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座標を失って(3)

ヒロインの意思は固く、彼女の絶食は5日目が過ぎていた。

メディパックの点滴を使い何とか持っている。

最初は針を抜こうと抵抗してきたが俺は無理やり押さえつける事しかできなかった。

今は針を抜かないよう、俺は彼女の横に椅子を置いて座っている。

全身に強烈なだるさと眠気がのしかかる。

俺はカフェインの錠剤をかみ砕いて嚥下した。

4日目に彼女に水を飲ませようとしたが、吐き出された。

これが死のうとする人間の意志なのか。

そう思った。

「兄弟。支援要請だ」


ブロ…俺に支援を頼む意味が分かってンだろうな


「点滴ではあと数日しか持たない」

「協力してくれ」


俺はブロを支援するために作られた。

残酷なよう


「御託はいい…提案しろ」


精神高揚アンプルの使用を提案する。

それが戦闘支援人工知能として出した答えだ。


「ふざけるな!」

「あれがどれ程罪深いものか分かっているのか!」

「人を従順にさせるだけのものだ」


クスリで狂ったアホどもを殺して回る支援をしてんだ。

ブロ…覚えてるぜ


兄弟の言葉に俺は冷静になった。

今は手段を選んでいる場合ではない。

「仮にあのアンプルを使って飲食可能な状態まで戻そう」

「彼女の精神はどうなる」


聞かない方が良い


「言え」

俺は言った。


7日間も続けたら元には戻らねぇな

まして手持ちのブツは緊急用のアンプルだ

効きすぎる


手が震える。

彼女の命を救いたいなら、壊せというのか?

嘘だ。

黙れ…現実を見ろ。


ブツを欲しがってもブロなら難なく制圧できる

クソみてえな提案で、クソみてえな気分だ


戦闘支援人工知能として兄弟の提案は理に適っている。

二度と彼女が笑わなくなる?

理不尽に怒られる事も、泣いた顔も。

それを俺の手で壊せというのか。

俺は立ち上がり、メディキットの中から精神アンプルを取り出す。

「恨んでくれ…俺にはもうどうすることも出来ない」

注射針を彼女の首筋に近づける。

近づく度に呪わしい記憶が何度も蘇る。

俺が粛清した背信者達と俺は同じことをしようとしている。

全身に耐えられないような苦痛が走る。

俺はそれをねじ伏せ、彼女の首筋に注射器を突き立てる。

「‥‥」

彼女の口が僅かに動いた。

「あなたは悪くない‥‥だと?」

俺はアンプルを床に叩きつけた。

「~~~~~~~~~~っ」

出来ない。

俺には出来ない。

彼女を壊すことだけは出来ない。

「始祖‥‥居るのだろ!」

「俺の惨めな様を見て笑っているのだろう!」

「出てこい!」

俺は彼女に憑依した始祖に叫ぶ。

むくりと彼女が起き上がる。

「ふむ‥‥で?」

彼女の中で始祖と人格が入れ替わっていた。

「我を呼び出してみただけか?」

彼女と同じ声、同じ顔で始祖が言う。

嗜虐的な瞳で俺を見つめる。

「降伏する」

俺はそう言った。

「自分は大層な聖騎士だと抜かしておったな」

「そのそなたが降伏か」

「よほどこの娘が大事と見える」

始祖が笑いながら俺の首を不可視の力で締め上げる。

「降伏なら条件があろう?提示せよ」

俺は抵抗しない。

もはやする権利が無い。

「ぉ…俺の持つ全てだ、殺したいなら殺せばいい、だが彼女は助けろ」

「ほうほう…随分と健気な事よ…なあ!」

更に首が締まる。

僅かな呼吸だけができた。

視界が明滅し、意識が遠くなる。

「怨霊との戦いで誰がそなたを救った?いうてみい?」

「‥‥‥お前だ」

「そうサなぁ‥‥恩人には何か言葉がある。違うか?_」

「…支援に‥‥感謝する」

不可視の力が解かれ、俺は床に倒れた。

「ふむ。そなたの降伏が2日遅かったら手遅れであったな」

「強情な娘よ…」

始祖はそう言いながら、机に置いたレーションを食べ始めます。

「支援要請」

「マッスルスーツの挙動を任せる。交戦はするな」

自分の意志とは関係なく、着こんだマッスルスーツが体を動かす。

兄弟の操作で俺は立ち上がった。

始祖が食事をすることで、助かったのだという安堵があった。

「味のしない泥を食っているようなものじゃな。これは食事と言えぬ」

始祖が興味なさそうに食事を続けた。

「食事など栄養さえ取れればいい」

俺は言った。

「人間として怠慢の極みである」

「そなたは本当に格が低いのぉ」

始祖は椅子から立ち上がると、着ていた服を脱ぎ始めた。

それを俺に投げつけた。

「湖で沐浴する。洗っておけ」

パンツが頭の上に乗った。

「了解した」

俺はそう言った。

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