望月輝夜
「ピピピピピッ」
「うるざいっ!」
目が覚めたばかりの枯れた声で朝から叫ぶ。私、望月輝夜は信じられないくらいに朝が弱い。怖いくらいに性格が変わる。
しばらく布団の上でゴロゴロしていると、やっと本当の意味で目が覚めた。パッと起き上がり、さっき止めたばかりのアラームをガシッと掴んで時間を見た。
「……ギリ、セーフ」
私はトイレへ行った後、洗面台の前に立った。わざとヘアバンドをつけずに顔を洗い、前髪をドライヤーで乾かす。真っ直ぐになるのだ。そして、少しはねた黒いストレートの長い髪を櫛で丁寧に梳いた。
「輝夜、起きたん?」
「んー」
私は口に歯ブラシを咥えたまま、返事をする。母は兵庫の神戸出身だ。関西弁とは少しだけ違う神戸弁の訛り。私も家ではそうだ。
私は一度部屋に戻って制服に着替える。スカートは大嫌いだ。女の子らしいから。でも、みんながそうだから、私もそうする。
「母さん、食パンどこ?」
「今日はご飯。炊飯器に入っとる」
朝食は基本的に自分で作る。作るといってもパンかご飯をアレンジするくらいだが。私は冷凍庫の中から勝手に凍った豚肉を取り出した。
「二枚だけ使っても良い?」
「えぇ、納豆でいいやろ」
「嫌いって言ったやん? パッケージが」
「いっつもなんやねん、それ。食わず嫌いよりもめんどいな」
本当に面倒くさそうな顔で化粧をしながら許可をくれた。私はパックのラップを無造作に破って二枚と一枚に満たされない小さな豚肉をつまむ。嘘は言ってない。
「味は……醤油と味醂の気分」
油を引いて温まったフライパンに豚肉を乗せれば、ジュワァッと肉の香りと共に耳に心地いい音が湧き上がる。十分に焼いて、味付けをしてからお皿に盛ったご飯の上に乗せた。
「いただきます」
コップにたくさん差し入れられた箸を一膳手に取って、胸の前で手を合わせた。ハフハフと湯気を出すご飯を一口食べる。栄養には一切気を使っていない。面倒だから。
「輝夜、二枚って言ったやん」
「いや、これは一枚にカウントされんって」
「はあ……そうや、今日はちょっと遅くなるんやけど。ご飯作れる?」
私は口に豚肉とご飯を入れたまま、コクリと頷いた。我ながら美味しい。料理も裁縫も、何なら運動も勉強も。大抵なんでもできる。でも私はそれを誇らしいとは思えない。
「んじゃあ、母さんもう行くけど。学校さぼんなよ。……行ってきます」
「わかっとるわ。行ってらっしゃい」
玄関の扉が開く音がしてから、閉まる音が聞こえる。開けば閉まるのは当たり前だが、私はこの音が大嫌いだ。また、朝まで会えなくなるから。
私は食べ終えたお皿と箸を流しに置いて、昨日使った水筒と一緒に洗剤で洗う。朝に洗ったばかりの水筒を使うのが大嫌いだ。洗剤の匂いが染み付いているから。
「ごちそうさまでした」
挨拶は、大好きだ。人と人の気持ちを通わせてくれる、魔法の言葉。神様も魔法使いもヒーローも、物語の中に存在する人物はいない。でも、言霊は存在すると思うのだ。
私は立ち上がってまた洗面台の前に立った。ストレートアイロンを温める間に、私は髪ゴムを使って高い位置で髪を結ぶ。ボコボコした表面が気になって、結局二回もくくり直した。
そんなことをしている間に、ストレートアイロンのランプが赤から緑に変わっている。私は瞼のちょうど真ん中あたりで切り揃えられた前髪を軽く巻く。
癖毛はストレートを羨ましがるけれど、ボリュームがないのも嫌だろう。触覚も整えて、乾燥防止の色がついていないリップを唇に塗った。校則はしっかりと守る。
「今日も可愛いよ、私」
鏡に映る自分を見据えてニコリと笑う。毎日の朝の習慣だ。本当は別に可愛くはないが、これで一日の始まりのモチベーションをアップさせるのだ。
「行ってきます、父さん」
仏壇の前で手を合わせて、靴を履くと私は扉を開けた。もう夏も終わる。秋の訪れを感じさせる風が頬を掠めた。ガチャリと音がして、ガチャリと閉まる音がする。やっぱり、大嫌いだ。
今日も、大嫌いになるであろう一日が始まった。
学生の割とリアルな朝を伝えられた気がしますね。
あ、性格は人それぞれだと思いますが。
プロローグではわからない彼女の性格も伝わったでしょうか。
次回は「望月輝夜の偽物」です。お楽しみ!




