共同生活(7)
俺は自室のベッドに倒れこんだ。
始祖の折檻はそれなりに堪えた…。
二度とやり合いたくない。
何より‥‥
俺自身戦友たちを思い出さないようにしていた。
とても古い傷を開かれた。
俺はそう思う。
吐き気がある…。
渾身の力で耐える。
あの程度の事は俺でも気づける‥‥
戦友を思い出せば二度と戦う事は出来ない。
「俺から奪いたくない‥‥か」
彼女は俺にそう言った。
もう何もない。
俺に残ったのは命だけだ。
彼らが残したこの命で使命を果たす。
(敵いないじゃん)
彼女の主張は間違っていない。
俺はこの世界に来て、ただ戦いを求め生きてきた。
それだけは間違っている。
我らの教義は無辜の民が安寧を得るためにある。
彼女の言葉は誤まった道に進もうとした俺に示された啓示に近い。
彼女は‥‥俺が考えるより遥かに価値ある存在だ。
元の場所に…
何かが傍に居て欲しい…言葉にならない疑問を抱え。
俺は眠りに落ちた。
グッモ!
ブロ‥‥今日は女の子日だった?
//////キャッ!
朝俺がトイレから戻ると兄弟から通信が入った。
「血尿で済めばマシな方だ」
「俺の体調などどうでも良い、この程度すぐに回復する」
「問題は兄弟の事だ」
ミーに何か問題でも?
快食快便!健康優良人工知能だぜ俺ぁ
「俺たちには敵が居ない」
「極端な解釈だが、教義の示す主の平穏を享受している」
景気の悪ぃ話だな
お前ぇ空気読めよ‥‥
「兄弟も同じか‥‥」
「ログの検証がある分お前はマシだな‥‥」
アネゴに言われた事気にしてンるのか?
「無い。あいつは嫌いだ」
「だが‥‥‥ヒロインの言葉は刺さった」
「彼女は俺に何か残っていると言った」
「それが何か俺には分からない」
「少しだけそれが知りたい」
リビングに行くとヒロインがレーションの前で唸っていた。
「おはよ、怪我大丈夫」
「快適ではないが動く」
俺は向かい合うように座る。
「おはよう、何を悩んでいる」
「どっちが不味かったか思い出してるの」
「どちらも食える」
俺は一つの箱を開いて食べ始める。
慣れ親しんでどうでも良い味だ。
旨いとも不味いとも思わない。
ヒロインがもう一つの箱を開いてレーションを食べ始める。
俺は合成ビーフ&ビーンズの入ったAレーション
彼女が選んだのは合成チキンプレートの入ったBレーションだ。
味や作り方を聞かれたが、特に興味が無かったので「知らない」と答えた。
彼女は作り物っぽい味が「合わない」と言っている。
食事が終わると俺たちは合成紅茶を飲む。
やはり普通だった。
顆粒の粉末をお湯で溶かせば出来る。
これも彼女からすると「作り物っぽい」との評価だ。
偽物っぽい味だと言っていたが、そうなのかとしか思わなかった。
「これからどうするの?」
ヒロインが言った。
「いくつか推測できるが、その曖昧さは計画性への質問ではないな?」
俺はマグカップの中身を見つめた。
計画など立てようもない。
昨日彼女から得た着想をそのまま言おうと思った。
「君の言うこれからだが」
「俺は聖騎士をやめるか検討している」
「極めて遺憾だが俺では始祖を鎮圧できない」
「今ここには戦う理由がない」
彼女が驚いていた。
信じられないという顔をしている。
俺も同じだ。
聖騎士を辞める事など考えた事が無かった。
地球を3周分偵察しても文明の痕跡があるだけで人類は存在しない。
周囲に展開したドローンも生存した人類の情報を発見出来なかった。
「君…冷静なんだ」
ヒロインは言った。
「冷静か‥‥冷静ではないな」
「待ってくれ…感情を言語化している」
俺は思案する。
「それ言わなくて良いよ」
「きっと一言では言えないから」
「その指摘は的確だ。だが論理的ではない」
「モヤモヤした気持ちって言葉すると、きっと違う気持ちになる」
「私もあなたも今の気持ちは言葉にしなきゃいけないけど、今じゃないと思う」
ちょ…まてよブロ
聖騎士やめんのか?
インカムから兄弟が喋り始める。
兄弟に相談はしなかった。
自分が何者になったところで、例え種族を違えても俺たちが兄弟であることに変わりはない。
「信徒であることをやめるつもりはない」
「まして検討だ。やめると言ってすぐに辞められるものでもない」
できんのかよ…
主の救済を求めないブロがよ…
相変わらず兄弟の指摘は鋭い。
俺は今まで主の剣でしかなかった。
何を…今更。
「あのさあ…」
「彼ってあなたが思ってるほど強くないよ」
怒りは無い。
それは事実で、彼女の指摘を待っていた、とすら思えた。
ファッ?!
いやいやいや!
聖騎士だぜ執行者だぜ?
ティア1の強キャラに何言ってんの?
「兄弟…彼女の言う通り俺は強くない」
「強いと思ったことは一度もない」
「だから俺は主に救いを求める一人の信徒として暫く暮らす」
「どうすれば良いかは分からん」
今日までどうにか信徒を続けていたが、普通の信徒は何か?
俺には分からない。
主に自らの救いを求めた事など一度もなかった。
誰かのために…
「理屈が先に来てて、出来るかなあ」
「じゃあさ!主に助けてもらえるカンジ出そう!」
????
主に助けて貰うカンジ?
救難要請か?
「それは」
「また理屈っぽい!」
俺は何も言っていない。
何なんだ?
理不尽だが不快ではない。
「じゃあ主人公が手本見せてね」
彼女がそう言った。
「了解した」
「例えばだ…君の戦友が理不尽な形で死んだとする、君はどう思う?」
「重っ!そうだね…私なら泣いちゃうね」
「泣く?泣くことで何か解決するのか?」
「そういうとこ!」
彼女の指摘に俺は混乱する。
そことは何だ?
対象は?
「君はさ…友達が死んで悲しくなかったの?」
「凄く…悲しかった。もう20年も経つのか」
「主さんに祈った?」
「その時お…れ」
「いいから!ハイ!」
俺は手を組み、気を静める。
目を閉じ、聖句を告げる。
「主よ‥‥御許に居る我らの戦友に安らぎを」
目を開くとヒロインが同じように祈っていた。
「主さん、目の前のこの人困ってるんで助けてください」
何一つ正しくない。
ヒロインの祈りは我らの教義の求める形になっていない。
俺はそれでも、感じたことのない尊いモノを見ていると思った。
「ヨシ!届いた!」
こんなもので届くのか?
だが彼女の祈りに打算を全く感じなかった。
「…君は凄いな」
「多くの者の祈りを見てきたが、そうだな」
「こういう時は言葉にしないんだったな」
「いや?褒めていーんじゃない?ウレシイし」
??????
俺は何を信じれば良いんだ。
「凄いわ君のソレ、やっぱプロは違うなあ」
「それは違う」
「祈りに貴賤はない。俺は君の祈りが嬉しかった」




