表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人の堕天使と世界消去の書  作者: 藤崎聖子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/38

第17章「王国軍侵攻」

三日でできることは少ない。


 だからジュンは、守る順番を決めた。


 子どもと戦えない者を地下遺跡へ。食料と水を分散。門前に堀を掘り、街道には馬を傷つけない柔らかな罠を置く。


「逃げたい者は止めない」


 広場で告げると、誰も動かなかった。


「相手は王国軍だ。負ければ反逆者になる」


 ベルグが槍を地面へ立てる。


「もう反逆者ですよ。飢え死にを拒んだ日から」


 獣人の大工が続く。


「ここで初めて、人間と同じ賃金をもらった」


 治療師の女性も笑った。


「病人を選ばず診ていい場所なんて、ほかにありません」


 ジュンは一人ずつ顔を見た。


「なら、生き残ろう。命を捨てる戦いはしない」


 王国軍は夜明けに現れた。


 地面から伝わる振動は、鐘の音より早く人々を起こした。


 子どもたちを地下へ送る。ニナは残ると言い張った。


「私も魔法を使える!」


「使えるからこそ、下で小さい子を守ってくれ」


「それ、逃がすための言い方?」


「一番大事な仕事を頼んでる」


 ニナはジュンをじっと見てから、右手を出した。


「絶対、帰ってきて」


 小指を絡める。前世にもあった約束の形だ。


「絶対だ」


 地下への扉が閉まると、広場が静かになった。


 守備へ残った者は八十人。王国軍の二十五分の一だ。戦いに慣れた者はさらに少ない。


 ベルグの槍先が震えている。


「怖いか」


「漏らしそうです」


「俺もだ」


「嘘でしょう」


「怖くなくなるほど強くはない」


 ジュンは城壁の外へ目を向けた。


「ただ、怖くても隣に立つことはできる」


 ベルグは深く息を吸い、槍を握り直した。


 城壁の上で種族も過去も違う者たちが肩を並べる。ジュンの経験値分配が細い光となり、全員の足元をつないだ。


 誰か一人が英雄になる戦いではない。


 この街を自分たちの場所だと選んだ全員の戦いだった。


 戦いの前夜、守備隊では一度だけ激しい口論が起きた。


 矢尻を丸めろというジュンの命令に、元猟師のダンが弓を机へ叩きつけたのだ。


「向こうは俺たちを殺しに来る。なぜこっちだけ手加減する」


「王国兵の全員が、この街を憎んで来るわけじゃない」


「命令なら殺す奴も、同じだろう」


 ダンの弟は、領主軍に村を焼かれて死んでいた。甘いと言われれば、そのとおりだ。


「殺さないせいで味方が傷ついたら、あんたが責任を取れるのか」


「取れない」


 部屋が静まった。


「死んだ人は戻せない。俺が責任を取ると言っても、残った家族の穴は埋まらない。だから殺さずに勝てる準備を増やす。罠を二重にする。盾を厚くする。無理なら退く」


「それでも足りなかったら?」


「その場で自分と隣の命を守れ。俺の理想のために死ぬな」


 絶対に殺すなとは言えなかった。そんな命令もまた、遠くから下す安全な正しさになる。


 ダンは丸い矢尻を一つ拾い、指で重さを確かめた。


「俺は弟の仇を討ちたい」


「止める権利はない」


「だが、明日来る兵が仇とは限らん」


 彼は夜明けまで矢尻を削った。


 戦いが始まったとき、最初の一矢で敵兵の兜だけを弾いたのはダンだった。


 地平線を埋める槍。騎兵。攻城塔。中央には、巨大な筒を七本並べた魔導砲がある。


 指揮官は白馬に乗ったゴルダ将軍だった。


「反逆者八神ジュンへ告ぐ! 堕天使を引き渡し、武装を解除せよ!」


「断る!」


 城壁の上から答える。


「住民を盾にする卑怯者め!」


 城壁の伝声管から、地下へ避難したニナの声が響いた。


『私たちがジュンお兄ちゃんを守ってるの!』


 兵の一部が笑った。ゴルダの顔が赤くなる。


「撃て!」


 魔導砲が火を噴く。


 セフィラが防壁へ術式を広げた。七発の光弾が透明な壁へぶつかる。二発目でひびが入り、三発目で砕けた。


「王国にこんな兵器があったのか」


「天界式よ。誰かが教えた」


 残る四発へアザリアが手を向ける。重力で軌道を上空へ曲げた。光弾は雲を割り、遠い山を削った。


「次弾まで二分」


 ラミナが告げる。


「その前に砲を止める」


 ジュンは城壁から跳んだ。


 地面へ落ちる直前、重力を消す。敵陣の前へ降り立った。


 騎兵が殺到する。足元の術式を書き換え、馬へかかる前進の力を横へ流した。騎兵隊が二つに割れ、街の左右を通り過ぎる。


「兵は殺すな! 武器だけを狙え!」


 街の守備隊が矢を放つ。鏃は丸く削ってある。腕や兜へ当たり、兵を落馬させた。


 ジュンは敵陣を走る。槍を折り、剣を落とし、鎧の留め具を切る。


 ゴルダ将軍が巨大な斧で立ちはだかった。


 彼はただの権力者ではなかった。


 斧を一振りするたび、地面の衝撃だけを街から外へ逃がす。背後の兵を巻き込まない足運び。若い頃、一人で魔物の群れから砦を守ったという評判は本物だった。


「貴様ほどの力が、なぜ追放者に従う!」


 ゴルダはアザリアへ叫ぶ。


「彼は命令しません」


「なら何のために戦う!」


「私が守りたいからです」


 将軍は理解できない顔をした。


 命令と服従だけで軍を率いてきた男には、自分で選ぶ忠誠が分からない。


 斧が再び落ちる。ジュンは刃の軌道をそらすのではなく、柄へ重力をかけた。ゴルダは即座に手を離し、拳で攻める。


 鎧越しの打撃が腹へ響く。


 ジュンも拳を返す。互いに三歩下がった。


「無能ではないな」


「今さらか」


「だが、国は個人の情で動かん!」


「情を捨てた国は、誰を守る!」


 二人がもう一度ぶつかる。


 敵の強さを認めた上で、それでもジュンは退かなかった。


「甘い戦いで国に勝てると思うな!」


 斧が地面を割る。衝撃が街へ走った。


 アザリアが重力の壁で受ける。黒い翼から血が散った。


「アザリア!」


「支障ありません」


「痛いなら痛いと言え!」


「……痛いです」


「よし。後で治す!」


 ジュンは将軍の懐へ入った。斧の柄へ《星断》を当てる。硬い魔法金属が断ち切れた。


 拳を腹へ打ち込み、鎧ごと吹き飛ばす。


 将軍が倒れても、魔導砲は止まらなかった。


 砲手ではない。地下から魔力を吸い上げ、自動で動いている。


「次弾、五秒!」


 ラミナの声。


 七門すべての砲口が街へ向く。


 地面が突然ひび割れた。


 裂け目から、溶岩でできた巨大な腕が現れる。腕は魔導砲をまとめてつかみ、敵味方の頭上へ振り上げた。


 理性のない女の咆哮が、大地の底から響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