生意気
現状の打開策を見いだせないまま、戦況は硬直していた。
有効打のないままにギリザドの攻撃を避け続けている僕と、一撃必殺の力を持ちながらも僕に当てられないギリザド。
隙をみては短剣で切りつけるものの、硬いウロコに阻まれて短剣は弾かれるばかりであった。
そのまま攻防を交わし続けていると、段々と敵の攻撃が際どくなり、次第に避けるのが難しくなってきた。
(動きを、読まれてきたか。)
爆発の反動を利用して移動する特性上、その動きは直線的な移動に限られる。故に動き自体を捉えられなくても、点と点で結んだ先に攻撃を置いておけば、勝手にアルクから攻撃に突っ込んでしまう。その弱点にギリザドは気づき、次第に攻撃の精度を高めてきていた。
またアルクも初戦の緊張と攻撃が効かない焦りで、その動きに段々と単調さが増していた。
(経験の浅さって奴か。)
肩で息をしながら、アルクは思考を巡らせる。
(敵のスタミナは確実に僕以上・・・。このままじゃジリ貧だ。)
「短期決戦しかないね。」
覚悟を決めると、アルクは作戦を開始する。
「こっちだ化物!」
死角からギリザドの顔前に飛び込み、目の前で爆発を起こす。
目くらましをくらったギリザドは、一瞬視界を失い怯んだ。
僕はその隙を逃さずにギリザドの顎の下に潜り込んで拳を引き絞る。
「爆炎拳!!」
思い切り腕を天上に振り上げ、体ごと突き上げる。その衝撃はギリザドの顎を貫き、牙を砕いた。
「よっしゃあ!」
「まだ!!」
思わずガッツポーズをした僕に、ティアからの叱咤が飛ぶ。
ギリザドは痛みに呻きながら、その手を闇雲に振り回してきた。
「!!」
僕はその爪を避け損ない、崖へと叩きつけられてしまう。
「ぐあ!」
この隙を敵が見逃す筈がない。
ギリザドはその巨体ごと、僕に飛び込んできた。
背後には崖が、正面にはギリザドが。完全に退路が断たれた。
「アルク!!」
轟音を響かせながらギリザドの巨体が近づいてくる。
(逃げられないなら!)
迷ったのは、一瞬。
「前!!!」
僕はギリザドの顔面へと飛び込んだ。その手の短剣を握り締め、ギリザドの眼へと突き立てるとそのまま空へと離脱する。
突然視界を潰されたギリザドは混乱し、頭から崖へと突っ込んでいく。
衝撃でガラガラと崖は崩れ、ギリザドは降り注いだ岩の下敷きになった。
「やった・・・・・。そうだ。ティア!」
僕は安堵しつつティアを探す。
幸いなことに、ティアは崖近くで見守っていた為にすぐ見つかった。
「そこにいた――」
アルクが体をそちらに向けた瞬間、ティアに大きな影が覆いかぶさった。
「!!」
はっとしてティアの頭上を振り仰ぐと、ギリザドの衝撃の余波を受けて崖が崩れ、今にも落下しようとしている所だった。
「あ・・・・。」
アルクの視線に気づいたティアは頭上を見上げ、固まってしまう。
「ティア!!!」
僕は閃光の如く、ティアの元へと突っ込んだ。
ティアに被さる影が徐々に大きくなっていく。
間に合え!!!
そう念じながら僕はより一層加速する。
間一髪、僕はティアを岩の下から連れて脱出することに成功した。
ティアを胸に抱きかかえて両手が塞がっていたために、僕は着地に失敗した。
ゴロゴロと派手に地面を転がり回り、木の根元にぶつかって漸く止まった。
「ティ、ティア・・・。怪我は・・・?」
「・・・無い。大丈夫。ギリザドは?」
「ああ、あいつなら今頃あの岩の下敷きだ。」
「・・・そう。」
「うん。」
「・・・離して。」
「あ、ご、ごめん。」
抱きしめたままだった事に気づき、僕は慌てて体を離す。
「・・・怪我、直すから。こっち来て。」
「ああ、お願い。」
そう言って僕はディガウトを解き、ティアに近づく。
彼女は治癒魔法を僕にかけながら、話しかけてきた。
「アルク・・・本当に、ギリザドを倒しちゃった。」
「はは・・・、自分でも信じられないけどね。でも、言っただろ?僕はティアを守る英雄になるんだって。」
徐ろに右手をティアの頭に乗せて、ぽんぽんと、ティアの頭を撫でながらそう応えた。
「・・・アルクの癖に、生意気。」
ティアはそう呟くと、そっぽを向いて下を向いてしまった。
「なんで!?」
その耳は赤くなっていたが、アルクは気づかない。
「まあ、あれだ。ギリザドは倒したし、とりあえず――」
そう言って僕が立ち上がった時、再び轟音が轟いた。
その音に僕らが顔を向けると、下敷きになった筈の緑の巨体が大岩を弾き飛ばすのが見えた。
血に赤く染まった顔を振り僕らの姿を捉えた途端、ギリザドは僕らに飛びかかってきた。
「「!!!!!」」
次の投稿は明日です。感想お待ちしています。




