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影を縫うように(2)

俺は強烈な怒りで目覚めた。

「クソ…」

それは執行者時代のものだった。

奴らは教義の定める聖なる繁殖行為を穢し

女性を性奴隷や兵士として運用した

正気を失った背信者を救う術は無かった。

俺と教皇の下した審理は全ての抹殺だった。

問題はそこではない。

そこで使役させられた女性がヒロインの顔だった。

俺は一切の躊躇なく殺した。

今回の悪夢は極めて悪質だった。

ここの穏やかな生活で俺の何が変わった?

何一つ変わっていない。

俺は戦いを求め続けている。

それが夢の中とはいえ彼女を手にかける‥‥。

悪化している。

冷静になれ‥‥

所詮夢だ。

俺は部屋履きを履いて立ち上がる。

ザリっとした感触が伝わる。

砂?珪砂か…

部屋の明かりを点けて、小さな粒が反射する。

極めて不快な記憶が再生される。

俺はギリっと歯ぎしりする。

これはあの時の破片ではない。

衰弱死しかけたヒロインに投与しかけた「精神アンプル」

人間から恐怖を取り除き、従順な兵士に変貌させるものだ。

これはその時の破片ではない。

ただの透明な砂粒だ。

「俺は奴らと変わらないとでも言うのか‥‥」

違う!

俺は否定した。

湖畔での記憶が蘇る。

俺は生殖器をヒロインに掴まれ、彼女に体が反応した。

奴らと変わらぬ支配を欲し、それで彼女を‥‥

違う!

‥‥‥‥。

「違う!」

俺はベッドから跳ね起きていた。

どこからどこまでが夢だった?

窓の外は明るくなっていた。


クソを漏らしたような声を出してどうした?


机に置いたインカムが兄弟の通信を受信した。

「そういう夢を見た、クソまみれだ‥‥」

俺は汗で気持ち悪くなったシャツを脱ぎ捨てた。


まあバイタルデータも芳しくねえな

睡眠が睡眠になってねえ


「健康管理は兄弟の専門外か‥‥」


歌でも歌ってやろうか?

子守歌自身有るンだぜ。

「もっと良い夢が見れそうだな」

俺はそう言った。


今日は休めよ

ずっと働きすぎだぜ?


「勤勉さは信徒の美徳だ」

俺はそう言った


はぁ~~~~

あのなあブロ、そういう御託は主にお祈りする奴が言うセリフだぜ


俺はインカムを左耳に付けた。

「俺は極めて真面目な信徒だ」

俺はそう言った。


してねえな。

ブロが主に自らの救済を祈った事はここ数年ログにねえ


「主に夢の中までお救いしろと?」

馬鹿馬鹿しい。

俺はそう言うとベッドから立ちあがる。


じゃあ。

支援提案するぜ。

昼寝でもしてろ




俺は朝食を摂ると兄弟の提案を受け容れ、ソファーで微睡んでいた。

支援を受け容れる事は不本意だったが、兄弟はヒロインと結託した。

普段対立する二人がこの時に限り、休息を強要した。

反論の余地は無かった。

不満はあった。

蓄積した薄い疲労が俺の意識奪おうとしている‥‥

意識がソファーの奥に沈む。

「去れ‥‥」

俺の意識は途切れた。


不意の衝撃で俺は目覚めた。

「ごっ‥‥」

目覚めると俺の腹部に彼女が馬乗りになっていた。

「イェイ!」

ヒロインが俺の顔を覗き込む

何か抗議をしよう、そう思った。

やめよう。

ここまで油断するなど‥‥

「もうお昼過ぎたよ!」

開け放った窓から少し熱気の籠った風が入ってくる。

それが彼女の髪を揺らす。

彼女の体臭を感じる。

俺のものではない…。

他人のものではない‥‥

俺は纏まり切らない思考で錯覚した。

「油断した‥‥君が刺客なら俺は殺されていたな」

俺は右手で顔を覆った。

「ここは戦場かっ!」

「その指摘は正しい」

俺はソファーの上で身をよじり、起き上がる。

彼女の柔らかい体を感じる。

柔らかな臀部が俺の腹部から股間に当たった時。

俺は反応していた。

「‥‥ちょ」

ヒロインが異変に気付き、俺を羞恥の混じった目で見る。

更に俺自身が硬くなる。

俺の意志を無視した反応だった。

本能が目の前の…

俺は理性で叩き潰す。

「離れた方が良い」

俺は言った。

彼女の両腕が俺の背中に回される。

動揺は無かった。

彼女の肉体を私物化しろという誘惑を無視する。

俺は彼女を抱えて立ち上がった。

そっと彼女を足から立たせる。

俺は彼女を両腕で引き離す。

「離れた方が良い」

もう一度言った。

「な、なんで?」

ヒロインが動揺しながら聞く。

「俺は‥‥」

「俺は奴らと何ら変わらない」

俺は彼女に背を向け、玄関に歩き出した。

「待って!奴らって何!」

俺の中に嫌悪感が満ちる。

「俺が抹殺した背信者どもだ」

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