夕暮れの攻防
景色が赤く染まる中、森の中で2つの影が走っていた。
本来聞こえてくるはずの動物達の鳴き声はなりを潜め、代わりに剣と拳が空気を切り裂く音が静かな森の中で響いている。
「くそっ」
「最初の威勢はどこへ行ったのかしら?」
男の身のこなしは素早く、滑らかだった。木の根が張り出し、一抱えもの大きさのある岩がゴロゴロとしている足場の悪い森の中で縦横無尽に駆け回る。
しかしリーシャはその男に一歩も劣らず追い付き、逆に木や岩の陰から死角を狙って男に斬りかかる。
リーシャの『迷い戸惑う者に力を』の特殊機能、英雄強化は彼女の心に思い浮かぶ守りたい人が多ければ多いほど、身体能力を上昇させる効果を持つ。リーシャが今までの人生で関わり、支え支えられてきた人々との絆がそのままリーシャの力となって彼女を奮い立たせる。
「はあっ!」
裂帛の気合と共に、木の陰から飛び出したリーシャが『迷い戸惑う者に力を』を薙ぎ払い、男の首を狙う。
「うおっ!」
瞬時に体を引いて避けた男は即座に前へ踏み出そうとする。
「やりやがって!今度はこっちのば!?」
男の目の前には避けたはずの剣閃がそのまま残っていた。
「ちぃ」
慌てて身をかがめ、その刃を避ける。
「特殊機能か!」
リーシャの『迷い戸惑う者に力を』のもう一つの特殊機能、残光斬はその斬撃が実体としてその場に残り続ける効果を持つ。
「もらった!極光の牢獄」
リーシャは男が一瞬動揺した隙をついて、男を残光斬で作り出した光の牢獄に閉じ込める。
「っ!」
身動きを取れなくなった男にリーシャの剣がその隙間を縫って突き出される。
「もう避けられないんだから!」
リーシャは勝利を確信する。
「どうかな?」
しかし、男の顔に動揺は見られなかった。
「アークバルド」
突如響く女性の声。それに伴って現れた水の障壁がリーシャの剣を弾く。
「なっ!」
「マグナバレット」
続けて襲い来る炎弾を即座に身をかがめて避けながら、リーシャは驚愕していた。
「精霊憑き!?」
「ちげえよ。生憎精霊様とは程遠い存在でな。」
思わず叫んだ言葉を、男は即座に否定する。
「それならなぜ!?」
男の身につけている黒いグローブ。あれはディガウトで作られたものだろう。
しかし、ディガウトは常時魔法だ。それを発動しながら同時に魔法を使うことなどデュアルスペラー以外に有り得ない。
「お前にお喋りしている余裕なんてあるのかよ!」
先ほどの意趣返しとばかりに光の牢獄を壊して脱出した男は、流れるような身のこなしでリーシャに肉薄した。
「!」
その拳を振りかぶり、リーシャの胴体へと打ち出してくる。
「もらったぁ!」
ゴオと音を立ててその拳はリーシャの胴体へと命中し、そのまますり抜けた。
「あぁ!?」
「残念。」
後ろから聞こえた声に男が振り返った途端に、その体を無数の斬撃によって切り刻まれた。
「がっ。」
男は体中に突きを喰らって体中から血を流し、ついに体重を支えきれなくなって膝をついた。
「残光乙女」
残光乙女は残光斬の発展技であり、光の分身を作り出す。リーシャは分身を囮にして男の背後から強襲したのだ。
「はあ、はあ、はあ。」
「急所は全て外してある。それでも、もう立ち上がれないでしょうけど。」
男は歯を食いしばるがその息は荒く、そのままでもしんどそうだ。
「マスターって誰のこと?アル君が何をしたの?」
「・・・・・・・。」
「答えなさい。」
「・・・・・・それは。」
男の言葉はそこで途切れ、ぐらりと前のめりに倒れ込みそうになり、
「ちょ、ちょっと」
リーシャは慌ててその体を支えた。
その時、
「油断したな?」
「!?」
男はそのままの姿勢でリーシャにボディブローを放った。
「がふっ」
リーシャはよろめき後ずさる。
「まだだぜ。」
男は何事もなく立ち上がるとその顎へとすくい上げるように左アッパーを振るった。
「がッ」
その場でフラフラと顎を押さえて立っているリーシャの顔へ止めとばかりに右ストレート。
どうにか篭手で受け止めたが衝撃は殺せずにリーシャは吹き飛び地面を転がっていく。
「ハハッ、お前、甘すぎだぜ。」
そう言う男の体には、先ほどリーシャが斬りつけた筈の傷跡は見当たらなかった。
(なんで!?回復の魔法も聞こえなかったのに!!)
「おら!」
男は追撃をしようと突っ込んでくる。
「!」
動揺が抜けないまま、リーシャは苦し紛れに『迷い戸惑う者に力を』をなぎ払う。
しかし男は『迷い戸惑う者に力を』を避けず、逆にその手元を手の甲で払うことによってリーシャの姿勢を崩す。
「あっ!」
「もう一発だ。」
よろめいたその隙に、男はリーシャの腹へと拳を振るった。
「ぐう」
重い。
拳の打たれた場所を押さえて、リーシャはたたらを踏む。
(・・・だけど、この程度なら)
男の拳は確かに重く急所を狙って打ち込まれていたが、日頃から鍛えており、なおかつ英雄強化の効果で肉体を強化しているリーシャにとってはそれほどのダメージにもならない。
数十発も喰らえば話は別だが、少なくとも数発受けた程度で動きに支障は無さそうだった。
「よくもやったわ――」
しかし反撃しようとしたその瞬間、リーシャは体からごっそりと何か力が失われていることに気づく。
(な、何!?)
不思議な感覚に、脳が警鐘を鳴らしてくる。
(一度距離をとって・・・!!)
そう思い膝を曲げてバックステップしようと足に力を込める。
が、力が入らず上手く動けない。
「くっ。」
リーシャはよろめきながら残光斬で防壁を作り後ろに距離を取ろうとする。
しかしそれを見た男はあざ笑う。
「エアカッター」
「!!」
リーシャに不可視の刃が襲い来る。
次の投稿は明日です。感想お待ちしています。




