共同生活(2)
俺は湖畔まで歩くと、始祖が水面を歩いている。
彼女はどこから用意したのか分からない、黒いローブを着ていた。
俺は波打ち際で足を止めた。
緩い潮騒が足元を濡らす。
姿形こそヒロインではあるがそうではない。
観測結果全てが「これはヒロインである」そう結果を出した。
それでも俺は違うと思った。
「中々良い場所を選んだのう」
始祖が近づきながら声をかけてきた。
仕草が違う。
ヒロインは考えるような動作をしなかった。
「安定した水源の確保は基本だ」
俺はそう言った。
始祖が「うげ」とした表情をする。
それは彼女と同じだった。
以前「その顔は何だ?」と彼女に聞いたことがある。
彼女は笑いながら「うげ~~~しかないじゃん」と言った。
「可愛げも無ければ、情緒もない、そなた本当に人間か?」
「肯定する」
「そなたは機械だな。人を殺すための道具に過ぎん」
「今更否定する根拠がない。俺は最善の結果こうなっただけだ」
始祖が笑いだした。
「そなた、自分の滑稽さに気づかぬのか?」
「最善を尽くした現在の有様を」
事実を言われただけで怒りは湧かなかった。
「お前の救助には感謝している。今すぐにでも戻ることが出来れば」
「無理だな…そなたでは勝てない」
始祖は嘲るように見上げていた。
「怨霊側の手札は開示された、一つずつ摺り潰す」
俺はそう言った。
今までそうしてきた。
「で?最後の怨霊はどうする?」
「そなたは得意の論理的思考で怨霊になぜ、西暦4000年で勝利することが出来たのか分かっているのか?」
始祖が手首をクン!と曲げた。
彼女の背後が渦巻き、水柱を上げた。
雨のように水が降り注ぎ、俺を濡らす。
始祖は一滴も水が当たっていなかった。
「分かるか?これが」
始祖が言う。
「warmachineならこの程度容易い、こんなものは何の役にも立たん」
始祖がまた笑い始める。
「これで分からぬ?まだ戦力差などという物差しで測っておるのか?」
「そなた眼が濁っておるな」
始祖の視線が冷たく殺気を帯びる。
「ここまでヒントを与えて気づけぬとは‥‥もう少し頭を柔らかくしてやるか…」
「のう?」
構えた所で無駄だ。
この相手にどうすることも出来ない。
ヘヘヘヘ!
アネゴ!どうかご勘弁を!
インカムのマイクを兄弟が制御して話し始めた。
「ん?主人公と同じ声であるが違うのう?そなた何者であるか?」
あっしは生まれも育ちも西暦4000年
主人公の戦闘支援人工知能のAIでございやす。
この度はウチの兄弟分がとんだ失礼を…どうかご容赦願います。
「兄弟。人類同士の会話への介入は倫理規定に違反している」
も~~~~ウチの子ったら!
これですわ!
アネゴの言う通り頭が固い!
「ふむ‥‥AIとやらそなた、このミジンコ以下と付き合って何年経つ?」
そろそろ15年目でさぁ‥‥
前の職場の雰囲気がどうしても抜けないもんで!
先日はアネゴの手を煩わせてしまって…アッシは冷や汗だらだらですわ
「我の寿命から考えれば一瞬であるが、このような俗物をよくぞ助けた」
「褒めてやろう…大儀である」
おほめにって…
何をなさって…
AIが驚くのも無理はない。
始祖が俺に近づき、インカムをじっと見つめている。
「そなた…よき魂を持っている。人々の祈りと自己の研鑽、ここまで積むものは稀だ」
「中々の美男子でもある」
始祖が言った。
美男子ってアッシは人工知能ですぜ?
いや~~~照れちゃうな
ブロ職場変えて良い?
「取り込まれるな…危機感が無いぞ」
俺は言った。
「これを15年か…体のないそなたは辛かったであろう」
始祖が僅かに下がった。
憐れむような視線を俺に向ける。
うう……分かってくださいますか
って俺人工知能なんで感情なんて、錯覚でしかありませんぜ
「感情など錯覚か。実に面白い」
うんうんと始祖が頷く。
「ソレを渡せ」
始祖がインカムを目で追った。
「これは‥‥だめだ」
俺は何がとは言えない。
ただ駄目だった。
「この者と会話がしたい。そなたが挟まっては不快極まる」
あっ‥‥の無理っすね~~~
俺の人格を形成する法務部人格がバッテン出してます。
マジでやめて!って事です。
「こやつが我に支配されていると解釈してみよ」
「力による支配は敵対関係か?現にそなたの主人は我に降伏しておる」
ちょいまってくだせ~~~
法務部…いいよな…黒よりのグレー?
じゃあグレーじゃん、ガタガタ言わない!
これ任意の偵察!いいな!
お待たせしました!大丈夫です!
是非お供させてください!
始祖が俺の耳からインカムを剥ぎ取る。
「ま‥‥承認する」
敗者に何の権利が有る。
何もない、俺は始祖の気まぐれで生かされているに過ぎない。




