座標を睨む(3)
「じゃあ座ってくれ」
兄弟がそう言うと、空間に小さな円卓と椅子が出現した。
兄弟はスッと動き、始祖座る椅子を引いてエスコートした。
俺に古代の礼法など分かる訳もないが、兄弟の動作は洗練されて淀みがない。
始祖を女性として扱っている事だけは分かった。
あの始祖が気に入る訳だ…俺にはできないな。
「あの茶番って何?」
彼女は椅子に座りながら言った。
ドスッと兄弟が椅子に座る。
「グッドコミュニケーーション!ってやつだよ真似すんなよイェア!」
全員が椅子に座った。
この湖畔はこの四人で生活をしてきた。
肉体を持つ俺と彼女、電子的存在である兄弟、怨霊の分け身として存在する始祖。
何一つ共通点が無く、この精神チャンネルでなければ集まることが出来なかった。
「ではアネゴ、未熟者ではありますが、あっしが進行して良いでしょうか」
兄弟が深々と机に額を付けるほど頭を下げている。
こうしてみるとあいつは処世術が上手い。
始祖はよいと言った。
「超絶簡単に言うと怨霊をどうしましょうかって議題なんだよね」
兄弟がクルンと顔を上げて話し始める。
懐かしい…。
猊下が東方聖騎士団で代表を務めていた時…よくあんな顔をしていた…。
見ているか…戦友…。
俺たちはまだ生きている。
はい!とヒロインが手を上げる。
どうぞ~~~と兄弟がが促した。
「倒すって認識だったんだけど」
「そう!ここ!ヒロインちゃんの言ったことがミソなんだ」
ホワイトボードが出現し
【クソどもの戦力】
①怨霊 ちょーーー強いでも時間経過で消滅までデバフかかる
②ライバル 主人公の全盛期と同等 人類最強の一角
③未確認存在 こいつ居ないと怨霊が戦力持ってる理由がつかねえー死ねボケカス、お前がいると予測確度が下がる
キュッキュと兄弟が内容をまとめた。
「まあはっきり言うけど、現状戦力だと全滅だね☆俺は出撃させないよ」
当然だな。
①を俺たち人類が究極の犠牲を支払って勝利した。
教会の連中は主の示した奇跡と認定するだろうが。
俺は違う。
殺しに奇跡などある訳がない。
「ふーん①と②は知ってる。ボコられたからねライバルに」
彼女は言った。
ホワイトボード見ると、敵の戦力は圧倒的だ。
湖畔で始祖に散々折檻された事を思い出せば、いかに自分が軽率だったか理解できる。
良いか?俺は挙手した。
「俺も現状戦力では撤退をしながら消滅を待つのが現実的な判断と思う」
「だが③未確認存在は初めて知った」
③未確認存在?
考えたことも無かった。
だが、怨霊は始祖のように「対話」が出来る存在ではなかった。
強烈な執着で俺と彼女の肉体を欲しがっている。
そんな存在が帝国軍を統率し、俺たちをあの座標に誘導するだろうか。
始祖による湖畔への転移がなければ全滅していた。
俺は不思議な感覚だった。
この空間の影響だろうか…
高速に思考を走らせても肉体の疲労を感じない。
兄弟と視線が合った。
あいつは俺の演算を待っている。
俺は兄弟に「進めろ」と頷いた。
「ブロ、こいつは確実にいる」
「二度目の怨霊戦で転移前の戦力を分析すると、こっちの動きが見透かされていた」
西方聖騎士団聖騎士のライバルを最終局面まで秘匿された。
問題はそこではない。
ライバルほどの聖騎士が怨霊に与するなど、俺の中の常識ではあり得ない。
奴もまた西暦4000年の同胞を失っている。
怨霊への憎悪なら俺と同等だろう。
報酬だな…。
奴が抗えない報酬を約束された。
支払っているなら「俺たち」聖騎士は世界への脅威に容赦しない。
俺は思案しながら一つの推論を述べた。
「始祖がハッキングされている可能性は」
「無いよりのアリだった。ヒロインちゃんの体が隠れ蓑になって怨霊は始祖を知覚できない」
ですよね?
兄弟がそう言うと始祖は頷いた。
底知れぬオーラが漂い始めている。
始祖には心当たりがある…ということか
「何より俺ぁブロの奇襲が失敗する可能性を低いと予測していた」
「ブロとwar machineによる亜光速奇襲は予測できても止められない」
「止める方法はたった一つ」
兄弟が俺を見る…。
姿形こそ違うがこいつは俺を支援し続けた兄弟なのだ。
「目的地にライバルを配置することか」
「そう最強の攻撃力を持った戦力をそこに配置するのは偶然じゃねえ、作為がある」
「マジで分かんないんだけど?」
彼女が言う。
その疑問は当然だ。
俺と兄弟は認識の齟齬を埋めながら話しているようなものだ。
俺は話しながら内容を精査するつもりで話し出した。
「君は俺と二度戦って負けているだろう?」
「うん」
コクンと彼女が頷く。
「三度目の正直で君が勝負を挑むとする、君は必勝の準備をしないか?」
「そうだな…報酬が、俺を物理的に受け入れる事が条件だったとして考えてみてくれ」
彼女の目がギラっと光る。
…必ず今日の補填はする…。
俺はそう思った。
「そうだね!私なら始祖にお願いして完封するかな」
う~~~~~ん、容赦ないな。
ハイハイハイと兄弟が手を交差した。
「おじさんたち真面目な話してるの」
「つーかここに仕事の話持ち込まないで…辛い…コイカツ支援もう嫌」
「怨霊は西暦4000年の世界で負けている」
「ブロの強さを嫌って程知ってるんだ」
「ハッ!そんな奴がブロの接近を許す?あり得ねえよ」
兄弟は鼻息荒く言い切った。
「始祖良いだろうか?」
俺は始祖に問いかけた。
「なんじゃ?」
「仮説を確定させたい。俺が仮にあなたに干渉できる能力を得たとしよう、俺に勝ち目はあるか」
「我は純粋な戦士ではない。その前提なら我は勝てぬ」
「俺も同意見だ」
つまり…
俺たち西暦4000年の人類には意図せず始祖の領域を脅かす何かがあった。
これは確定情報だ…
強烈な怒りが俺の中に満ちる。
どんな存在であろうと…人類存続を妨げた者に、極めて正当な代償を支払わせる…。
俺と猊下は共に地獄に落ちる決意をして、執行者の審理を10年以上続けた。
彼の献身を踏みにじった事を絶対に後悔させてやる…。
俺は冷徹な思考で内容の整理を続ける。
怨霊側にとっては俺は最終目標であると同時に目的達成の障害だ。
なにより分け身の敗戦はトラウマとして刻まれてもおかしくない。
怨霊単体なら慎重な方針を採用するだろう。
この湖畔での共同生活で、始祖は極めて理知的な部分がある。
それは間違いない事だった。
兄弟の立てた③という推測は、物的根拠が存在しないだけだ。
座標の外側に居るからこそ積極的な方針が採用できる。
…居るな。
俺は直感を信じる事にした。




