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英雄に憧れて  作者: 三毛実
英雄の出会い
26/28

家族


「すいませんでした!」

「もういいさ。二度とこんなことするんじゃないぞ?」

「はい、申し訳ありませんでした。」

相手が去るまでルシハは頭を深々と下げていた。

「・・・・許してもらえたかな・・・。」

「そう言ってたでしょ。」

「だといいが。」

ルシハは王都に帰り市場が開くと同時に、朝からずっと奪い取った装備を返して謝罪をする事を繰り返していた。今ようやく最後の一人に謝罪が終わり、ルシハは街中を歩き回りながらアルクに言われた言葉を思い出していた。

――君の言う、自分と一緒に居てくれる仲間って奴がさ。

(そうか。)

両親を殺した憎い悪魔だと思って居たが、両親が残してくれた形見とも言える存在。

思えばクレアは、どんな時でも、文句一つ言わずにいつも一緒だった。嘆き悲しんでいた時も、辛く苦しい時も、こんな俺と居てくれた。

生まれてからずっと一緒だったのに、俺はアルクに言われるまでその事に気づけなかった。

「クレア」

「何?」

その名を呼ぶと、直ぐに返事が返ってきた。

「その・・・・、ありがとな。」

気恥ずかしくなり、早口になってしまった。

「・・・・急にどうしたのよ?変なルシハ。」

「変・・・・。なんでもねえよ!」

そう言ってルシハは不貞腐れた

「言った俺がバカだった。」

「なに拗ねてんの。当然じゃない。」

「当然って、何がだよ?」

何を言いたかったのか分からずに、ルシハは問い返す。

「馬鹿ね・・・そんなこと、言われなくても知ってるからよ。」

クレアの少し照れたような返事に、ルシハは面食らう。

「・・・ハハッ、なんだよ。お前も素直じゃないな。」

「・・・お互い様よ。」

本当に、その通りだ。

「・・・・俺は、アルクに言われて漸く気づけたよ。」

「何によ?」

「お前は、俺の家族だったんだな。」

「家族・・・。」

「そうだ。」

「そう・・・。・・・これが、家族なのね。」

そう言ったクレアの声は、初めて聞くほどに穏やかなものだった。

「これが、あの2人が守りたかったものなのね。」

クレアは漸く、あの時二人からもらったものがなんなのかを知ったのだった。



研究室にて

「ルシハも失敗したのか。」

「はっ。あの者は任務を放棄したようです。」

「・・・そうか。」

「いかがしますか?」

(もう十分なデータは採ったし、潮時か)

「TEAR共々、始末せよ。」

そう言った男の顔には、なんの感情も浮かんでいなかった。


空を見上げると、丁度太陽が真上に登ったくらいだった。

もう昼時か。気づけば腹が減っていた。

(流石にアルクも起きた頃か。・・・昼飯にでも誘ってみるかな。)

「嫌!やめてよ!」

あいつの好みはなんだろうと考えていると、どこからか女性の叫び声が聞こえた。

「!」

出処を探るとどうやらこの奥の細い路地裏からだった。

慌てて駆けつけると、そこには一人の女性と、二人の騎士がいた。

(あいつら・・!?)

その騎士は、見覚えのある二人組だった。幼かったルシハを問答無用に切り裂き、この間もたまたま出会った時にこの白い髪を覚えられていて追いかけられた。

思わず踏み出そうとした足が、その顔を見た瞬間に止まってしまう。

昔の事を思い出してしまったルシハの背中から嫌な汗が吹き出してくる。

(う・・あ・・・・。)

無意識のうちに、足が後ずさる。だが、

――君は、どうしたいんだ?

真っ白になった頭の中で、アルクの声が木霊した。

「っ!」

気づいたときには、考えるよりも先に体が動いていた。

「てめえら!その人から手を放しやがれ!!」


「んあ?」

邪魔された騎士はその顔をあげて声の主を確かめると、笑い声をあげた。

「はっ!なんだ。白髪の小僧じゃねえか。」

「やっぱりこの間のはてめえか。よく生きてたな?」

「っ・・・俺のことはどうでもいいんだよ。その人から離れろ。」

「この女は窃盗の容疑がかかっている。俺たちはこれから取り調べをする所だ。見逃してやるからさっさと消えろ。」

女性はその手に買い物かごを持っていた。女性はルシハを見て必死に違うと首を振って訴えていた。

「嫌だね。」

「ちっ。邪魔くせえ。」

「お前何様のつもりだ?正義の味方でも気取ってるのかよ。悪魔憑きのお前が。」

「悪魔憑き・・。」

その単語を聞いた途端、女性の顔にさっと恐怖の色が浮かんだ。

(・・・・・・くそ。)

その怯えた顔に、ルシハの心は挫けそうになる。

(やっぱり、悪魔憑きの俺じゃ・・・・。)

顔が俯き、踏み出そうとした足を引いてこのまま立ち去りそうになる。

―――甘ったれんな。

その足を抑え付けたのはあの言葉だった。

(俺は甘ったれじゃねえ!!)

