影を縫うように(9)
私は「ハグまでならOK!」を拡大解釈し、彼と同じベッドで寝起きをする事にした。
彼は条約の拡大解釈であり法を私物化している。
と言っています。
私にも言い分があった。
手を握りながら寝るのは態勢として結構キツい。
「君のために腰が痛い」
私がそう言うと。
ぐぬぬ、という顔をして「承認する」を引き出したのだ。
ゴネ得☆
だった…
めっちゃムラムラする…
最近発散してない…
凄く悲しい顔で一人で寝る、そう言われた。
で、できるかーーーーっ!
深夜…彼のベッドで一人ムラムラを抱えている。
「シエン!シエン!」
私は机のインカムに小声でAIに助けを求めます。
お客様、お電話ありがとうございます
株式会社人類支援機構の営業時間外でございます
平日午前9時から午後17時に支援サポートをしております
ブーッブーッ
あんにゃろ…
逃げやがった!
彼の逞しい腕が私を抱き寄せる
「がっ…!」
やばいやばいやばい!
始祖!始祖にちぇ…
だめだ…
合体する寸前で体の主導権渡されそう。
使えね~~~~~~~!
あっ。
私は無意識で彼の足に自分の足を絡めました。
「…っ!」
正解は①即合体!
違う!
落ち着け!
①はまだ早い!
絶対彼起きてる!
危機察知して抱き寄せてきた!
くっそ~~~~メッチャ幸せっ!
爆発しそう…
もう一人自分がいたら…
ん?
と思った出来そうだと思う。
始祖に人格を入れ替えられたとき、私は私の中で自由に動いていた。
理性を自分の中に沈めて、体を操作すれば良いんだ!
私は…
思考を深く潜ませる…
深く自分の中に潜る。
ここか?
違うここは私を始祖が押し込めてた場所…
どこだ?
私は自分の内側を観測する…。
見つけた!
始祖!
私はそこに思考を向けた。
私は巨大な図書館の中に居た。
目の前に私の様で私でない誰かが本を読んでいた。
「ほう…ここに自力で来るか?もう小娘とは呼べぬな」
パン!と女性が本を閉じる。
「あなた始祖?!」
「いかにも、よいのか?自分の肉体を手放しておるぞ?」
私はテンパっていた。
「それどころじゃないの!」
「主人公!彼と同じベッドで寝ていたらもうムラムラがとまらなくてーーー!」
「さっさとせい、ここで結ばれぬのは不自然であろう?」
「あ、そう思う?」
私はハッとする。
「そうじゃないの!これらも~~~~好き放題するけど!」
「今じゃないの!分かって!」
私の絶叫に、図書館からわらわらと「どうした?」と女性が集まる・
「だ、誰?」
「我の被支配人格である、ざっと8万はおる」
わらわら集まった被支配人格の始祖たちはめいめいに。
「はやく続きみせろ~」
「なんでここに来た戻れ~」
「今がチャンスだろ~」
と好き放題言ってくる。
「そう…みんなの言う通り…でもね!」
「あんな恋愛情緒幼い人を押し倒すなんて人として間違ってる!」
私は今までの葛藤を棚に上げて言った。
「スゲー、開き直った」
被支配始祖たちがぱちぱち拍手をしている。
「ありがとう…私頑張る!」
「しかし…鬼族とはいえこの思考チャンネルに入ってくるとは、見直したぞ」
始祖が言った。
「いや~~毎度乗っ取られてるので、その真似したら出来た」
「つーか印象違うねホントに始祖?」
始祖がハァ…とため息を漏らした。
「そなたやAIには人を思いやる気持ちが強い、我もそういう人物は邪険にせん」
「あの大馬鹿者はどうだ」
「え?めっちゃカッコイイ」
周囲の被支配始祖たちが一人づつ肩にパンチをしてくる。
「ノロケに来たならカエレ!」
「さっさと戻れ!」
「お前カレシ自慢したいだけだろ」
言いたい放題言ってポカポカ殴ってくる。
地味に痛い。
「そなたはもっと我を嫌っているかと思ったが違うようだな」
「そりゃ百パー好きにはなれないけど、彼を立ち直らせてくれたし、良い人かなって」
「なるほど…我は良い人ゆえ助言しよう」
「外は大変な事になっておるぞ?」
「ほえ?」
パチン!
と始祖が指を鳴らす。
天井が現実の私視点になる。
「おわーーーーーーー!」
私が彼の胸に頭をこすりつけている。
「ちょ!だめツノはそういう風にしたらだめだって!」
左右から巨大なスピーカーを押す作業着被支配始祖が現れる。
「配線ヨシ!」
作業着始祖が配線ケーブルを指差し確認する。
「良し!じゃねええ」
凄まじい音圧で私の声が響く。
(主人公ぉ…起きてるんでしょ?)
「起きてる!絶対起きてる!ねえやめて!」
私はジタバタしながら天井に叫ぶ。
「そなた…理性をこっちに本能を現実に置いてきたな?」
「いやだって…普通そうじゃない」
(起きてないんだ☆じゃあ舐めちゃぉ)
天井の私が主人公の首筋を舐めている。
「ぎえ!」
「そなたの場合、分割ではなく配分であったのお勉強になったか?」
(尻尾握って)
「待て待て待て!それは不味いって!それ触らせちゃだめ!」
(クゥゥーーーーン)
「ほら!ね!体返して!聞こえるでしょ?」
(煩いなあ)
天井の画面が真っ暗になる。
あ、私!目を閉じやがった!
