中を散策するという行動が、予想を遥かに超えて負担が大きかったということか。

 視覚を通して得られる情報量があまりに多く、気付かぬ間に疲労がたちまち蓄積。


 結論。俺は、異世界を舐めていた。

 正確には、見知らぬ土地に対する自分の適応力を過大評価していた、とでも言うべきか。


「あー⋯⋯どーしよ。一回帰っちまおうか」


 人目につかない場所でササッと扉を開けば、家どころか自分の部屋に直帰出来るし、その選択もアリだろう。


「のんびりと道の端でも歩きながら、適当な路地にでも入って⋯⋯うん?」


 ──帰ろうかな、と言い切るよりも先のこと。

 俺の数メートルほど前にて、一人の老婆が落し物をしてしまったのが目に付いた。

 ちらりと観察し続けてみるが、どうやら当人は気付いていないらしく。落とした何かはそのままに、通りから少し外れた場所にある小さな店へと老婆は姿を消した。

 比較的人通りの少ない場所だったため、地面に横たわったままの落し物には俺しか気付いておらず。


「誰かが拾うのを待つってのもな。しゃーねぇ、ササッと拾って届けてあげるか」


 腹に軽く力を込めて、ベンチから立ち上がる。

 ごく短時間とはいえ、休憩したのが功を奏したのだろう。つい先程まで感じていた倦怠感は気付けば冷めており、グロッキー状態から無事に復活することが出来ていた。

 すたすたと小包に近寄った俺は、膝を折り屈みながらそれを拾い上げ。そのままの流れで持ち主である老婆が向かった方へと行き先を定め、足を動かした。


「お邪魔しまーす⋯⋯」


 目的の場所への距離も遠くなく、たった十秒ほどで辿り着いた。

 ひと目見て分かるほどに年季の入った扉を押し開けば、ギギギと古ぼけた木材の軋む音が静かな店内の端から端へ、響き渡る。

 中へ足を踏み入れ、辺りを見回してみると。


「ん、アクセサリーショップ的な感じの店か?」


 丁寧に陳列された商品の数々が必然的に視界へと飛び込み、思わずそれらを眺めてしまう。

 悪く言えば味気なく、良く言えばシンプルなデザインの指輪やらペンダントやらが売られており。薄暗い店の雰囲気も相まって、普通のアクセサリーショップでは無さそう、と感じる場所だった。

 しかしまあ、今はそんな事どうでもよくて。


「あのお婆さんは⋯⋯っと、いたいた。すみませーん」


 主目的である落し物の配達を優先的に済ませねば。

 持ち主は当然、現在進行形で困ってるだろう。対する俺は、売り物を見て回ることなんていつでも出来る。

 だから、なるべく迅速に。


「ほ? ⋯⋯おやまあ、こんな寂れたお店にわざわざようこそ。何かご入用のものでもあられましたかねぇ」

「いや、申し訳ないんですけど客とかじゃなくて。近くの道で落し物をしてらしたのを偶然見ちまったんで、持ってきた次第っす」


 言いながら、すっと届け物を差し出した。

 すれば、老婆は軽く目を見開いて。


「あらあら、それはそれは。ありがとうございます。やっぱり落としていましたか」

「そうですね、このお店のすぐ近くで。お節介だったかもしれないっすけど、他に気づいてそうな人も居なかったですし」

「いえいえ、助かりました。私みたいな歳になると出歩くのも一苦労ですからねぇ⋯⋯」


 困ったような声色で、しかし嬉しそうな笑みを浮かべながら深々と頭を下げてくる。

 別に礼を言われるための行動出ないとはいえ、それでも助けた身としては照れてしまうもの。

 こちらもぺこりと頭を下げつつも、照れ隠しとばかりについつい話題を転換。


「えーと、俺は適当にそこら辺の商品眺めて来ますんで。お婆さんはごゆっくり?」

「ほっほっほ。それは私のセリフですよ。どうかごゆるりと、思う存分に眺めていって下さいな」


 とりあえず、その言葉に甘えておくとしよう。

 ⋯⋯どうせなら、お金のある日に来たかったなぁ。

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