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「・・・・・ん~・・・・・。」
気怠さを覚えて目を開けると、木の天井が見える。
どうやら僕はベッドに寝かされていたらしい。
ベッドから起き上がり、カーテンを開けると、既に日は真上まで登っていた。もう昼過ぎのようだ。
「ちょっと、寝すぎたな・・・・。」
王都に連れて帰られる途中、アルクはあまりの疲労に気を失い、そのまま眠ってしまったらしい。
(ルシハはどうなったんだろう)
物思いに沈んでいると、コンコンと不意にドアをノックする音がした。
「アル君!!!」
どうやらリーシャが様子を見に来たらしい。
「空いてるよ。」
何の気なしにそう返事した途端、扉はバーンと派手な音を立てて開け放たれると同時にオレンジ色の物体が飛び出してきた。
「会いたかったよー!!!」
「うわ!?」
あまりの音に振り向くと、丁度リーシャが両手を広げて飛びついてきた所だった。
「リムド!」
「久しぶり!筋肉ついたね。少し背のびた?空飛べるようになったじゃん。ほらあたしの言ったとおり。やっぱ私凄い。てかあれなんか私より小さい・・・?」
「・・・苦しい。」
「・・・何、この子。いつここに?」
アルクに抱きついた筈が、腕の中にいたのはティアだった。
アルクは咄嗟に武装化を解除し、ティアを身代わりにして脱出していた。
「今まで僕の中に居たからね。紹介するよ。相棒のティアだ。」
「相棒・・・。」
アルクの言葉を聞いてティアの顔にはほんのわずかにがっかりしたような、リーシャの顔には驚愕の表情が浮かんでいた。
「嘘!?アル君に女が!!」
「なに言って!?」
「私が唾つけといたのに!?」
「つけられてない!」
ティアは気絶したアルクの中に留まり続け、そのまま治癒魔法をかけ続けていてくれていた。お陰であれだけ酷かった怪我も寝ているうちに治ってしまった。声もしなかったから本当に居るのか不思議に思っていたけど、どうやら気を利かせて静かにしていたらしい。
「もうお昼だよ!お腹すいたでしょ?ご飯食べに行こうよ!」
そう言うと、リーシャは返事も待たずに二人を引っ張って外へと飛び出していった。
「美味い!」
「・・・美味しい。」
「そうでしょそうでしょ?私の行きつけなんだ!」
木の器に盛られた野菜タップリのシチューに、柔らかいパン。豚肉をじっくりと煮込んだトロトロの煮物に、僕らは舌鼓を打つ。素朴だが優しい味で、体に染み入るように滋味深い味がする。
ここはリーシャの行きつけだという三毛猫亭。僕らは3人で肉球を象ったような独特の形をした木のテーブルに座り、少し遅めの食事をとっていた。
お店はあまり広くないがとても清潔で、辺りには埃一つ落ちていない。
庶民向けの家庭料理が売りで、派手さは無いがその味は折り紙つき。値段も手頃ということもあって噂を聞いて遠くから訪れる人も多いらしい。ちょうどお昼時の店内は満員で、料理を頬張る皆の顔は一様に穏やかだ。
暖かい女将さんと笑顔が売りのかわいい看板娘で切り盛りしているとのこと。
その看板娘は今は出かけているようで姿が見えない。少し残念だがまた次の機会もあるだろう。
お店の由来らしき三毛猫がカウンターで毛づくろいをしているのを眺めていたら女将さんが厨房から顔を出し、僕を見てリーシャに問いかけた。
「その子かい?リーシャがいつも言ってる男の子は。」
「そうだよ!アル君って言うんだ!私の一番弟子!」
リーシャはニコニコ笑顔で答える。初耳である。
「僕はいつの間にリーシャの弟子になったの?」
「今!」
「なるほど。」
(まあ、弟子と言えなくもないのか。リーシャのお陰で僕は英雄を目指せたのだし。)
「じゃあ、これからもよろしくね。師匠。」
「し、師匠。」
リーシャは両手を胸の前で握りしめて感動している。
なんかこれデジャブ。
「それでさ、リーシャ。」
「え?もう師匠って呼ぶの終わり?」
