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共同生活(10)

私が砂浜で休んでいると、彼が肩で息を切らしながら歩み寄る。

ど~ゆ~肉体してんの?

「的確な支援指示だった。感謝する」

彼がそう言った。

嫌味など感じない。

本気でそう思ているのだろう。

彼はぜえぜえと息を切らしている。

良いザマだ。

JKの下着姿で何も感じないドアホはこうなっても仕方ない。

「あのさ…私泳げないんだよね、教えてくれる?」

彼が思案する。

全く動揺は無い。

‥‥マジ?

あるじゃん色々!

「君は水辺が怖くないのか?」

「ゼンゼンむしろ好き」

「了解した。君への訓練計画を考えよう」

「クンレンって、なんとなーく泳げたらそれで良いよ」

「ナントナーク?知らない語彙だ」

「良い感じって事」

「評価軸が分からん‥‥しかし暑いな」

「マッスルスーツ、待機モード」

彼がそう言うと全身のラバースーツが消え、目の前に‥‥

「ギャアアアアアアアア!」

私は思わず悲鳴を上げた。

マッパ!

なんでマッパ!

「ふく!服着て」

私は後ずさり、両手で自分の目を塞ぐ。

「拒否する。暑い」

「ヒジョーーーシキ!」

「?」

「いや「?」じゃねーーーし!」

「君は自分の裸を見たことがないのか?それほど驚く事なのか?」

「見た事あるけど」

私は指の隙間から彼の裸体を見てしまう。

勿論ぶら下がったものも。

ナニこれ?

え?男ってみんなこうなってるの?

「そもそも君は訓練前のインナー姿を見ただろう」

彼が手を大きく広げる。

「よく見てくれ、差異はない」

「君の直感的な観察は素晴らしい、だが物事を正確に観測すべきだ」

指の隙間から見える表情は全く動揺が無い。

私が何に驚いているのか知ろうとしてるだけだ。

「前のソレ隠して」

私は右手で彼の下半身を指差す。

目隠しなど意味がなくなり、ほぼ直視している。

「成程。君は男性の生殖器を見たことがないのか」

セーショクキって。

難しく言えば済むと思うな!

「君の態度から、君たちの文化圏では異性に裸体を見せることが適切ではない」

「だが、俺たち西暦4000年にそんな文化は無い」

「俺に自分の裸体を見せる事への羞恥心は無い」

「後学のた…が!」

私は思わず彼を殴り飛ばしていた。

「まず!服を着ろ!」

私は叫ぶ。

「過剰な代謝の向上で体温が上昇している。検討して欲しい」

彼はそう言った。

なんでソコにガンコなんだよ~~~~

一発殴ると私はスッキリした。

彼は顎をさすりながら「平和的な交渉がなぜ?」とか抜かしている。

「ん?」

私はまじまじと彼の全身を見る。

全身に膨大な古傷が刻まれている。

致命傷っぽかったのがケッコーある…エグっ

「ああ、君も学習する気になったか」

主人公が減らず口を叩く。

「なんか全身傷だらけだけど、ソレ」

私は心臓付近の傷跡を指差した。

「ヤバくない」

「勿論だ。心臓の付近の血管を損傷した。徒歩で帰還できる拠点に医療施設があって良かった」

「君のヤバいという語彙に合致するならコレだな」

彼は右太腿の傷を見せた。

「動脈が切れていた、右手で縫合しながら、片手で銃撃戦だ」

私は自分の体から血が引いていく。

そんな実感があった。

彼が一つ一つ話していくが全く頭に入ってこない。

古傷を勲章として語っていない。

手の皺を数えるように言っている。

この傷の一つ一つが彼が誰かを守り続けた証明だと思う。

それは彼は当然の事として言う。

凄い事だと思う。

でも嫌だ!

人がこんなに傷ついて良い理由なんてない。

「いつか死んじゃうよ‥‥」

私には耐えられなかった。

「何の懸念もない、全ての損傷は完治している」

「この腕の傷は新しいな」

彼は左腕を見せた。

よく覚えている…彼との旅で私を庇ったことがある。

その傷が私には痛かった。

どうしようもなく…

心の中の柔らかい所を抉られたようだった。

「確か君と旅を始めた頃にエージェントから受けた傷だな」

「どういう理屈か分からないが損傷が浸透してきて、肉をえぐったんだ。あれは痛かった」

自分の心が悲鳴を上げている。

彼を止めたい。

止めなきゃ。

「だが俺は学習した、装備がいくら優位でも安易に受けるのは失策だ…どうした?」

私の中に渦巻く怒りと悲しさが…

どうしようもなく漏れそうだった。

「痛かったんでしょ」

「それは痛い。麻酔が効かない事もある」

彼はそう言った。

何で当然!って顔してるの!

「違う!」

私は言った。

「心は痛くなかったの? 」

明らかに彼は困惑していた。

何故‥‥

どうして?

「心に痛覚はない」

彼は言い切った。

「だが痛覚のようなものはある。 正直に言おう。痛くなかった」

私は一瞬言葉を失った。

「だって重症なんだよ?心配してくれる人居なかったの?」

「よく生きて帰ってきた。そう言われた…気がする」

彼が懐かしそうに言う。

「俺から指摘させてくれ、痛覚や記憶を共有していない君が俺の古傷を痛がる必要はない」

「苦痛は無駄なストレスを与える」

「無意味だ。メリットがない」

私は立っていられなかった。

「ちがうよ、そうじゃないの」

足元に蹲り…泣いていた。

主人公が駆け寄ってきた。

私を覗き込む瞳が動揺している。

「どこが痛む?正確に言ってくれれば対処できる!」

「すまない、自分のことばかりで俺は君の体調を観測していなかった」

「謝罪する」

彼は私の背中をさすりながら言う。

凄く大きくて優しい手だ。

どうしようもない感情が涙になった。

自分のために生きてよ!

「あなたにこうしてくれる人は居なかったの?」

私は声を絞り出した。

「俺のことはいい!そんなものは必要ない…俺は絶対に死なない!」

「馬鹿!」

私は彼の頬を叩いていた。

え?って表情じゃない!

なんだその顔!

ふざけんな!

「心が痛いの!」

私は言った。

「これは俺の推測だ」

彼の声色は驚くほど静かだった。

「君は俺にインストラクションを与えてくれているのではないか? 」

私は彼の頭を抱きしめた。

「どうしてこんなになるまで、誰もかも放っておいたのよ!」

殆ど絶叫だった。

「すまない‥‥」

「君が俺の周囲の人間に憤りを感じているのは分かる」

「分かるが‥‥あの時おれは聖騎士であり執行者だった」

「俺は世界に責務を果たしただけなんだ‥‥信じて欲しい…必要な事だったんだ」

必要ってなんだ!

責務ってなんだ…

私は彼の頭の上で嗚咽した。

「泣かないでくれ。 俺は本当に大丈夫なんだ」

「君に傷を見せるべきではなかった。 配慮に欠けていた」

「どうか謝罪を受け取ってくれ」

「これは正確な表現ではない。君が泣くと俺は混乱する」

「君の言う、心が痛いという症状になる」

もう駄目‥‥無理。

私は瞳を閉じる。

そこには一人の女性が本を読んでいた。

(ん?小娘か?)

私の中の始祖だ。

「ゴメン‥‥無理。悲しくて‥‥変わって」

(はぁ…間借りしている立場ゆえ、仕方あるまい)

「ん?誰と喋っている?」

彼が違和感に気づく、その瞬間。

私の中で始祖が本を閉じた。

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