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ダイヤモンドスター  作者: オカピ
沖縄合宿編
95/96

日高太陽と言う投手

3回の裏に逆転を許したU15は、ピッチャーの冬木が交代し、2番手の桜田さくらだがマウンドへ駆け寄る。

冬木がベンチへ戻る際、内野陣がマウンドへ集まる。

ボールを強く握りしめながら、冬木が膝に手をついていた。

誰も中々声をかけられずにいた中、冬木が口を開く


「みんな。すまない。自分で投げたいと言っていたのに、結果がこのザマだ。」

「なーにを言っているのだ!あの一輝と真っ向勝負をしただけで賞賛に値するよ!

だがやはり一輝は凄いな!うんうん。」


目を輝かせながらそう話す荒浪に全員が微妙な顔をする。

思い切りツッコんでやりたいが、冬木が落ち込んでいる手前、出来なかった。

一人で演説のような事を始めた荒浪を尻目に全員が声を掛け出す。


「まぁ...なんだ。荒浪の言っている事も一理あるだろ。そんなに気を落とすなよ...」

「そうそう。あくまで練習試合だからな?」


皆のその言葉に、「はいそうですね」とはならない。

何度も挫折を繰り返し到達した投球。それを打ち砕かれたのだから。


「そんなんじゃ世界一になんてなれる訳ねーだろ」


気が付けば外野陣が内野まで来ていた。

一番最初に声を発したのは、瀬田ボーイズの喜田だった。


「そうだよ♪それにまだ終わってないしね♪

僕たちの試合はこの後でしょっ!」

「秋山...」

「第一、まだ序盤にゃっ。それに、楓は降板じゃなくて守備交代なんだから自分のバットで取り返せばいいだけにゃ〜」

「春野...」


喜田の言葉に、同じシニア組の秋山と春野が声をかける。

その言葉に徐々に勇気付けられていく冬木。

そして、マスクを取りながら夏目が口を開く


「そもそも、俺達は勘違いをしていたんだ。

リーグが違うからと言って敵対し、仇のように振舞っていた。だがあいつらは違った。

純粋に野球を楽しんでいたんだ。子供みたいに。俺達だって野球が楽しくてここまでやってきたんだ。それをアイツらにも見せてやろうぜ。楓。」


代表チームが結成されてから一度も笑っていなかった夏目が微笑みながら冬木にそう言う。

冬木は夏目の目を見た後、周りを見渡す。

そこには夏目同様、笑顔のチームメイト達がいた。

重かった肩が、スッと解放されたように冬木が笑う。


「さぁ、ここからだ。気合い入れるぞ!」

「「しゃぁぁ!!」」


夏目の掛け声に8人全員が返事をした。


....



冬木の交代と同時に、数名メンバーを入れ替えた

U15チーム。

3回はその後の那須野、藤にヒットを許すも3点で抑え、4回の表へ。

3点差となったボーイズ代表チームは、その点差を守るべく、ピッチャー天野に代わり、長房泰斗がマウンドへ上がる。

身長192cm、体重も今年の始まりに増やし身体が出来上がった状態の長房がその剛腕を振るった。


1番の喜田が早速ヒットで出塁し盗塁を決める。

その後も続き、1アウト1.3塁のチャンスで

4番キャッチャーの夏目が打席に入る。

1打席目と違い、もう一輝には悪態を付いていない。ただただ真っ直ぐ、マウンドの長房を見ていた。

長房もピンチとなりギアが上がる。

しかし夏目に上手く犠牲フライを打たれ2点差。

後続をしっかり抑え、4回、5回を投げきった。


ボーイズチームも長房を援護しようと打線が火を吹く。

ここまで全打席出塁の鷹宮がセーフティバントで出塁。2番の一輝が手堅く送り2アウト2塁。

3番の那須野がピッチャー強襲のライナーを打つも

ショート春野の飛びつくキャッチでアウト。

チェンジとなった際、智幸が審判に選手交代を告げる。


「なんだ?長房下げるのか?」

「あんなに調子の良い投手を下げるとは、ボーイズチームも余裕だな」

「いやいや、そんだけ層が厚いんだろ」


観客の考察を背に、1人の選手がマウンドへ上がる。

決して身長が小さくないが、先程の長房と比べると子供のような身長の選手だ。

グローブを右手にはめ、少し歩き方がぎこちない。緊張しているのだろうか。

投球練習の内容を見ても、そこら辺にいる普通のピッチャーだ。違うのはかなり緊張している

面持ちの顔くらいだろう。



〜U15ベンチ〜


「え、長房代わるん」

「早いなぁ。もっと引っ張る思っとったわ」

「監督〜。アイツ誰です?」


その投手を見ながら、円陣を組んでいる選手たちが監督の北条に尋ねる。


「あー...あの子は...」

「なんです?監督も知らないんですか」

「いや、知ってる知ってる。

知ってるけどちょっと待て。」


そういいながらタブレットをすいすい動かす

北条。選手達は冷ややかな視線を送る


「あー!日高くんだよ!日高太陽くん!

