緊急事態
ルネに見送られ、僕たちは街の中を歩いていた。
空があかね色に染まっている。そろそろ夕飯時だ。
「晩御飯は何食べようか。」
「・・・オムライス」
「いいね。」
適当なお店を探していると、僕たちの前から数人の冒険者が駆けてきた。
なんだろう?随分と急いでいるようだ。
「・・・救援要請・・・。」
「・・・噂の・・・・。」
「リーシャが・・・・。」
!!
隣を駆け抜けていった冒険者の言葉の中に、リーシャの名が含まれていた。
嫌な予感がする・・・・。
「ティア!ギルドに戻ろう!」
「分かった。」
僕たちは来た道を振り返って叫ぶ。
「ディガウト!」「アムド!」
アルクの体から出た白い光に両手足が包まれ銀の鎧が現れると同時、ティアの体は光の粒子となってアルクへと吸い込まれその体から淡く光る翼が生える。
二人は、ギルドへと向かって茜色の空へと飛び出した。
ルネは自分の机で机に座り、本を読んで・・・いる姿勢で寝ていた。
「・・・・!!!」
「ん?」
外が騒がしい。
(何事だ。)
外から響いてくる騒音で目を覚ましたルネはギルドの外へ出てみた。
「あ、副ギルド長!」
「何事かね。」
「それが、依頼を受けて魔物を狩りにいった冒険者数名がまだギルドに帰ってこないのです。」
「場所はわかるのか。」
「先ほどリーシャから救援要請があり、それが先に行った冒険者達との進路に重なります。おそらくそこに」
「よし!ならば転移魔法ですぐに救援に――」
転移魔法。特殊な術式の刻まれた魔法装置を用いることで、空間と空間をつなげて物質を転送する装置がギルドの本部には設置されていた。まだ試験段階で非常に高価なために1台だけしかなく、その効果もただ指定した地点に送るだけの一方的なものだが緊急時や遠方の依頼に重宝されていた。
ルネはそれを使ってすぐに救援を送ろうとしたが、係の者の表情が優れない。
「そ、その事なんですが。原因は不明ですが、作動はしても現地にゲートが開けないのです。」
その言葉に若干の引っかかりを感じる。作動している時点で装置の故障は有り得ない。問題は現地にあると思われた。おそらく指定した地点の周辺魔力が足りずにゲートを構成できないのだろう。しかし、今は昔とは違い戦争もしていない。魔力の枯渇など一体どれほどの大魔法を使ったというのか。少なくとも、確認した地点からはそんな魔法の発動など感じなかった。
「・・・どういうことだ?それなら、とにかくリーシャに連絡を。」
原因解明は後回しにして、とにかくリーシャに状況を確認したい。そう思ったのだが、
「先程の救援要請から、リーシャと連絡が取れなくなっています。」
連絡係の言葉は、つれないものだった。
(・・・一体何が起きている?噂の犯人を見つけたリーシャが救援要請を飛ばしたのは間違いない。連絡が取れないのは今戦闘中で手が離せないのだろう。しかし、
そこはここから徒歩で1日。飛行魔法で最短距離を行っても半日かかる。
転移魔法装置が使えないのでは、今から向かっても救援が間に合うかどうか。)
どうにも出来ない歯がゆさに、ルネの顔が歪む。
(・・・厳しい状況だ。)
「あれはなんだ!?」
ルネが思考に没頭していると、突如報告に来た部下が騒ぎ出した。
「一体何事だ」
部下の指さす方角を見ると、何かが物凄い速さで向かってきていた。
「あれは・・・人?」
「ルネさん!!!」
「アルク君!?」
あっという間に目の前に着地したアルクは、その背中に美しい翼を生やしたまま叫ぶ。
「僕達に行かせてください!」
(やっとギルドに到着した。)
実際には3分とかかっていないのだが、アルクには途方もない時間に感じた。
ギルドの前には人たかりができていて、目を凝らすとその中にはルネさんも含まれているのが確認できた。
(やっぱり何かが起こってるんだ。)
「ルネさん!!」
僕はそう叫ぶと、彼の目の前に着地した。
「僕達に行かせてください!」
「・・・達?」
ルネさんは訝しげにそう疑問の声を上げた。無理もない。
「ティア。一度解除してくれ。」
「分かった。リムド」
そう答えるとティアは武装化を解除し人の姿に戻る。
「!!ティア。君は・・・。」
目の前に姿を変えて現れたティアにルネさんと周りの人は驚愕していた。
「ティアのことは後で僕が説明します。それより、リーシャが危ないのでしょう?転移魔法装置が使えないと聞きました。でも、僕たちなら間に合います。」
先ほどの人達の言葉と目の前の状況が一致した。つまりはそういうことだ。
「・・・確かに、今の速さなら間に合うかもしれない。よし、こちらからもお願いしよう。私もついて行く。」
「あなたが?」
「ああ。」
そう言うと、ルネは呪文を唱えだした。
「ミニマム」
瞬時に体が掌サイズに小さくなる。
「フロート、エアバルド」
風の障壁がその体を包み込み、宙に浮き出した。
「これなら邪魔にならないだろう。君の懐に入れてもらえるかい?」
「分かりました。」
僕は言葉に従ってルネさんを懐に入れた。確かに軽い。何の問題もなさそうだ。
「リーシャはどこですか?」
「ああ、彼女はここから南。カノネの森へ向かった。」
「分かりました。ティア、全力で行くよ。支援お願い。」
「任せて。アムド。」
「間に合え!」
僕らはカノネの森に向けて王都を飛び出した。
次の投稿は明日です。感想お待ちしています。




