望月輝夜は考える
家に帰っても、モヤモヤとした心は一向に晴れる気配がない。私はスマートフォンを手に、あることを検索した。
「竹取物語 かぐや姫 いつ帰る」
検索画面に映った言葉を心の中で読み上げた。
旧暦八月十五日、満月の夜。……旧暦? もっとわかりやすい言葉使ってや。
私はもう一度、検索する。
「旧暦八月十五日 いつ?」
そう検索すると、「十五夜」や「中秋の名月」というキーワードが目に映った。老人の言葉とスマートフォンの検索画面の言葉の重なりに、背筋を嫌な汗が伝う。
画面をスクロールさせると、今年の十五夜は明後日の日付を差していた。いくらなんでも偶然とは言い難い。だからといって、信じたくない。
でも、想った。
私が地球から消えたとして、悲しむ人はいる?
いや、きっと悲しんでくれる人はたくさんいる。だけど、きっとすぐ、忘れられるだろう。何事もなかったかのように。
なら、別にいいのかも。
そこまで考えたところで、私は台所に立った。夕飯を作るのだ。
冷蔵庫を開けて中身を見た。ガランとしていて、調味料がやけに目立つ冷蔵庫の中。
カップラーメンも、「作る」やんな。
私はポットに水を入れてお湯を沸かす。
カップラーメンを取り出して、準備したついでに紅茶の茶葉をコップに入れた。私はミルクティーが大好きだ。なんだか心が落ち着くから。
お湯を沸かしている時間、私は小説を読む。本は、大好きだ。誰にも邪魔されないから。私の感性を、否定されないから。
自分の本棚に段々と増えてくる本の数が、わずかに私の頬を緩ませたのが、自分でもわかった。
「ピーッ!」
ポットのお湯が沸いた合図がした。読書の時間を邪魔されて、自分で沸かしたのに理不尽にイラッとした。こんな自分が、やっぱり大嫌いだ。
お湯をカップラーメンとコップに注いでタイマーをセットする。そしてまた、一人の静かな時間が過ぎていく。こんな時間が、大好きだ。
もしも、ほんまにもしも、私がこの地球を去るとしたら……私は誰にお別れをすれば良いんやろ。
友達? 友達と呼べるものなのか? 先生? 「子供」の気持ちを理解する事のできない大人に? 家族? ……迷惑ばかりかけてきたのに?
厨二病やん。そんなんありえへんのに。
自分を自分で嘲笑した。「ありえない」自分自身に何度も何度も言い聞かせる。
「ピピピッ!」
自分で設定したタイマーの音に驚いて、一気に現実の世界へ引き戻された。結局、小説はちっとも進まなかった。
私は台所へ戻り、わざと水を少なめにしておいたカップラーメンの中に、チーズや胡椒、明太子を入れて、もう一度蓋を閉じた。
チーズが溶け始めたのを確認して、フォークでかき混ぜる。本当はポテトチップスがあったら最高なのだが、母さんはあまり買ってくれない。
温かそうな湯気を出す紅茶に砂糖をたっぷり入れた。スプーンを使ってゆっくり溶かすと、紅茶の芳醇な香りが私の鼻を掠める。そこに牛乳を多過ぎず少な過ぎず入れると、赤褐色だった色が優しく暖かみのある淡い茶色に変わった。
なんとも微妙な組み合わせだが、わざわざ食後に時間を合わせるなど私には言語道断。私は極度の面倒くさがりなのだ。
砂糖たっぷりのミルクティーと、
カップラーメンのアレンジ。不健康の塊。
体に悪い。とてつもなく、悪い。
でも、いいよねぇ。
次回は「望月輝夜は地球にさよならを言う」です。お楽しみに!