秋川ボーイズの!あん?でも登録はキャッチャーだな。」

「知らないんやないすか。なんで1回知ったかぶったんすか」

「いやいや、知ってたよ?少し忘れてただけで」


汗を滲ませながらそう話す北条。

夏目は喜田と荒浪に質問をする


「秋川ってことは西東京市部だろ。お前ら何か

知らないのか?」

「「全然知らん」」


2人が声を合わせそう言う。

何も分からないまま、U15代表チームの7番辻が打席へ向かう。


「よーしっ!6回!しまっていくぞー!」

「「しゃぁ!」」


一輝の声に皆が返事をする。

しかしどこか変だ。先程よりも深く守っている。

一輝は何も指示を出していない。

そこで夏目はおおよその予想を立てた。


(この投手、野手に信頼されていない?

いや、喜田と荒浪の口ぶり的に無名の選手か。)


投球練習を見ていても、特段早いボールでもなく

変化球を投げている様子も無い。

ここで登板させる意図を、U15メンバーも、観客も、そして同じチームの選手たちも分からなかった。


「プレイ!!」


主審の掛け声で試合が再開する。

一輝は特にサインも出さず構える


....



ー一輝視点ー


それは5回の裏、俺たちボーイズ代表チームが攻撃をしている時だった。打順は7番の毛利だ。

相手投手の球筋をよく見ながら毛利が間を作っていく。

一応俺は防具の上だけ外しておく。もしかしたら回ってくるかも知れないからな。このチームは

1番〜9番までかなり出塁率が高い。いつ回るか分からない。


俺がそんなことを考えていると、智幸さんが近づいて来る。

なにか話があるような面持ちだ。


「予定通り次の回から太陽投げさせるから、

ちゃんとコミニュケーション取っとけよ。」

「あ、はい。太陽今ブルペンですか?」

「あぁ。北島に取って貰ってる。なんなら見てきても良いぞ。」

「わかりました。」


言われるがままベンチ裏のブルペンへ足を運ぶ。

歩く度にパンッ!パンッ!っと乾いた音が通路を木霊する。

いい音だ。でもなにかおかしい。


ガチャリとブルペンの部屋のドアを開けると、

北島が疲れた様子で座っていた。

正面にいる太陽は少し申し訳なさそうな顔で汗を拭っていた。


「北島〜。ブルペンありがとなー」

「おぉ。星か。取っておくか?」

「んー....外から見てみたいからもう少し取ってくれない?」

「あぁ...そうか。」


そんな会話をしていると、太陽が俺に手を振ってくる。状態が悪いわけではないんだろう。

悪くはないんだろうが、その投球を見てさっきの違和感が確信に変わった。

数日前、太陽が初めて投げた時だ。

あの時は凄かった。150キロ近いボールなんて取ったことが無かったから、俺も驚いた。

でも、今の太陽は違う。

ストライクゾーンに収めようと置きに行ってる投球だ。しかもそれさえストライクゾーンに入らずベース手前でバウンドしている。


「今の変化球?」と、北島に尋ねるが、北島は首を横に振る。

俺は顎に手を当て考える。

智幸さんの話によると、太陽はずっとキャッチャーだったようだ。あんな凄い球を投げるのになぜピッチャーをやらなかったのかと聞くと、単純な話、取れる相手がいなかったからだそうだ。

北島曰く、最初の方は腕を思い切り振っても

ストライクゾーンに入っていたらしい。

だが徐々にストライクから外れて行って、そのまま今の置きに行く投球になったらしい。


「これも一種のイップスなんやろか」

北島がそう呟く。

イップス。技術的な話ではなく、精神的な話だ。俺にも経験がある。あれは親父が死んですぐの事だった。

グローブをはめれない時期があった。

あんなに好きだった野球に心が向かなかったんだ。

グローブをはめたら、何かが起こるとか、そういう事を考えていた訳じゃない。何故か手に取ることもできなかった。


俺はブルペンの蛍光灯を見ながら考える。

すると北島が「あと一球や!もう次出番やし」

と、俺と太陽に言う。

最後は思い切り放れとジェスチャーしたが、最後まで球は来ていなかった。

終わった瞬間、俺は太陽に駆け寄った。


「太陽、投げんの怖いか?」

「一輝...いや、怖くないよ。なんで??」


無自覚だった。無自覚に力を緩めているんだ。

いや、多分考えてはいたんだろうけどね。

どうすればストライクになるのか、とか。

それか...


