影を縫うように(1)
いつも寝床に入ってからが憂鬱だった。
この10年悪夢と歩いてきた。
あと10年それを見続ければ終わる…。
俺たちの人生など50年程度だ。
今は違った。
寝る頃になると彼女の精神感応が始まり、他愛のない会話をして眠りに就く。
その一つ一つが貴重なものだった。
首に下げた守り袋。
これは彼女が緊急通信用にと渡したものだった。
手放すべきだ。
彼女からの通信が無いだけで俺はこうして狼狽えている。
聖騎士として執行者として正常に機能しない。
目を閉じる‥‥。
起きている間も悪夢に付き合う必要はないな。
部屋の明かりを点けたまま俺は微睡んでいた。
物音が俺を静かに覚醒させた。
「ヒロインか…」
「起きてた」
「‥‥‥起こされた。その表現が正しい」
俺はそう言うと。
ベッドから身を起こした。
何かを言いたい。
気分だった。
「寝るとこだった?」
俺は胸もとの守り袋を軽く握った。
「今日は無かったからな」
この守り袋のことは兄弟に話していなかった。
「起きていた」
俺はそう言った。
彼女が俺の隣に座る。
「今日はさ!何かお話しして!」
彼女の顔を見ると、胸苦しさを感じる。
出すべき言葉が出なかった。
「そうだな‥‥血生臭い話しか出てこない」
「うげ‥‥それは嫌だな」
「俺も嫌だ」
「この間絶滅した小動物‥‥羽の生えた生き物の糖分は旨かったな」
「蜂蜜でしょ!」
「そうだ蜜蜂だ。彼らから搾取するのは申し訳ないと思った」
「ウケる。でも美味しかったでしょ」
凄く甘かった。
俺がどれだけ貧しい食生活を送っていたか、やっと理解できた。
「ああ。略奪と受け取られない程度に分けて貰いたい」
「リャクダツとかまた難しい言葉使ってる」
「君は知っているか?彼らがどれ程地球環境に貢献していたかを」
「チキュウ?ああ君の故郷の」
「彼らが絶滅したことで植物の受粉が損なわれ、多くの植物が絶滅した」
彼女がパチンと俺の腕についた「カ」という小動物を叩いた。
「実は彼らも植物の受粉を助けていた」
「え!こいつらも?」
「不愉快な連中だが彼らにも存在している意味は有る」
ヒロインが驚いた顔をしている。
プ~~~ンと俺の周りを飛び回っている。
「こうやって身の回りに居る分を排除するのは問題ない」
「だが‥‥元を断つとどうなると思う?」
はい!っとヒロインが手を挙げる。
「でもこいつら嫌い」
「彼らを食料とする動植物は困るだろうな食べ物が無くなる」
う~~~んとヒロインが悩む。
「もしかして君の世界って自分でやっちゃった?」
「そうだ。自分たちの都合で滅ぼした」
「そのツケを払って食事がマズい」
ぷっと彼女が笑う。
「やっと分かった!マズいでしょ!」
「ああ」
「こんな話が面白いか?」
俺は聞いた。
「う~~~~~~ん、ムズい!」
「今度講義の時間でも作ろう。人類は共存と調和を忘れてはいけない」
「今度は私の番か」
「ほう…これはターン制のゲームだったか」
「勝負じゃないんだから本気になるなって」
「勿論冗談だ」
やるな~~~。
彼女がそう言う。
「実は私ってさ婚約者いたんだよ?」
「婚約者?ああ…古代人類の共同体誓約だな。俺の世界でも物好きがやっていた」
「まーーー、君も知ってると思うけど、反乱軍の旗頭に担ぎ上げられて逃げられた」
「君を置いて逃亡か、戻ったら俺が教育してやろう…念入りにな」
「い~~~ね!ソレ!でも良いや」
「今更って話だしね」
「君に聞きたかった結婚とは何だ?」
「俺は概念として知っているが、その実態を知らない」
彼女が指折り数え始める。
「私みたいに親が決めた相手と結ばれたり、家同士が決めたり、本人同士が決めたり色々」
「ふむ‥‥それでは人類の繁殖が不安定にならないか?」
「フツーだよ、君のトコは」
「人類から採取した精子と卵子を人工的に受精させて」
「そうだな機械で繁殖していた」
「じゃあ君も?」
「俺は孤児らしい。管理された繁殖計画ではない存在だったから、何度か消されかけた」
「こわっ!でも家族が守ってくれたんでしょ?」
「カゾク…古代の小さな共同体だな」
「俺にそんなものはない」
「‥‥いや、一人いたなカレンだ」
「誰それ?」
「人類支援型人工知能。兄弟の前の相棒だった」
「君って機械にも命があると思ってるね」
「不本意ながらな‥‥兄弟には言わないで欲しい。あいつはすぐに調子に乗る」
「わかるっ!ブロとコソコソなにやっての?とか聞いてきた!」
「ああいう奴だ‥‥カレンはそうじゃなかった」
「笑っても良いが、俺は言葉遣いが悪くてな、君がもしもキャンディを持ってたとしよう」
「俺は「甘いの出せ」と言っただろうな」
ブッとヒロインが噴き出す。
「マジで?」
「ああ、礼儀も何も無かった。カレンは俺に生きる術を支援した」
「人に頼むときは、こうするべきだ。とよく言われた」
「今の君ってマシになったんだね」
「だが…俺はカレンを捨てた」
「どうして?」
「カレンは人類を害せない、俺の使命には不要だった」
「そっか…」
「これから先は血生臭くなる。やめておこう」
「そうだね」
「寝たほうが良い」
俺はそう言った。
カレンの事を思い出したのは何年ぶりだろう。
兄弟に話したこともなかった。
俺は胸に下げた守り袋を外した。
深く憎悪が体に満ちる。
俺がカレンを捨てたのは、俺が20歳の頃に生じた「主の息子の位置」
それを巡る愚かな戦争をさせた、愚か者たちに然るべき代償を支払わせるためだった。
カレンに俺の支援はできない。
だから捨てた。
それで良かった。
この世界に転移する原因となった怨霊との戦争で、教皇が俺を庇って死んだ。
俺を救うための支援を猊下に提案したのはカレンだった。
ほぼ20年ぶりの再会だったがすぐに終わった。
今も覚えている。
「最後に支援をする事が出来て良かった」
カレンの最後の言葉だった。
俺は拳を固く握る。
怨霊……奴だけはこの手で殺す。
ヘイ!ブロそろそろ寝た方がいいぜ
兄弟が机に置いたインカムが通信を受信した。
「兄弟‥‥帰る見込みは」
アネゴの気分次第だな
「だろうな‥‥ログの解析は進んでいるか?」
まあな、敵勢力のwhitedress…
ありゃあどう考えてもブロへのカウンターだな
「ライバルか‥‥同意見だ。あいつだけはどうにもならん」
「切り崩す手段がそもそも不足している」
それ以上に「怨霊」をブロがぶっ殺した要因が解析できねえ
アネゴと同等の存在と仮定すンなら人類は負けてる。
「俺もそう結論している。奇跡では無い何かがある」
まっアネゴに教えてもらうぜ
それより寝ろよ
ヒロインが隣にいねえと寝れねえか?
「兄弟にしては良い提案だ。覚えておく」
じゃあな!
グッナ~~~イ




