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英雄に憧れて  作者: 三毛実
第1章 英雄の旅立ち 
7/28

TEAR

長めです。

(ディガウトを―!?)

そう思ったが、この距離ではそんな事をしていても間に合わない。

眼前の出来事に反応できず固まっている僕の横で、ティアが一歩前に出た。

その両手を地面に叩きつけて叫ぶ。

「グランバルド!!!」

途端に、僕らの目の前に厚さ5mはあろうかという分厚い大きな土の壁がせり上がった。

「な・・・!!」

ギリザドは突如現れた壁を避けきれずにぶつかって動きを止めた。

「グランロック!!!」

続けて唱えた魔法によって、地面から泥のムチが伸びてギリザドを包み込み動きを封じる。

ド級魔法を続けて2回使用したティアは、息切れ一つしていなかった。

「・・・・・・・・。」

「これで暫く時間は稼げるけど・・・・・もう周囲の魔力が足りない。次にあいつの攻撃が来たら、私では防げない。」

僕はあまりの驚きに言葉を失っていたが、彼女の言葉で現実に引き戻された。

(どうする?)

僕は再び思考する。

(ディガウトなら魔力が少ない今でも問題なく使える。だがあいつは全ての衝撃を無効化する。僕の格闘技では有効打を打てない。短剣はあいつの目にくれてやったし、何度もあのウロコを切りつけたせいで刃はボロボロだ。引き抜いた所でまともに使えやしないだろう。

なら、空を飛んで逃げるか?

でも姿勢制御が難しい。漸く両手足を使って漸く空を飛べるようになった僕が、両手でティアを抱えた状態で空なんて飛べやしない。

森の中を走るのはどうだ?

僕ひとりならともかく、いきなり2人分に増えた体重を御しながら障害物だらけの森の中を走るなんて無茶だ。・・・・・というか、そもそも逃げれるなら端からそうしてるだろ。)

自問自答を繰り返すも、解決策なんて見つからない。

万事休すだ。

(こうなったら。僕があいつの気を引いている隙にティアだけでも逃げてもらうしか――)

それでも次善策を探していた僕の腕をティアが引っ張ってきた。

「アルク・・。あなたに、提案がある。」

「何かいい案が浮かんだの?」

そう尋ねた僕にティアは躊躇したように見えたが、それも一瞬だった。

彼女は僕の顔を見て、言った。

「・・・・私を、使って。」


「何言って―?」

疑問を口にしようとした僕の目の前で、彼女はその腕を剣の刀身に変えてみせた。

「!?」

彼女は僕に構わずその腕の形をドンドンと変えていく。

レイピア、サーベル、ナイフ、ハルバード、トライデント、ソードブレイカー、ランス、弓、ハンマー、サイス―――

「・・・・こういう、こと。」

彼女は腕を元に戻しながらそう呟く。

僕は目の前の出来事を信じられなかった。

「さっきの魔法といい、その腕といい・・・。ティア・・・君は何者なんだ?」

「・・・・ごめん、ね。アルク。」

ティアは目を伏せると、告げた。

私も、化物なんだ。


私も、あのギリザドと同じように、造られた存在なの。

魔法生物の技術で生み出した魔物の精神を進化させ悪魔と成し生み出された存在。それが私。

コードネームTEAR (Transformation Enchantment Arms Resonance共鳴式変形魔法武器)・・・・。それが私の名前。


「な、なんでそんな事を。」

「・・・アルクは、精霊憑きって言葉を知ってる?」

「精霊憑き・・・・。デュアルスペラー。」

「そう。」


デュアルスペル。同時二重魔法。

普通人は、魔法を同時に一つしか扱えない。

魔法の仕組みを簡単に言えば、体外から魔力を吸収し、体を通して再び放出するというものだ。

そして魔法は、体の各部に特定の順序で魔力を通す事によってその内容を決定づけられる。

この魔力の流れの順番を決定づけるのが人の精神である。

魔法を行使する際、人はその魔法名を唱える事によって魔法のイメージを固定化し、精神がそれに沿って魔力を体の中で走らせる。こうして魔法は発動する。

その為同時に魔法を唱えようとしても、2つ目を唱えようとした際に体の魔力回路が混線し、その前に唱えていた魔法は中断されてしまう。一人の精神で同時に扱える魔法は一つなのだ。

そこで、ある研究者が考えた。一つの精神で一つの魔法を扱えるのなら、その精神を増やせばいいのではないか?