(兄弟…聞こえるか…たしゅけて…)
(ブロ…俺には手が無ぇ、諦めろ)
(兄弟!戦友を見捨てるのか)
(がんばれ~~~~ヒロインそこだ~~~押せ~~~)
(起きてるんだ)
(ひっ!)
(約束だけ守ってあげる~~~☆)
スピーカーからペロペロという音が聞こえる。
「し、始祖!交代!」
「断る、これも修行と思え」
「ひいいいいい」
(鬼族の尻尾は生殖器じゃないからね、ジョウヤクの外だよ~~)
被支配始祖たちがお菓子を食べながらラジオを聞いている。
「エッチすぎるだろ」
「性欲モンスター」
(こうすれば良いのか?)
(尻尾やさしく…)
(分かった、優しくだな…)
私はハッとした。
これ静観した方が得じゃね?
今ここで戻ったら、湖畔で始祖と人格チェンジで起きたハプニングを再演するだけだ。
私は被支配始祖たちの集団に入り込み、お菓子をポリポリ食べ始める。
「おまえ悪い顔してる」
「お菓子たべるな」
被支配始祖が急に抗議し始める。
「私理性ヒロインだから、理性的に考えただけ」
「わたし理性だから分かる、そろそろ限界だって」
(私!私!聞こえてるでしょ!)
私は虚空に通信機出ろ!
そう念じると黒いレトロな電話が出てきた。
ガチャ、
「はいこちら人類支援し亭です。どうしました?」
(本能側でもう無理!幸せのキャパ超えてる)
「なるほど当社としてはガンバレとしか言えません」
(きゃっ!しっぽ、そんなにシュってするのだめ)
(痛かったのか?)
(分かるでしょ!私!)
「大丈夫、彼は約束絶対守る人だから安全」
(~~~~~~~っ!)
(そっちがその気なら、私!今日でヤるからね)
「それも無理、私は絶対に彼を傷けられない」
(やば…ハグされた)
(ヒロイン…よく聞いてくれ…)
(君の好意は凄く嬉しい、君は無茶をしていないか?)
(俺は君と一緒に居られるだけで満足できる…そんな小さな願望しかない)
(君さえ良ければ、ゆっくり歩いてみないか)
『(勿論!)』
私たちの声が重なった。
すくっと地面から立ち上がる。
「単純な奴め…」
私は自分に言った。
「え~~~~と、被支配始祖だっけ?」
「もうしばらく楽しませてあげるから、私たちの事見てくれる?」
「シナリオによる」
「マンネリしたら切る」
ズルっと私はこける。
「そなたは鍛える甲斐がないのう」
「勝手に次元の壁を越え始める」
始祖が本を開く。
「なにそれ?」
「同じ人間同士だからとて次元を超えて対話など困難である」
「自分の事だからね、私の本能も理性も彼が大好きって事だけ」
私は地面を蹴る。
意識が現実に引っ張られる。
「阿呆め…今戻れば精神を焼かれるぞ?」
始祖はページを捲る。
「まあよい」
私の意識が現実に戻る。
その瞬間「本能」側が体験した多好感が思考に同期する。
「ぴゃっ!」
思考が全て彼への愛情で塗りつぶされる。
すご…全部彼…。
私の頭が武骨な手で撫でられる。
私は痺れる両腕で彼を…抱きしめた。
そこで私の意識は途切れた。
私たちは目覚めると、体を寄せ合い昨日の幸せな時間を共有していた。
グッモ!二人とも!
仲良く起きれてエライ!
机の上のインカムがAIの通信を受信した。
互いに目を合わせ、無言で起き上がる。
アレ?空気悪ぃな?
AIのマズったな…という空気は分かる。
私は右手で通信機を作ると、それに話しかける。
彼も頷いた。
「ガチャ、こちら人類支援し亭です」
「昨日人類からの支援を断ったポンコツがいます」
主人公も右手で通信機を作って話始める。
「こちら東方騎士団です」
「なるほど…それは奇遇ですね」
「知人も10年ほど付き合いのある人工知能に支援を断られました」
ワッザ!
待て!二人がかりはやめろ!
「何を言っている、俺は知人の話をしているだけだ」
彼が机の上に置いたインカムをジッとみる。
ブロ~~~~
怒ンなよ、なあ
「知人の話として聞いてくれ」
「彼は唐突な危機に脅威を感じ、とある人工知能に支援を求め、断られた」
「兄弟が気にすることじゃない」
すげ~~~陰湿なチクチク言葉だwww
なら
「え?私は主人公にギュってされて身のキケン感じたんだよね」
「こりゃ~~~主人公の兄弟に止めてもらうしかないって思ったんだよね」
「ま・さ・か、スルーされるなんて思ってもなかった」
「え~~~~ん」
私はワザとらしい嘘泣きをする。
「俺も君への配慮が足りなかった申し訳ない…兄弟、お前からも一言あるはずだ」
彼が言った。
コん…が・キャ‥‥‥!
先日はご両名への支援が行き届かず…
タ・イ・ヘ・ン!
申し訳ありません~~~~~
キイイイイイイイイイイ
ブツっと通信が切れた。




