三十七話
ウィリアムは青銅の格子窓の硝子越しに、のっぺりとした曇り空を見つめていた。太陽の欠片すら感じさせない低い空に、雲が物凄い速さで駆けていた。生ぬるい風に白いリネンのカーテンが揺れている。
視界に入ってきたマーシャルとウィオラの姿を見て、ウィリアムは身を起こすと腰の後ろに枕を置いて座った。
「やぁ、マーシャル」ウィリアムはそう言い、ちらっともう一人を見上げた。「……ウィオラさんも」
ウィオラは怒りに近い興奮を抑えているようで、直視できなかった。傍にいるマーシャルは色濃い愁眉をつくり、そっと寝台に腰掛けてきた。
「お久しぶり、ウィリアム」
「久しぶり、マーシャル。手紙、出せなくて、ごめん」
「ううん」
マーシャルは首を振り、口角を上げてウィリアムの手に自分の手を重ねた。
「ウィオラさんも、久しぶり」
「久しぶり」
ウィオラはそう言ってマーシャルを見下ろした。マーシャルはその視線に背筋を伸ばすと、横目でウィリアムを見た。
「あのね、ウィリアム。ウィオラが訊きたいことことがあるんだって」
ウィリアムは頷いた。
「なにがありましたの。ジルクートはどこにいるの? どうして貴方だけが……。いいえ、わたくしのジルクはどこにいるの?」
ウィリアムは呼吸のたびに口を開こうとした。そのたびにあの光景が浮かび上がる。炎の剣、ベーネ、悪夢、二人の呼ぶ声。ウィリアムはぼやける視界に震えるほどの怒りを抱いた。涙が頬を伝ってシーツに音を立てて落ちると、ようやく、ぎこちなく、ウィリアムはすべてを話した。見たものすべてを。
ウィリアムの話を聞き終えた時、病室には明かりが灯されていた。同時に、三人の間には長い沈黙が横たわった。
「話してくださり、ありがとうございました。辛い記憶だったと思います。わたくしはこれで」ウィオラは席を立ち、すっと踵を返して扉に向かった。思い出したように振り返り、「辛いことだったとは思います。ですけど、もう、あのようなことはなさらないで。貴方にはマーシャルがいる。マーシャルを悲しませないで」
マーシャルはウィリアムの無表情の頬を伝う涙を指で拭うと、「またくるね」と言ってウィオラの後を追っていった。
ウィリアムは二人が病室を出るの見届けてから、震える息を吐いた。杭が胸に突き刺さり沈み続けるような感覚に、寝台に横たわると堅く目を閉じて、二度と目覚めないことを願った。