その答えが精霊憑きと呼ばれる人の存在である。

人の精神に値する高次精神体として知られているのが精霊と悪魔である。

精霊とは生き物の体内に集まった魔力の塊から長い時をかけて生まれた存在である。例えばサファイアクレストは成長の過程で体にその魔力を溜め込むが、それはやがて結実し樹木精霊となる。精霊は生き物の体に干渉しない。

対して悪魔は魔物の体内に集まった魔力の塊から生まれた存在である。例えばウルフマンなどは獲物を捕食し体に魔力を溜め込み、やがてその精神は狼悪魔へと進化する。悪魔は魔物の体に干渉しない。

つまりは精霊、悪魔共にその元になったものの精神が時を経て高次化したものといえる。


精神体となった精霊と悪魔は人とある約束を結ぶ事によって元となった体を離れその力を貸してくれることがある。それが契約と呼ばれる儀式である。

精霊は生き物から膨大な魔力を常に供給されることを条件に『命の契約』をする事が可能である。契約した場合、精霊は精神体となって人の体に宿り契約が守られる限りその力を貸してくれる。

悪魔は人の心の底からの感情エネルギー、俗に言う魂を条件に魂の契約をする事が可能である。契約した場合、悪魔は契約者の魂、つまりは命をもらう事によってその者の願いを叶える。

これら精神体を体に宿す事が出来れば一つの体に二つの精神が宿っている状態となり、同時に2つの魔法が使えるようになるのだ。

これらのことから理論上、デュアルスペルを使うために精霊憑きと悪魔憑きが存在することになる。


しかし悪魔は魔物の体から生まれた為に、生き物である人に宿った時点でその体を魔物の体へと変じさせる。また悪魔は契約の為に魂を、正確にはその感情をエネルギーとしているが、その契約は心の底からの願いでなければ叶わない。自分の命を賭けてでも成し遂げたい願いとは一般に復讐や怨みによる願いにしか使われなかった。故に年経た悪魔ほどにその性格は残忍で凶暴となり、もし人の体に宿ったとしても精神を乗っ取られ別人となってしまう。

故にデュアルスペルを使うためには生物から生まれた精霊と契約するしかない。

だが精霊はその存在が希少で、尚且つその精霊と契約するには途方もない魔力を扱える事が条件となる。結果としてデュアルスペルを使える人間は少ないのだ。


―――ならば人工的に合成した悪魔で試したらどうだろう?

悪魔憑きが非現実的な理由はその精神の凶暴さ故と魔物の体になることへの強い忌避感だ。ならば生まれたばかりの悪魔であれば、その精神も穏やかなものになり制御できるのではないか?そしてそれを利用できれば?もしそれが可能であるならば、希少な精霊を探し出し、それと契約するための修行という労力を費やさずとも、誰でも簡単にデュアルスペルを使えるように出来ないだろうか?こういった議論の下、ある兵器を作る計画が開始された。


「人工的に生み出した魔法生物を悪魔と成し、それを兵器として扱うことによって擬似二重魔法使いを目指す計画。それがEAR計画。私は、そのEAR計画から派生したTEAR計画の産物。」

その台詞を最後に彼女は説明を締めくくった。

アルクは口も挟めないままに、それを聞いているだけだった。



ティアは感情の読めない無表情のままで話を続ける。

「私は、人としてではなく、兵器として生まれた。だから、兵器として生きるのだと思っていた。・・・・でも、アルクは教えてくれた。

大切なのは、自分が何者であるかじゃない・・・何者でありたいかだって。」

「・・・ああ。その通りだ。」

アルクはその言葉に大きく頷きを返す。

「そして、それを決めるのは自分だって、・・・そう言った。」

言葉を区切り、彼女は目を瞑った。

「私は決めた、よ。」

そして次に目を開けたとき、ティアは真っ直ぐ僕の瞳を見つめていた。

「私は兵器として生まれた。けど。私は、人として生きる。だって私は、アルクと一緒に居たいから。だから、私を使って欲しいの。あなたと一緒に戦いたいの。」

そう一息に言い切った彼女の顔には静かな決意の色が浮かんでいた。

「きっと、大丈夫。」

「・・・・分かったよ。ティア」

僕は、彼女に手を伸ばす。

「一緒に、戦おう。」

「うん。アルク」

彼女は僕の手を握ると、呪文を唱えた。

「アームド(武装化)」

その瞬間、ティアはその体を光の粒子と変えて僕の体へと吸い込まれた。胸の内が暖かくなると共に体から湧き出た光が手の中に集まり姿を変えて、一本の大剣へと変化した。その剣は非常にシンプルな形をしていて、常に淡い光を放っている。

あまりにも非現実的で幻想的だった。

「軽い・・・・。」

初めて持ったのに、ティアはすぐ手に馴染んだ。重さも感じず、まるで羽を持っているかのようだった。

これなら・・・!

その時、ギリザドは体の拘束を解いて地面から這い出てきた。

「待たせたね。」

僕はディガウトを唱えると、ティアを体の真正面に構えて告げた。

「第2ラウンド開始だ」


次の投稿は明日です。感想お待ちしています。

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