なんにせよ、試合直前にこれはかなり厄介だ。

俺はフーっと長い溜め息のような息を吐き、一言だけ太陽に言った。


「ヨシ!太陽。今日の登板、思いっきり炎上して良いからな!」

「おう!え?なんて??」


戸惑いながら太陽が返事をした。



....



「ボールフォア!」


太陽が登板した6回、出だしは最悪だった。

2連続フォアボールでランナー1.2塁、下位打線に連続フォアボールだ。普通の投手なら交代されていてもおかしくはない。でも智幸さんはしない。

俺は感じていた。これは太陽へのテストと同時に、俺へのテストでもある。と。


太陽は難しい顔をしながら俺のミットを見る。

変化球は投げれないと事前にわかっていたので、

投げそうな、それっぽい動きはしてくれと頼んでいたからだ。


パンッ! 「ボールフォア!」


3人目の打者をフォアボールで出塁させた辺りで、四方八方から落胆の声が聞こえた。

「試合を壊した」とか、「勢いを殺すな」など、中学生に浴びせられるとは思えない怒りのようなものさえ混じっていた。

そんな目を向けていたのは、観客だけじゃない。

チームメイト数名もそんな顔をしていた。

しかし、監督の智幸さんだけは違かった。

何故か少し頬が緩んでおり、笑っているようにも捉えられた。


ここで1度、俺はタイムを取り、内野手を集めた。

0アウト満塁、点差は2点差。ワンヒットで同点なんてことも有り得る。打者は1番の喜田からだし。

内野は前進守備で〜...とか話していると、業を煮やしたような雰囲気の鷹宮が声を出す


「何やっとんねん日高お前。マウンド上がったんやからモジモジしとらんでしっかり投げろや」

「...」

「落ち着けや蓮。やっちまったもんはしゃーないやろ。ここをどう凌ぐか考えるべきや」

「んならピッチャー交代せぇや。新垣がおるやろ。あいつに投げさせろや」


今にも取っ組み合いそうになる2人を仲裁する白鳥。剣心はオドオドとどうすればいいかという顔をしていた。

堪らず俺は口を開く


「まぁ...太陽は初登板だし、しょうがない部分もある。だからバックのみんなには悪いけどサポートしてやってくんね?」

「お前までなに言い出すねん。監督の考えはよー分からんけどな、やる気ないんやったら俺はこのユニフォーム脱いだってええんや。お遊びでやる気なら意味ないわ。」

「うっ...」


ド正論パンチをかまされて俺は少し後ずさりする。

確かに、今の太陽をマウンドに上げた意味は俺にも分からない。でも俺は知っている。

こいつは凄いんだ。これから勝つことを考えれば、太陽には投げてもらわないと、ダメだ。


何も解決しないまま試合は続き、喜田が打席に入る。真剣な顔だ。ここで逆転をして試合を決めるという顔をしている。

おれは必死に考える。どうすれば太陽のピッチングをさせてあげるのかを。


初球、前の打者同様にボール球から始まる。

くそ。どうすればいい。頭を回せ。今までの経験を生かしてこそのキャッチャーだろ。


ふと、俺はマウンドの太陽を見る。


「!」


その表情に俺は戸惑う。笑っていたからだ。

さっきのタイムの時とは違い、笑っている。

グラブをつけた右手で顔を拭いながら笑っていた。

俺は気づく。太陽がマウンドに上がってから一度もあいつの顔を見ていなかった。

必死に抑えることだけ考えて、ピッチャーの顔を見ていなかったんだ。


「す、すいません!タイムお願いします!」


慌てて再びタイムを取りマウンドへ駆け寄る。

大吾が不思議そうに寄ろうとしていたが、手で制す。

頭の上にハテナを浮かべ、他の内野手と顔を見合わせる。

俺は構わず太陽の元へ走り、質問する


「なぁ!太陽!」

「え、なに?!」

「野球って何のためにやってんだ!?」

「は?何のため?!んー....」


大した質問じゃない。でも俺は太陽の野球への

価値観を知りたかった。

自分の力を出せない環境でも続けたこいつは、何を思って今までやってきたのか。


「んー...始めた理由は、じぃちゃんと川で水切りしてたのが初めかな〜」

