プランAを選んだら③
私は今、前世からは想像出来ないような科学が進歩した世界の日本という平和で豊かな国で生きている。
管理者が約束してくれたように、誰もが褒め称える美貌に、努力しなくても優秀な頭脳、私を心から慈しんでくれる両親に仲の良い兄妹。
みんなが羨むくらい素敵なのに私だけを愛してくれる優しい夫。
望んでいたものは全て手に入れたけれど…
〜・〜・〜・〜・〜
「葵、大丈夫か?こんなに熱が出てしんどくないか?
代われるものなら僕がかわってあげるのに…」
そう言って私の手をきつく掴んで離さない夫の直樹。
(『代われるものならかわってあげるのに…』って、出来もしないこと何度も言わないでよ〜!!
手だって、そんなにキツく握られたら痛いじゃない!!
ただでさえ熱があるから暑いのに、余計に暑苦しい…)
「どうしたんだ!?そんな辛そうな顔をして…何も応えてくれないし…。
もしかして、話せないくらいしんどいのか?
回復するためには、しっかり食事摂らないと…そうだ、僕が元気が出る鰻丼を買ってくるよ!!」
(しんどくて口も開きたくないだけです〜。
気分の悪い時にウナギなんて味濃いもの食べられるわけないでしょ!!)
妹のマグノリアも、きっとこんなふうに話すのも辛かったかっただろうに…
彼女はいつも天使のような微笑みを讃えて、どんな些細な話にも返してくれていた。
こんな不満ばかり思っている自分が少し恥ずかしくなった…。
心のなかで悪態をついていても、小さな頃から夫のことをずっと好きという気持ちに変わりはない。ただ…
〜・〜・〜・〜・〜
夫とは幼馴染で、都心でも有名な高級住宅街で育った私達は親同士が知り合いだったこともあり、仲良くなった。
生まれた時から病気を患っていた私は、起き上がれることが珍しく、大半をベッドの上で過ごしていたため、彼はよく遊びに来てくれた。
ベッドから出られない私の世界のほとんどは彼が教えてくれたもので構成されていた。
好奇心旺盛に動き回る彼は、私に様々な刺激を与えてくれる。
彼が旅行で行った海の話。アミューズメントパークの話。海外の話。飼っているペットの話。新しく友達になったクラスメイトの話…。
前世では普通に健康だったので、行動に制限などなかったけれど…
そもそも飛行機も車もない、便利な機械も娯楽施設も物も溢れていなかった世界ではそんなに興味を惹かれるものもなかった。
でもこの世界は違う。
様々な面白いもの興味を惹かれるものがいっぱいあるのに…
私は病気で出掛けることが出来ない…。
映像で見たことはあっても、実際に海を見に行ったこともない。
前世では移動できる範囲が限られていたから、海を見ることが出来るのは海の近くで育つ者だけで、たいていの者は聞いた話でしか知らない。それが当たり前だった。
でもこの世界では違う。なのに私は行けない。どこにも行けない…。
直樹の家では沢山の動物を飼っていて、よく家で飼っている犬や猫の話もしてくれた。
珍しいものではハリネズミやフェレットも飼っていた。
でも私はペットも飼えない。
ひどいアレルギーがあり、何が原因となって止まらない喘息を起こすか分からないからだ。
前世では、ペットという考え方はなかったから、屋敷の中にネズミ捕り用の猫や狩猟用の犬はいたけれど…可愛がるという考えはなかった。
大好きな直樹と結婚しても、身体が弱いから子供を持つことは出来なかった。
直樹の家は大きな会社を経営しているので、本来なら長男の彼が後を継いでいたのだろうが…それは直樹の弟が継いでくれた。
直樹は会社よりも私の方が大切だと言ってくれたし、直樹の家族もそれで良いと言ってくれた。
こんな至らない嫁なのに…私のことも本当に大切に思ってくれる優しい人達なのだ…。
それが例え管理者との約束に基づく条件通りなのだとしても、良心が痛んだ。
自分でも本当に今の自分が恵まれているのは分かっている。
でも…私がこんな選択を選ばなければ、直樹は今頃可愛い子供達や大好きなペットに囲まれて暮らし、その優秀な才能を活かして会社を盛りたて、目まぐるしく変わる世界を飛び回れたのではないか…と思ってしまう。
前世であんな最後を迎えた私にとってプランBを選ぶことはあり得なかったけれど…
もっと自分以外の周りの人達のことも考えて、管理者に確認しておけば良かった。
神様、次に生まれ変わる時は取り立てて美人でなくても、優秀でなくても構いません。
ちゃんと持てる力を最大限に利用できるよう自分で努力します。
だから…大好きな人達と一緒に、自分に見合った幸せを掴みとれる世界をお願いします。
お読みいただきありがとうございます。
ロザリアのお話はここで終わり、次はマグノリアのお話です。




