噂
僕らがルネさんの部屋に招かれていた同時刻、王都の外にて
冒険者である4人は目的地を目指して森の中を進んでいた。
その時、木の陰からフラっと姿を表した男に、隊列をなして歩いていた4人は警戒の体制を取る。
その男は深い帽子を被り、顔には仮面をして両目の位置に空いた穴から青色の瞳が覗いている。
「何者だ」
隊長がそう答えるも、その男はただ薄く笑っただけで、特に反応を示さない。
「ディガウト」
不意に、その男はくぐもった声で呪文を唱えた。
途端にその体から黒い光が溢れ出て、その両手にまるで蠢くように凝縮していく。
その光はやがて形をなし、闇を纏ったように真っ黒いグローブとなってその手に覆いかぶさる。
「・・・この時代に、英雄の魔法?」
冒険者たちは、戦闘態勢に入りながらも訝しげな表情を作る。
それに構わず、男はゆっくりと歩き出す。
「さあ、」
男の口元が歪み赤い舌が覗く。
「狩りの時間だ。」
僕らは紅茶を啜りながらソファへと座っていた。僕の左にティアが、向かいにルネさんが座っている。
紅茶はレモンティーだった。爽やかな香りに胸がすっとする。
ティアはカップに浮いたレモンを摘むと、不思議そうに見つめていた。
「あ」と僕は気づいて止めようとしたが彼女はそれを一息に口に放り込む。
額を抑える僕の横でティアは目をパチクリさせて身悶えていた。
「しかし、あの子から話は聞いていましたが、もう来るとは・・・。まだまだ先のことだと思っていましたが。君はまだ15歳なのでしょう?」
ティアにため息をついていた僕に、そう切り出したルネさんの顔は若干驚いていた。
「はい。」
「その年でディガウトを使うとは・・・。いくら特異体質で他に魔法が使えないからといっても、やはり凄い。」
ルネさんの言葉に僕は驚いた。
「なんでそんなに僕のことを知っているんですか?」
そう尋ねた僕にルネさんは微笑んで答えた。
「リーシャは1年前の依頼から帰って以来、いつも君のことを話していますよ。自分を英雄と呼んでくれた男の子がいると。まだ14歳だったのに、ディガウトを使えるんだと。自分を追って、この街に来るんだと。彼も英雄を目指しているんだと・・・・。とても嬉しそうにね。」
「リーシャとは親しいんですか?」
ルネの口ぶりに、僕は自然と尋ねていた。
「ああ。私は彼女の祖父の親友でして。彼女のことは子供の頃から知っています。私としては、孫娘を見ている気分ですよ。」
「道理で。」
そう応えた僕に、ルネさんは意地悪そうな顔をして言葉を付け加えた。
「安心しましたか?」
からかうようにそう笑いかけてきたルネさんに、僕は若干言葉に詰まってしまう。
「そ、それでリーシャは今どこに居ますか?せっかくだし、会いに行こうと思うので。」
少し慌ててリーシャの行方を尋ねると、ルネさんは少し真面目な顔をした。
「リーシャなら、今は席を外しています。」
ルネさんは一旦視線を切って紅茶を啜り、話を続けた。
「君は、噂を聞いてますか?」
「・・・噂?」
「噂ってなんですか?」
「ああ、それはね・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
よく見ると、ルネはその姿勢のままで寝ていた。耳を澄ますと、静かな寝息が聞こえる。
「起きろ!」
ゲシッ。
どこからともなく現れた掌サイズの少女が、ルネの頬にドロップキックをかました。
「・・・おっと。申し訳ない。寝不足なもので。」
「あなたはいつも寝不足じゃない。」
「手厳しいね、レイス。」
「本当の事を言ったまでよ。」
「その子は?」
「ああ、紹介していませんでしたね。樹木妖精のレイスです。」
唐突に現れたその精霊は薄緑色の髪をして、その黒い目はクリクリとしている。白い衣を身にまとい、小さな見た目の割に大人っぽい。
「よろしく。」
ペコリと頭を下げて互いに挨拶をする。
「あの、それで・・・噂っていうのは?」
「ああ、今、王都で冒険者狩りの噂が広がっているんです。何でも凄い強者でどんな冒険者でも瞬く間に無力化されてしまうのだとか。」
「冒険者狩り・・・。」
「それを聞いたあの子は「こんな時こそ、英雄リーシャちゃんの出番ね。」と言って飛び出して行ってしまいました。」
「リーシャらしい。」
リーシャは全く変わっていなかった。
「ところで当然君は冒険者になりに来たのですよね?」
「はい、そうです。」
今までの様子から一転して、ルネは急に真面目な顔になる。
僕も慌てて居住まいを正した。
「よろしい。冒険者になるには、他の冒険者からの推薦状と、登録料百万コニーが必要となる。当然、用意してあるね?」
「・・・・え!?」
(登録料!?この1年の間に新しい制度が出来たのか!?そんなお金持ってるわけが。)
そう思い目を白黒させていたアルクだったが、ルネはそんな彼を見ると小さく吹き出した。
「嘘ですよ。」
「・・・・は?」
アルクは口を開けたまま固まってしまう。
ルネはアルクの顔をみてニコニコと楽しそうだ。
「またそうやって人をからかって。あなたの悪い癖よ。」
「分かっているけどね。ついつい意地悪したくなってしまって。」
「まったく。」
どうやら彼の冗談らしい。心臓に悪すぎる。
「紹介状だけあれば十分です。手続きをしておきますから、また明日いらしてください。」
そう言ってルネは立ち上がり、僕たちを見送った。
次の投稿は明日です。感想お待ちしています。