残念がっているようだけど、今はこっちが重要だ。
「ルシハの事なんだけど。」
「ああ・・・・、うん。ルシ君ね。」
「彼は今どこに?」
「彼は今謝罪をしに街を歩き回っていますよ。」
「ルネだ。」
そう言って店に入ってきたのはルネさんだ。
「あ、ルネさん。」
「君らがここに居ると聞いてね。私もお昼ついでに話に来ました。」
そう言ってルネさんは僕の正面に座った。
「女将さん、私にも彼らと同じものを。」
「はーい」と奥から返事が聞こえた。
「そんな、わざわざ出向いてもらわなくてもこっちからお伺いしたのに。」
「気にしなくていいのよ。ただのサボる口実なんだから。」
いつの間にいたのか、気づけば樹木妖精のレイスもそばに浮かんでいる。
「レイス・・・・。君はもう少し口に慎みをだね・・・。」
ルネは痛いところを突かれて困った顔をしていた。
「謝罪って?」
それに構わず、ティアが疑問を口にする。
「ああ、ルシハ君はアルク君を探すついでに戦った冒険者から装備を奪っていたんだが、それをそのままどこかに保管していたらしい。今はそれらを持って元の持ち主に返して回っているところです。ああ、ありがとうございます。」
そこまで言うと女将さんが持ってきた料理を受け取って、ルネは品良く食べ始めた。
「・・・・許して貰えたんでしょうか。」
「・・・・幸い、彼と戦った者は装備を奪われた以外は軽傷でね。奪われた魔力も半日もすれば元に戻るから、真摯に謝ればまだ子供の彼をそこまで怒る人も居ないでしょう。」
そういうルネはいつもどおりの微笑をたたえていた。どうやら問題ないようだ。
「それならいいんですが。」
「そんなにルシハ君が心配ですか?」
「・・・ええ。友達ですから。」
「ふふっ、ルシハ君は君みたいな友達を持てて幸せですね。」
「茶化さないでくださいよ。」
「本心です。・・・ルシハ君は、アルク君に感謝していましたよ。」
「え?」
「帰り道に、君が気を失ってから話していました。君のお陰で、自分は漸く前に進めそうだと。君に出会えてよかったと。とても嬉しそうに。」
「ルシハがそんなこと・・・・。」
「・・・ルネ、それは秘密だって、ルシハ言ってた。」
「おっと、これはオフレコでした。」
ルネはその人差し指を立ててポーズをとる。
この人はわざとやってる。間違いない。
ルネさんを半眼で見ながら、横にいるティアのこぼしたパンくずを拾っていると、珍しく黙っていたリーシャが少し真剣な顔で話しかけてきた。
「アル君は・・・・しばらく会わないうちに、大きくなったね。」
僕は何を言っているのか分からずにキョトンとしてしまった。
「え?そんなに身長変わっていないと思うけど?」
「そうじゃないよ。心がってこと。」
リーシャはそう言ってお茶を啜ると、ため息をついた。
「私は・・・・あの時ルシ君に、友達になるってすぐに言えなかった。言いたかったのに、私の家族に迷惑がかかると思ったら、言葉が出てこなかった。でもアル君は迷わずに、直ぐに手を差し出して言った。私はそれが凄く恥ずかしくて、自分がとても嫌な奴だと思った。大切なのは何者であるかじゃないって、私が自分で言った言葉なのに・・・。」
リーシャはそう言って俯いてしまった。
「・・・・リーシャは悪くないよ。自分の家族の事を考える事だって大事だ。」
「でも、私はルシ君になんて言えば・・・・。」
「気にしなくたって良いよ。ルシハはこれから自分を認めて歩き出す。きっとすぐに、彼を友達だって大声で言えるような存在にルシハが自分でなってくれる。リーシャは、それを待っていれば良いよ。」
その言葉を聞いて顔をあげたリーシャはもう暗い顔をしていなかった。
「・・・・本当に、大きくなったね。私よりも年上みたい。」
リーシャは、そう言って微笑んだ。
「最初からそうだったでしょ?」
「えっ!?」
からかうと、リーシャは僕に言葉の取り消しを要求してきた。
次は明日の18時投稿です。感想お待ちしています。