ギリッと歯を鳴らしてルシハは顔を上げ、引きかけた一歩を踏み出す。

「・・・・やかましい。」

「あ?」

「なんだって?」

「やかましいといったんだクズども!」

ルシハの怒鳴り声に二人の騎士は一瞬怯んだ。

「俺は確かに悪魔付きだ。だけどお前らより遥かにマシだ。お前らみたいな自分の立場を盾にして弱いものイジメをする奴らと同じ人間じゃなくて心底嬉しいぜ!」

ルシハの言葉を聞いて二人の顔に朱が差した。

「・・・小僧、名前を聞いてやる。」

「ルシハだ。」

「ルシハか。この間は見逃してやったが、今度はそうはいかんぞ。」

「やってみろよ。」

二人の騎士は剣を抜いて構え、ルシハも臨戦態勢となる。

騎士の持つ銀の剣は教会によって聖別された特別な物だ。その剣は魔物を容易く切り裂く事が出来る。それは悪魔たるルシハも例外ではない。

(2:1・・・。しかも狭い路地でか。分が悪いな・・・。)

一瞬でそこまで考え、挑発する前にもう少しマシな状況に出来ただろと一人悔やんでいると、いきなり二人の騎士の後ろから野太いしわがれ声が聞こえた。

「ほう、お前がルシハか。」

「な!?」

「いつの間に・・・。」

気づくと、騎士たち二人の後ろに熊のような大男がいた。

「・・・悪魔か」

「ご名答。」

言うやいなや、悪魔はその体を変化させた。

全身を茶色い体毛が覆い、全身から筋肉が盛り上がり、その膨れ上がった体は肉ダルマのようだ。

「「ひっひいいいいい」」

それを間近でみた二人の騎士は剣を構えることなくそのまま悪魔に背を向けて、ルシハの横を通って逃げ出した。

「・・・・逃がすのか。」

「あんな虫けらには用はない。儂の目的はお主だ。ルシハ。」

「・・・組織の掃除屋だな。」

「そうだ。儂の名はベガ。マスターはお主を始末せよと仰られた。」

「そうかい。だけどこっちも黙ってやられるつもりはねえな。」

「へっ。威勢がいいガキよの。さて・・・、クレアとか言ったか?聞こえているだろう。返事ぐらいしたらどうだ?」

「・・・・なにか?」

「お主がクレアか。初めての契約がこんなガキのおもりとは。お主もとんだハズレくじを引いたものだ。まっこと同情するわ。」

ベガの声は多分にルシハに対する嘲笑を含んでいたが、同胞たるクレアへの労わりでもあった。だが、

「黙りなさい。」

それに答えたクレアの声は極寒の吹雪より冷たかった。

「・・・・は?」

クレアの思いもよらない返事にベガは驚いて固まっている。

「この子は、ルシハは、私の家族なのよ。あなたがこの子を馬鹿にすることは許さない。」

クレアは努めて冷静でいようとしていたが、その声からは隠しようのない怒りが溢れ出ていた。

「・・・・へっ。感情なんてものを吸い取るからよ。気でも狂うたか。」

「・・・そうね。確かに悪魔らしくないわ。でもね、」

「でも?」

ベガの問いかけに、クレアは答える。

「あたしらしくはあるのよ。」

その声は、誇らしげだった。

「悪魔は自らの意思で契約を破れない。私は契約があったからこの子の傍に居ただけで、この子に従っていたのも所詮この子が死んで契約が切れるまでの暇つぶしとしか思っていなかった。だけど今は違う。契約なんてなくても、私はこの子と共に戦うわ。それがあたしの存在理由。私はこの子と共に在り続ける!」

「クレア・・・・。」

思いがけず聞かされたクレアの本音に、ルシハは嬉しさと気恥かしさを感じた。

「・・・・ハハッ。クレア、お前そんなに熱かったっけ?」

慌ててそんな自分を誤魔化し、茶化すようにクレアに喋りかける。

「私も驚いてるわ。」

クレアの声は他人事のようだった。

「そうかい。」

そのいつもどおりを装うクレアに気づかない振りをして、ルシハは首の十字架に手をかける。

「行くぞクレア。あいつを、ぶっ殺す!」

「ええ!」

魔物化デモナイズ!!」

叫び、ルシハはそれを一息に引きちぎる。

キィン。

澄んだ音を立ててロザリオはその首から外れ、ルシハは青い炎に包まれてその体を急速に変貌させる。

ルシハの体は膨れ上がり、その体躯は2mを超える。両手足から鋭い爪が伸びて口からは牙が覗く。鋼のように固く引き締まった筋肉が全身を覆い、うなじから背中にかけてタテガミが生え体中が白い体毛に包まれて、その表面はキラキラと輝いている。

「さあ、やろうか。」


次の投稿は明日の18時です。感想お待ちしています。

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