「水切り?」

「おん。ボールみたいな球を思い切り投げるんだよ。跳ねるとか関係無しに。

そしたら野球やった方がいいって言われたから」

「まてまて、それ長くなる?短く簡潔に頼むわ」


俺の言葉にちょっと間を開けて口を開く


「んー...好きだから?」

「...そうか。わかった」

「ナニガ?」

「よし、取り敢えず作戦を伝える!ちゃんと言うこと守れよ!」

「幼稚園生かよ俺は」


1分も満たない作戦会議を経て、俺はキャッチャーへ戻る。

打席を外れ待っていた喜田がバットを肩に乗せて少し楽しみそうにしていた。


「プレイ!」っと、再び審判が声を上げ試合が再開した。


.....



一輝のタイム終了後、打席の喜田が構える。

0アウト満塁。一打同点も有り得るこのチャンスを

喜田は逃さまいと集中する。

しかし投手の様子がおかしい。フォームが違っていた。

身体はだらっと脱力しており、先程1段オーラが感じられない。

そう思っていると、ふわっと足を上げ出す。

グラブを前に突き出し、胸を膨らませる。


ボッ!! 腕が空を切る音がする。

そう思った瞬間、パァァン!!と、一輝のミットが鳴る。


「ストライク!」


速い。前の、その前の、さらに前の打者よりも明らかに速い。

130キロは出ているという球だった。

その音を聞いた観客は、帰ろうと腰を持ち上げていたが座り直した。

ザワザワと球場が騒ぎ出す。


「おぉ...速いな。さっきよりも」

「でも天野や冬木、長房と比べるとなぁ〜」

「それにあんなノーコンじゃ話にならないだろ。」


観客の感想とは裏腹に、グラウンドにいた数名の選手たちが気づく。

ただのまぐれの投球じゃない。と。


それは喜田も感じていた。

3球目、再び足を上げる太陽。


ンボッ!! パァァァン!! 「ストライク!!」


先程よりさらに速い腕の振り。

球速も上がっていたのが誰の目から見ても明らかだった。

138キロ。電光掲示板にはそう表示されていた。

追い込まれた喜田はグイッと汗を拭う。


(やばい。追い込まれた。

いやそれよりもこのピッチャー...なんでこんなのが西東京で埋もれてたんだよ....!

急に投球も変わった。星のヤローなに言いやがったんだ??)


そんなことを考えていると、構える間もなく太陽が大きく振りかぶる。

その時、喜田の脳裏には、既に三振したという未来を思い浮かべる。



パキューン!!!



銃声のような音が、一輝のミットから球場全体に広がった。


「ストライクバッターアウト!!」


審判のその声と共に、球場が今日1番の大盛り上がりを見せる。

三振に取った太陽は、腕を抱え上げながら歓喜なのか、それとも戸惑いなのか分からない咆哮を飛ばす。


「お...おぉぉぉぉ!!!!」


その目線の先には、ボールをがっちり掴んだ一輝がいた。

一輝はミットに収まったボールを見て、数分前の会話を思い出す。


ど真ん中でいい。ミットに思い切り腕を振り抜け

打たれても、フォアボールでもいい。

ただただ、腕を振れ。

そしたらきっと野球が楽しくなるぞ!


そう自分が言ったのだ。


(思った通り、さっきまでの太陽はバッティングピッチャーみたいな投げ方だった。

秋川ボーイズの時の癖なんだろうな。人に気を使う投球だ。

でも、自分本位になった太陽の投球はすげぇ!)


目を輝かせグラブを一輝に向ける太陽。

一輝もそれに応えるようにグラブを前に突き出す。

タッチはできないが、まるでタッチをしているようにふたりは笑いあった。


後ろを守っていた選手達は、その投球に圧倒された。

初心者と思っていた投手が149キロの速球を放ったのだから。


ベンチではグラウンドの選手たち同様、コーチや

他の選手たちが驚きながらも、太陽を称えていた。


ただ1人、拳をぎゅっと握りしめた天野焦斗を除いて

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