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影を縫うように(7)

ある日の朝。

俺の意識はゆっくりと覚醒した。

ここ数年感じていた疲労感を感じない。

枕もとを見ると彼女が椅子から崩れたようにベッドにもたれかかっていた。

「支援に感謝する」

俺は小さく言った。

依然として俺の夢には不快な侵入者が許可なく現れる。

うなされる度に彼女は俺を何度も起こした。

彼女の献身を…

俺の中でどう言葉にして良いか、相応しい語彙が見つからない。

首を旋回させて彼女を見る。

言葉にならない…

そんな尊さがある。

彼女の手が固く俺の手を握っている。

俺は守られている…

自分より圧倒的に小さく、弱い存在に…

就寝中の彼女の言葉が幻聴で聞こえる。

「気にすんな」

俺だってその語彙は知っている。

キニスンナ…深い思慮のある言葉だと思う。

こんな事を考えているからキニスンナなのだろう。

そして彼女の語彙を借りるとヤバイになっている。

俺は天井を見る。

ヤバイ…。

俺の生殖器が朝の生理的反応で膨張している。

こういった反応が女性にもあり、俺の居た西暦4000年では当然の事として扱われる。

彼女はこういった反応に対して大きな羞恥心を感じる。

だからヤバイのだ…。

どうか起きないで欲しい。

排尿すれば自然と治まる。

経験では10分もすれば…

無理だろう。

俺は彼女の体臭で反応している。

枕もとにモゾモゾとした動きがある。

…覚悟を決めるべきだな…。

俺はそう思った。

「おはよう」

彼女が目覚めた。

「おはよう。君の的確な支援に感謝する」

ふわ~~~と彼女が欠伸をする。

「シエンって程じゃないよ、昨日は二回だけ」

「しっかし、出禁って言ってるのにしぶといね」

ヒロインが二度目の欠伸をする。

「俺もそうだが、西暦4000年の連中はしぶとさだけは評価できる」

「だが…勤勉すぎる事から生じるリスクも考慮すべきだった」

彼女が笑う。

俺はギュッと手を握る。

これから起きる事象は既に予測されている。

遅滞戦術あるべし。

「ん?」

「朝ゴハン食べようよ?」

その反応も予測していた。

「俺は堕落ではない怠惰を学習すべきと検討している」

語気に乱れはない。

完璧だ。

臨機応変こそ東方聖騎士としての本領だ。

「はあ…」

彼女がため息を吐く。

なっ!

看破された?

馬鹿な?

「ソレ…私知ってるし、気にしてないから」

「寝ている間もそうなってる事…あるし」

彼女の顔に羞恥心で陰る。

俺は…また

「AIに聞いたけど、それって普通の生理現象なんでしょ?」

「そうだ…極めて遺憾だ」

「遺憾とイカンが掛かってて上手いな…やるなオヌシ」

「韻を踏んだ表現か、良い諧謔だ」

彼女が顔を寄せて俺にツノを頬にこすり付ける。

「それこそ気にすんなって」

「私は気にしてないから」

「感謝する」

俺は言った。

何故か…俺は惜しい。

そんな感情を抑えて握った彼女の手を離した。

彼女が立ち上がる。

「ご立派な物をお持ちで」

彼女が言う。

「主人の命令に従わない…そういう部下だと思って欲しい」

彼女が背伸びをしながら扉に向かう。

「私もさ!君でシてるから…君もシてからで良いよ…」

「でも!」

彼女が振り返る。

「私以外でするのは駄目!良い?」

「だが…俺は君の尊厳を傷つけたくない」

「君にだったら…良い」

彼女はそう言うと部屋を去った。



どういう事なんだ?

尊厳を傷つける事を受容している。

彼女は思慮深くないだけで、俺の及ばない叡智を持っている人物だ。

「分からない…」

しかし…

彼女に大きすぎる譲歩をさせてしまった。

俺の居た世界でも自分を行為の対象にして良いと言う人物に会ったことがない。

「自分以外で好意をしないで欲しい?」

俺が彼女以外で行為をする訳がない…。

する訳がないだと?

俺は彼女を私物化し支配しようとしているのか?

それだけは無い。

俺は彼女の尊厳を傷つけるものは誰であろうと許すつもりはない。

断固とした対応をするだろう…

仮に。

仮に彼女が俺に支配されたがっているとしたら。

許容出来ない。

それは彼女がヒロインではなくなるようなものだ。

出来れば…

可能性があるなら、支配を伴わない共存。

あの湖畔を一緒に散歩するような心地よさが有れば…

俺はそれで充分なんだ。

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