激突
森の中を、二つの影が走っていた。
「くあっ!」
「はっ、やるじゃねえかアルク!俺の速さについてくるとは恐れ入ったぜ。ギリザドを倒したってのは伊達じゃねえようだな!
広いところなら空を飛べるアルクの方が有利だが、森の中という障害物だらけの空間においての機動力はルシハの方に軍杯が上がる。まだ細かな超爆機動が出来ないアルクは常にティアの飛行形態による移動支援を受けてなんとか追いすがっているという状況だった。
(巧い!)
単純な速さで言えばアルクの方が上だ。しかしルシハは魔物本来の姿となったことで身体能力が格段に増加し、地面だけではなく木の枝までも使って自由自在に跳ね回る。月が出ているとは言え森の中は暗い。夜目が効かないアルクはその姿を目で追うだけでも一苦労だった。更にルシハはリーシャの戦い方を真似して様々なところから、アルクの死角をついて攻撃してくるために全く出処が読めない。
「そらよ!」
「うぐっ!」
左の岩陰から飛び出してきたルシハの攻撃を咄嗟に左腕で受けるも、そのまま木へと体を打ちつける。
「くそっ!」
「遅い。」
即座に超爆機動で反撃に移るも、アルクが拳を振るうときには既にルシハはその場を去っていた。
(目で追うことが出来ないのなら。)
アルクは全神経を耳へと集中させる。周囲を走り回る足音が、頭上で一際大きくなるとともに風切り音が近づいてくる。
「ハハっ!背中がお留守だぜ!?」
(樹上からの襲撃!!)
「そこだっ!!」
アルクはその場で体を思い切り左斜め後ろへと捻り、超爆機動の勢いを使ってその場で横になったコマのように回り、カウンターの要領で右のハイキックを背中から襲いかかってきたルシハの顔へと蹴り抜いた。
「なっ!?」
ルシハは咄嗟に顔面を庇い直撃を避けるが、その衝撃で背後の大木をなぎ倒して吹き飛ばされる。
「何故俺の攻撃が読めた!?」
「教えるもんか!」
アルクはよろよろと立ち上がったルシハへと超爆機動で突撃し再び拳を見舞う。
「ぐおお!!」
ルシハは腕を十字に組んで防いだものの、まるで巨岩がぶつかったような衝撃に再び吹き飛ばされる。
「なんだこの冗談みたいな破壊力は!?」
「まだまだ!!」
再度超爆機動で突撃し振るわれた拳をルシハは身を翻して避け、そのまま距離をとるとアルクへと手を伸ばす。
「喰らいな!」
「マグナバレット!」
「ティア、頼む!」
「アークバルド!」
ティアの作り出した水の防御膜がアルクの体を覆うと同時、クレアの放ったスイカ並みの大きさの炎弾が激突して相殺する。
「俺とクレアの魔法を防ぐとはさすがだな。アルク!」
「ティア!」
「ボルドウィップ!」
即座に唱えた反撃の雷のムチがルシハを狙って振り下ろされる。
その速さは正しく雷が落ちるように一瞬だ。
「はっ。」
しかしルシハはその軌道を読み切り、魔法が放たれたと同時に岩を盾にしてその攻撃を避けた。
「危ねえ危ねえ。」
「くそっ。ボルドでもあの速さには追いつけないのか。」
「いやいや、冷や汗もんだぜ?」
ルネは二人の戦いを見て驚愕していた。
(なんだあの魔法の威力は。)
魔法には低級、中級、高級、超級、弩級といったようにその規模に応じたランクがある。
最初に使われたバレットという攻撃魔法は魔力によってイメージした元素を凝縮、圧縮し相手に向かって打ち出すという魔法だ。射出魔法の分類においてバレットは最も基礎的な下級魔法で、単発だが速さに優れるという特徴を持つ。一般的なバレットは精々人の拳ほどの大きさだが、ルシハ(クレア?)のバレットの大きさは砲弾位ある。あれではバレットではなくキャノンだ。ランクも低級ではなく中級ほどの威力がありそうだ。更にそれを防いだ防御魔法。防御魔法には狭い範囲に厚い障壁をに生み出すシルド、前方に障壁の壁を創りだすヴォールなどがあるが、今彼らの使ったバルドという防御魔法は体全体を薄い膜で包む中級魔法で、全方位に対応できるという利点があるが、それは精々相手の毒液など体に触れるのを防ぐ目的で使われるものであり本来バレットのような攻撃を目的とした魔法は貫通されてしまう。それなのにアルク君―正確にはティア君のようだが―の使ったバルドは厚さがシルド程もあり、もはや中級ではなく高級である。
相手はともかく、まだ15歳の筈のアルク君達の魔法までもが相手と拮抗している。二人の魔法は、恐らく威力だけなら私をも凌ぐ。
(やはり、アルク君は・・・・。)
「・・・ルネ。アル君は・・・??」
その声にルネは現実に戻された。
(そうだ。今はリーシャだ。)
「またあんた考え事してたでしょ。なんなのよ?」
「いや、なんでもないよ。レイス。」
「・・・そう。それより、リーシャなんだけど。」
「何かわかったか?」
「それが・・・何もわからないのよ。」
「何?」
「体の傷はすぐに治したわ。出血は多かったけど、幸い傷は浅かったし、他の傷も打撲ばかり。命に関わる傷はない。」
「それは良いが・・・。」
血を拭われ、手当を受けたリーシャはそれでもなおグッタリとしていた。
「毒の類かと疑ったんだけど、調べても何も異常はないのよ。一体何が起きているのか。」
そういってレイスは額を抑える。
「・・・リーシャ、聞こえるかい?」
「・・・・アル君は??」
「彼なら大丈夫だ。それよりリーシャ、君の体を調べているんだが、特に毒といった症状はないんだ。何か、心当たりはあるかい?」
「心当たり・・・・。」
リーシャはぼんやりとしながらも、心当たりを探していた。
「・・・・なんか、体に力が入らないの。」
「力が?」
「そう。あいつの・・・・・黒いグローブに触れられた瞬間に、体の中から力が抜けていって・・・・。そういえば・・・・最初にあいつを見つけた時も、・・・あいつの周りで倒れてた人は・・・・・皆衰弱していたようにみえたわ・・・・。」
(力が抜ける・・・。もしや。)
「分かったぞ。」
「ちょっと、自分だけ納得しないで。リーシャはなんだったのよ?」
レイスは一人納得しているルネの頭の上で飛び跳ねながら尋ねる。
「リーシャは、魔力欠乏症だ。」
次の投稿は明日です。




