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共同生活(11)

俺は極大の混乱にあった。

彼女が俺を抱きしめ、頭上で嗚咽している。

それが煩わしくない。

むしろ自分の中に安心と心地よさを観測していた。

何だ?

これは…。

「ゴメン‥‥無理。悲しくて‥‥変わって」

彼女は誰と話している?

「ん?誰と喋っている?」

原始的な恐怖。

そうとしか言いようがない。

俺は咄嗟に抱擁から首を抜いた。

彼女から10歩離れた距離‥‥

始祖か…。

安息を感じていた俺の肉体に戦意が満ちる。

始祖に反身を晒す。

この盤面は不味すぎる。

あれは彼女であってヒロインではない…。

「はあ~~~~~~~~~」

始祖が大きなため息を吐いている。

落胆?

当然だこのような無防備、評価に値しない。

「そなた‥‥馬鹿だのう」

敵意が無い?

俺は直感的にそう思い、戦闘態勢を緩めた。

抵抗など奴に意味はない。

「我はヒロインと感覚を共有しておる」

「何でそなたはアレの気持ちがわからんのかのー」

やはりな…感覚共有していたか。

その確定情報が欲しかった。

慢心したな。

「服を着て良いか?」

俺はマッスルスーツを展開しない。

承認されない敵対行動は盤面悪化に導く。

「感情の分からんサルはフルチンでおれ」

フルチン?

知らない語彙だ。

後でヒロインに聞こう。

「そなたら我に気安く過ぎるぞ?」

「上位存在を敬う気持ちはないのか?」

一体何に呆れているのか?

奴の言う通り下等な存在と定義されている俺には理解が及ばない。

ログの精査は兄弟に一任する。

「検討する」

俺はそう言った。

始祖は難しい顔で思案している。

「馬鹿でも分かる程度に表現するのは難しいな」

「これも同じ体を使う店賃と納得するほかないか」

この情報も欲しかった。

何らかの理由で彼女の内部では、ヒロインと始祖が友好関係を築いている。

彼女は凄まじい。

俺が及ばない何かを持っている。

交渉を続けなくては…

「ふ、俺でも分かるぞ。 あなたはヒロインがなぜ泣いたのか俺に教えてくれるのだろう?」

「俺でも分かるの破壊力なあ」

「ヒロインは本当に優れた心を持っている、野蛮なお前でもその心に触れれば少しは慈悲の気持ちも芽生えるだろう」

「ハイハイ」

始祖が追い払うように手を振っている。

「つまりな。ヒロインにはそなたの心に共感する技術を持っている」

「共感とはつまりヒロインからそなたの心を観測するということだ。」

「観測したデータを俯瞰した結果、自分なら耐えられない傷を心身に感じ、泣いておる」

「ということだ、あほくさ…」

流石上位存在を自負するだけは有る。

高度な分析だ。

「成程、だが不可解な点がある」

「なんだー?」

「その技術では観測された俺が「不正アクセス」を認識するはずだ。それがない」

「そりゃあ相手を知りたいとか好意がなきゃ無理だろ」

感情由来の技術…

いや、鬼族由来の能力と考えるべきだな。

彼女に検証を求めたいが、行為そのものが始祖にとって敵対行為と判断されかねない。

保留が妥当だな…。

会話を止めるな、奴が気まぐれで俺を殺す。

それは十分にあるんだ。

「俺が彼女に対して好意を持っていることは自覚している」

「だが彼女が俺に好意を持っているとは信じられない」

彼女を利用した俺の支配を目論んでいる。

推測だが確度は高いはずだ。

「俺は彼女を限りなく落胆させている」

「仮説の再提出を求める」

「あー、こいつ雑に言いやがった」

始祖がヒロインのよくする「うげっ」という顔で非難する。

極めて不愉快だ。

その顔をして良いのは彼女だけだ。

「仕方あるまい…下等な存在を導くのも我の使命か…」

始祖が俺に歩み寄る。

恐怖が体を支配する。

目の前で始祖が身に着けた下着を脱ぐ。

「何をする気だ?彼女は裸体を晒す事に羞恥心を感じ‥‥が!」

始祖が俺の生殖器を握っていた。

油断した…。

まるで想定していなかった。

急所を掴まれるなど‥‥失態だ。

「これは馬鹿者が好意を寄せている、ヒロインの体がお前を握っている」

「何も感じないのか?」

始祖の上目遣いの無邪気さは彼女そのものだ。

理性は俺が何かを言う事を止めている。

その発言に利益は存在しないと警鐘を鳴らす。

「極めて不快だ。お前は始祖だ。不当な恫喝をやめろ…」

始祖が本当に驚いた顔をしている。

「不能か?」

始祖が俺の生殖器を上下にこすり始めるが、怒り以外の感情が沸き上がらなかった。

「俺は正常な生殖機能を有している」

「これが小娘でも何も感じないのか?」

俺の中の怒りが沸点で煮えたぎる。

「警告する。一度だけだ」

「俺は彼女の尊厳を損なう行為を断じて許さん」

俺は始祖を睨む。

奴は何の権利を有して彼女の尊厳を弄ぶのか。

「馬鹿者よ…これは多少は成長の芽が見えた下等生物に対する助言である」

俺の生殖器を弄びながら始祖が真面目な顔になる。

「己の願いに目を背けるな」

始祖は言った。

「俺の願いは彼女の安息だけだ。お前の行動はそれを侵害している」

「…排除する」

俺の中で極めて冷酷な闘志が一気に全身を駆け巡る。

それを制するように俺の生殖器が強く握られる。

抗えない痛みがある。

だから何だと言うのだ。

生きられてもあと10年だ…。

生殖器の一本くれてやる。

「はぁ…代わる、我は疲れた」

生殖器への拘束力が和らぐ。

俺は人格が彼女に切り替わった事を感じた。

「え‥‥?」

体験のないものだった。

羞恥に満ちた彼女そのもの表情。

始祖のそれではない。

自分の中の怒りが急速に熱を失っていく。

目の前に存在する彼女が美しく、魅力的なものに感じられた。

俺自身が彼女の体温を感じた時、自分の意識と無く反応した。

彼女のおどろ‥‥

渾身の一撃が顎を捉えた。

こぶし?

平衡感覚を失った。

立てなお…

緩慢な視界が彼女の膝を捉えた。

二撃目の膝が顎を捉えた。

俺は耐えきれず砂浜に倒れた。

「お前はーーーーーーー!」

「雑に告白して!」

「何反応してンだ!」

ゲシゲシとヒロインが倒れる俺に蹴りを繰り返す。

「わ、分からない」

彼女は俺の言葉に耳を貸さない。

ヒロインを見る。

何故だ。

何故‥‥俺は彼女を見ると体が反応するんだ?

「かっ!‥‥おまっ!」

ヒロインの俺に対する暴力は続く。

「や、やめてくれ‥‥俺は君が美しいと感じて、それでごさ…どっ!」

腹部に踵がめり込む。

息が…できない。

明滅する視界。

「馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!」

俺は10分ほど理不尽な暴力に晒された。

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