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座標を睨む(1)

俺は為すすべなく始祖に足を掴まれ引きずられていた。

彼女の中に始祖が存在する事を理解していた筈だった。

「殺すわけではない」

始祖は愉快そうに言った。

「くどいようだが確認する、彼女は無事か?」

「馬鹿者が、自分で確認する術があろう?」

俺は胸元の守り袋に意識を集中する。

(無事か?)

(ゴメン!油断してた…)

心に響く彼女の声で俺は安心した。

「お前は強者として当然の権利を行使している」

「だが…だが…」

俺の中にある憤怒をぶちまける。

「何故だ!俺は今日彼女に全てを受け容れてもらうつもりだった!」

「残忍な存在だと思っていたが、これは酷すぎる!」

(いや…マジでそう!)

「些末なことよ…」

始祖が言う。

「些末だと!俺がどれ程の勇気を振り絞り…がっ!」

後頭部に石が当たる。

「我は待つことが本来嫌いだ」

始祖が振り返り、口角だけを上げてニヤリと笑う。

ヒロインそのものの顔だが、人格で何もかも違った。

「馬鹿者は待つことが好きなようだがな…」

こいつは全てを知った上で俺の心を踏みにじっている…。

理不尽だ…

(あ、ちょい待って…)

(君じゃ冷静な話が出来ないから私が言うね)

(AIの演算が終わったって、何だろ?)

「兄弟の演算?」

「あの者に頼みごとをしておったのよ」

「知らないぞ!」

「当たり前であろう?女性との秘め事を話すほどあの者は無粋ではない、そなたと違ってな」

「あの者は実に良い、我を女として遇する。極めて心地よい」

(あ!それ分かる!)

(精神チャンネルの始祖ってマジ美人のオネーサンだからね)

「ぐ…く、謝罪する配慮が足りなかった」

彼女の言い分が正しければ、俺は極めて不快な接し方をしていた。

精神チャンネル?

「精神チャンネルとは何だ?」

「この者の精神世界と言えば、理解できるか?」

「成程…彼女がその技術を…ぶ!」

俺は地面にビターーーンと叩きつけられた。

…痛い。

「うつけが!ヒロインの技量は問題ではない!」

今度は顔を下に引きずられる。

「問題は貴様だ!いつまでもヒロインを受け入れぬそなたの臆病さが我をここまで待たせたのだ!」

(そうだ!もっと言って!私は毎日オッケーだった!)

「申し訳ない…本当に申し訳ない…」

俺は地面に陳謝するしかない。

「精神チャンネルを共有するためには、互いを深く受け容れる必要がある」

「その点でヒロイン…そなたはよう頑張った褒めてやる」

(えへへ~~~)

この差は何だ?

(君も拗ねないで…ね、分かるでしょ?)

彼女の感情が伝わり、体に痺れたような快感が走る。

「分か‥‥」

俺は放り投げられ、べしょっとwarmachineの手に乗せられた。

不可視の力による体の拘束は解けている。


『アネゴ!まじで出来るんですかい?』

いつもインカムで喋る兄弟が本来の肉体であるwarmachineのマイクで喋る。

「そなたに魂があればな!」

始祖が巨大な手に飛び乗りながら叫ぶ。

『自信ねえなあ…俺シャイだから』

俺の中で何かが切り替わり始める。

兄弟がインカムではなくwarmachineを起動するという事は…

それだけの事だ。

「兄弟!俺には何が起きるか全く分からん!不安か!」

俺は叫んだ。

コクピットに上昇する手が止まる。

俺はハッチの中に飛び込むとシートに座った。

「どうした兄弟?回答を入力しろ」

『ブロ…俺に魂はあるかい?』

「あったら良いな、一緒に天国に行けたら面白そうだ」

『おいおい地獄で大暴れしようぜ?』

「調子が戻ってきたな、俺たちは地獄はデキンらしい」

『出禁か…違いねえ…アネゴ!お待たせしやした!やってくだせえ!』

始祖が俺の膝にちょこんと乗る。

「頭を貸せ」

そう言って額同士がくっ付く。

「返却を希望する、ヒロインとキ…!」

ノイズのような思考が漏れ、意識がブツっと切れた。




俺は見たことのない‥‥

巨大な…

なんだここは?

図書館?

巨大な書架の周りをノイズの走ったオブジェクトがぎこちなく動いている。

ここが精神チャンネル?

ヒロインの精神世界?

俺の目の前を一人の女性が通り過ぎた。

黒いローブを纏った燃えるような髪色。

見たことがない。

「あなたは誰だ?」

俺は言った。

「言語体系が古すぎる…あの者ゼロイチで高次元の門を叩いたのか」

女性はブツブツと話している。

俺など視界には無い。

「いけるか?いや…同調している…面白い」

「高次元演算を…いやはや…あまりに強引過ぎる」

「恐れ入ったぞ人類の叡智とやら…」

パンチン!

女性が指を鳴らすと周囲のオブジェクトが滑らかに移動し、それが無数の女性であることが分かった。

「我が始祖である」

‥‥‥これが始祖?

この理知的な雰囲気を持つ存在が?

俺は姿勢を正し一礼する。

「東方聖騎士団Playerと言う。貴殿への非礼を陳謝したい」

始祖が穏やかに笑う。

俺を折檻するときの燃えるような凶暴さは感じない。

「よう来たの…こうして対面する時が来るとは思ってもみなかったわ」

「同意する、次回の招待は時と場合…いや書面で頼みたい」

俺は肩を竦める。

始祖が口元を隠して笑った。

「おーい!」

彼女の声が聞こえる。

目の前に扉が現れ。

ガチャリと開いた。

「よ!」

ヒロインが片手を上げて挨拶する。

「中々思い通りにいかないようだな」

俺はそう言った。

ヒロインは片手で扉を閉めて頷いた。

「マジでアイツ来れるの?」

ヒロインが始祖に聞いた。

「準備が有るらしい、我の被支配人格が手を貸している」

始祖が二階の手摺を見上げた。

「兄弟と規格が合うのか?言ってみればここはヒロインの脳内と思うのだが」

「あの者は誰よりも美しい魂を持っている、心配は要らぬ」

「我の処理速度とwar machineの処理速度の同期が面倒だったの」

始祖が眉間をグリグリと押していた。

「ふむ、来るか」

館内の照明が落ち、スポットライトが階段を照らす。

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