望月輝夜は怒られる
「まさか、あのようなことをして……覚えていないと言うのですか?」
「いや、私は何もしてないし」
「貴方は本当に噂通りの姫だったのですね」
目の前の老人は、今にも血管が浮き出しそうになる程、だが静かに、怒っていた。
私が一体何をしたと言うのだろうか。いやそれ以前に、私は姫じゃない。夢か妄想か、ついに頭がおかしくなったのか。
そんなに顔を真っ赤にして怒ったら、血管千切れちゃうくない? ちょっと心配になるわ。
「しかし規則は規則。貴方を連れ戻しましょう」
「あの、さっきから何の話をしてるんですか? 私は確かに輝夜ですけど、貴方の知ってるかぐやとは違うんじゃないですか?」
私はやっと、こんな怪しい人の話を聞いていては駄目だとまともな判断をした。そして、教えてあげる。私は貴方の知ってるかぐやじゃないよ、と。
だが、なぜか老人はあからさまにため息をついた。
「貴方はかぐや姫。記憶を消されただけです。母星へ戻れば、きっとわたくしの言葉の意味を理解していただけるでしょう。……しかし自分の犯した罪まで覚えてはいないなど……」
「記憶? いや、そんなことできるわけ……」
「そう、仰ると思いました。ですから、お迎えは明後日の晩、子の刻に。中秋の名月の日に、お迎えに参ります」
目の前の老人は淡々とした口調で言う。私は何がなんだか分からず、ただ老人の言葉を聞くことしかできない。
「十五夜までに大切な者とお別れをなさってくださいませ、かぐや姫」
そう言い残すと、目の前の老人は、消えた。本当にただ、消えたのだ。
お迎え? 十五夜? 子の刻? ……お別れ?
老人が口にした言葉が、頭の中を反復する。グルグルグルと廻って、私の心を掻き混ぜる。
「ありえない」その言葉を自分自身に言い聞かせる。だが、意味深な言葉を残して消えた老人の冷たい瞳を思い出すと、なぜか無性に、様々な言葉が本当の事のように思えてくる。
「気持ち悪い。なんなの、一体」
誰が聞いているかもわからないのに、私は自分の腕を抱きしめながら、ぽつりと呟いた。
「父さん……怖いよ」
そう呟いた時、私はふと、思い出した。
死んだ父さんの名前、望月翁介だ。「翁」、私はその言葉に思わず身震いした。
まさか、偶然、やんな……。
私は自分にそう言い聞かせて立ち上がった。いつも通る帰り道。変わり映えのない、登下校。
でも、なにか、世界が違ったように見えてくるのは気のせいだろうか。
そう、例えば、パズルの最後のピースがはまったような。一つの歯車が組み合わさって、動き出したような。……そんな、感覚だった。
私はどこか重い、鉛のような足を必死に動かす。怖くて、怖くて仕方がない。
今、すごくお腹が痛い。(どうでもいい報告)
あ、今日の夜ご飯にきゅうりの漬物を食べました♡
こういう時、私はすごく幸せを感じます。
誤字脱字確認の後にこれ読むと
物語との雰囲気の違いにびっくりしますね。
次回は「望月輝夜は考える」です。お楽しみに!




