共同生活(13)
暗い廊下に出ると、リビングに明かりが点いていた。
…彼がそこに居る。
めっちゃドキドキする。
今日はやらない!
そうゼッタイ…ぜ…
「シャッ!」
私は両頬を叩いた。
リビングに入ると主人公は俯きながら、ソファーに座っていた。
めっちゃ落ち込んでる…。
「俺は…」
「今日はゴメン!」
私は先に謝りました
「色々言いたい事あるけど!ホントゴメン!」
「君が謝罪する必要はない。だが…受領しよう‥‥」
私は彼の前に手を出した。
彼も立ち上がる。
「今日の事はナシにはしないけど、明日まで引きずりたくない!」
「感謝する。君にそう言って貰えて助かる」
うわっ…助かった顔してない。
引きずってます~~~~って顔じゃん
「でさ…頼みが有るんだけど」
「引き受けよう」
主人公が即答する。
ベシ!っと彼の胸を叩く。
「聞いてからにしろ!ケッコーーー大事なハナシっ!」
落ち着け~~~。
落ち着け。
「ハイ」
私は小さい守り袋を渡した。
彼がそれを受け取ると、私はその手に右手を重ねた。
「意味が分からないが?」
私は首に下げたもう一対の守り袋に意識を集中する。
‥‥。
‥‥‥よし繋がった。
後は彼に意識を‥‥飛ばす。
(聞こえる?)
「っ!何だ声が響いた?」
彼が明らかに驚いていた。
(スゲ~~~だろ~~~)
彼が真面目な顔になる。
スッと自分の唇に人差し指を当てていた。
自分は喋らない方が良い。
そういう判断なんだろうな‥‥
いつも察してよ!
(一応私たちって怨霊に追跡されてるじゃん)
彼が頷いた。
(緊急用って事で私の折れたツノで通信機みたいな…作ったんだけど)
彼が「マジかよ」って顔をしていた。
喋らない方が感情豊かかよ…
(君もやってみて)
(まず握った守り袋に集中して)
主人公が頷いた。
(その意識を私に飛ばす)
主人公が首をかしげる。
あっゼンゼンできてねーな。
参った…なら‥‥
私は守り袋を経由して意識を拡大する。
もう一人の私を作って…重ねる。
「っ!」
彼が周りをキョロキョロと探します。
(今‥‥私の意識を…君に重ねてる…もう一回)
(繋がった‥‥どう?)
(俺の声が聞こえるか?)
私は頷いた。
(どう!)
(‥‥凄いな、これが鬼族の感覚共有か)
彼が自分の左耳のインカムを見せます。
それは無かった。
(シャッ!)
(しゃっ?知らない語彙だが、素晴らしい成果や達成感を表現する事だな)
頭の中までムズかしい事一々考えてる‥‥
私は彼への暖かな気持ちを思惟に込めます。
(不明瞭な温かさ?俺に対して?)
ふ、不明瞭って?
ノイズまみれかよ!
私は昔の感覚…そう。
元々のツノがあった頃の感覚で彼の心を覗き込む。
(うげ‥‥何これ、めっちゃ余計な事考えてる)
(成程。通信規格いや思考規格ともいうべきものが違うのか)
な、なんだそりゃ!
人を機械みたいに分析するな!
(ん?君は俺の思考形態に不満があるのか?)
(疲れない?)
(いつもの事だ)
こ、こやつ…やるな!
なら…この使い方か。
子供の頃長老臭い爺さんが「人の心を支配するし、しかねない」と警告していた。
静かに…私を見て!と強い意志を込める。
彼の思惟が急速に纏まり、ノイズが消える。
じっと彼が私を見つめてくる。
強烈な思惟がイメージとして私に流れ込む。
日中の私…だ。
うわ!全部見せてる!裸とかそういうレベルじゃない。
激流のような意志は急速に穏やかになり、彼から見た「私」の顔が無数に流れ込む。
(外圧のようなモノを感じるが、思考が纏まる。教育に感謝する)
(は、ハズくないの!)
(君が俺に使った言葉を引用するなら)
(君に恥ずべきところは何も無い!)
強烈な肯定感が彼から流れ込む。
すごっ…
う、嬉しい。
ん?ヤバ
ヤバ?
なんか思考が漏れたかも
彼がコクンと頷いた。
(君の懸念を感じた)
(ケネン‥‥ね)
(マスターベーションを何ら恥ずることはない)
(君の精神的抑圧の解消に俺が貢献できた事に喜びを感じる)
(!!!)
おうわっ!
ソレ漏れてた!
(その解消方法は他者を支配しない、極めて理想的な方法だ)
(ちょ…おま!)
(羞恥心だと理解した)
(その懸念は必要ない、積極的に利用は俺に許可されている)
(随分俺たちと文化的な差異が有るな‥‥君が俺に対して不快に思うわけだ)
(不快とか…)
(ノイズを感じる)
集中だ。
彼の強烈な意思が私に流れ込む。
(それで良い)
(過度な抑圧は理性的な判断を乱す)
(心の中だけは誰もが自由だ、誰も支配しない)
わっ、わっ‥‥
(俺も若い頃か‥‥君のような強烈な欲望を持っていた)
(君の感情は極めて健全なものだ)
ケンゼンとかそういうんじゃ…
お…押されてる。
私鬼族なのに…つ、強すぎ。
(ん?ああ‥‥そういう事か)
ひいい
勝手に解析されてる
(俺の世界にも君ほどではないだろう、同じような「能力」を持っている人類と戦った事がある)
(相手は俺の心を読んだつもりだろうが、読ませているに過ぎない)
彼が笑った。
いつものぎこちない笑顔ではない。
(そういう事だ)
て、手玉に取られてた?!
(そうだ)
ひいいいいい、強すぎ
(君が励ましから、俺に精神共有を提案したと理解している)
(感謝する)
(カンシャとかそういうの別に…)
(受領してくれて安心した)
‥‥ほげ。
(貴重な教育機会だった)
彼がそう言うと。
ギュッと両手で私の手を包んでくれた。
守り袋を彼が受け取り‥‥手が離れた。




