焦がれ
代表チーム同士の親善試合も、3-1のボーイズ代表チームが優勢の6回、マウンドに上がった日高太陽は、満塁のピンチで迎えたU15代表の1番、喜田を三振に切って落とした。
マウンド上で少し興奮気味で自分の右手を見つめる太陽。空振り三振した喜田はベンチへ下がる際、2番の秋山に話しかける
「掲示板見ればわかると思うが、球速ぇぞ、大振りはオススメしねぇ」
「わかってるよ♪コンパクトに...だよね♪」
「ふん...任せたわ」
「え...?」
喜田の言葉に少しだけ呆気に取られる秋山。
少し微笑み、ヘルメットを深く被り直し打席へと向かっていく。
(勝手に敵対意識を持ってたのは俺たち...か♪)
秋山が打席に入ると、太陽は再び力を抜く。
喜田と対峙した時と同じフォームだ。
そこから思い切り右足を上げ、胸を突き出し腕を頭の後ろから振り下ろす
パキューン!!
「ストライク!!」
初球真ん中低め、先程とほぼ同じコースだ。
(喜田の時と同じで真っ直ぐの真ん中付近...
やっぱり日高...真っ直ぐしか、いや
真っ直ぐの真ん中しか投げれないと踏んで良さそうだね♪)
頭の中で整理し、秋山がバッターボックの後ろに立ち直し、バットを短く持ち直す。
2球目、太陽が振りかぶる直前、一輝が一間置き、セカンドにいる白鳥を見る。白鳥はそれに気づく。
そして再び腕をめいっぱい振り下ろす太陽。真っ直ぐ、だがど真ん中という訳ではない。若干外に寄っているボールだった。
先程同様、一輝のミットが快音を鳴らす。
「ボール!!」
審判がそう告げるのと同時に、一輝が立ち上がり
一言だけ呟く。
「太陽ー。取るなよ」
「「え??」」
太陽と秋山がポツリとそう言った瞬間、一輝が
予備動作無しで腕を振る。
パァァン!!
気づくとボールは2塁ベースに入っていた白鳥の
グラブに収まっていた。
白鳥は痺れるグラブを2塁ランナーにタッチをする。
2塁ランナーの桜田は何が起こったのか分からない様子だった。
「アウト!!」
2塁審の声で、全員が現実に引き戻される。
一輝が第2リードを大きく取っていた2塁ランナーを刺したのだ。
一輝は太陽に向かい、指を2本立て言い放つ
「太陽、ツーアウトだ。この打者で絞めるぞ」
「お、おぉ...」
呆気に取られながら返事をする太陽。
その様子をベンチでバッテをはめようとしていた
夏目が見ていた。
(一打同点、2塁ランナーの桜田が帰れば逆転の場面、桜田が帰りたいって気持ちデカすぎてリードがデカくなった。そこを星が見逃さなかったな)
自分の頭の中でそう結論づけると、夏目はバッテをつけるのをやめ、レガースを付け始める。
その光景を見た冬木が夏目に尋ねる
「どうしたんだ飛鳥?回るかもしれないぞ」
「...いや、秋山を見くびっている訳じゃないが
回らないと思う」
「え?」
パキュン!!
「ストライクツー!」
2人の会話を遮るように、あの音が再び鳴り響いた。
ミットに収まっているボールを秋山が空振りしていたのだ。
間髪入れず、4球目、秋山に投じられた真っ直ぐを空振り、三振となった。
球場は再び歓声で湧き上がる。
U15の上位1、2番を三振に切って落とした太陽は、えも言わぬ高揚感に押し寄せられていた。
....
カァァン!!
最終回、ボーイズ代表チームの攻撃。ここで今日
1番の飛距離が飛び出す。
打った打者はボールが飛んでいった瞬間、その場に立ち尽くし確信していた。
ガササッ....!!
電光掲示板を飛び越え奥の林に放り込まれたその一打を打ったのは、ボーイズ代表チーム主砲、
藤大吾。
悠々とダイヤモンドを小走りで回る姿には、
U15チーム、観客、そしてチームメイトさえも黙らせる一発だった。
その回は藤の本塁打の一点止まりだったが、2点突き放すそのバッティングに、試合は決まったと誰もが思った。
そう思わずほど、太陽のピッチングは圧巻だった。
3番、春野が三球三振に倒れた後の次の打者、
キャプテン夏目が打席に入る。
打席に入る前、三度一輝に話しかける夏目。
「日高は隠し玉か?」
「ん?いや。そういうわけじゃねーよ。
俺らも一昨日知ったくらいだし。」
「....世界は広いな」
「その世界に俺らはこれから挑戦するんだろ」
「...ふっ。そうだな」
会話は終わり初球、豪速球がミット目掛けて放られる。
カァァン!!
思い切り踏み込んだ夏目がバットを振った。
打球は強く飛び、レフトへ。
レフトの鬼頭が懸命に追うも、弾道は高く落ちてこない。
ガシヤァン!!っと策を超えたボールが音を立てる。
「ファールボール!!」
あと数センチポールの内側だったらホームランという打球だ。
これには観客も驚く。なんせ140キロ後半の球をあそこまで運んだのだから。
しかし、打った夏目は手を見ていた。
じんじん痛む手。芯で捉えてないとはいえ、異常な痛さだった。
打ち損じではない。打感も悪くなかったというのに。
(ほんとに...すげぇボールだよ)
そんな事を考えるのと同時に、無意識のうちに笑みが零れていた。
そして2球目、目の前にいる打者が只者では無いと感じ取ったのか、先程から笑顔だった太陽の目は真剣そのものになっていた。
ンボッ!!
ギィィン!!
真っ直ぐを真後ろのファールにする夏目。
しかしどこか変だ。いつもの夏目じゃない。
「飛鳥??」
その変化に、ネクストサークルの冬木も違和感を覚える。
ベンチも気づいたのか、各々が喋り出す
「なんか...おかしくね?夏目」
「あぁ...夏目のフルスイングなんて見た事ねぇ。なぁ、夏目って本来あんなスイングなのか?」
同じシニア勢の秋山と春野が注目される。
2人は少し嬉しそうに語る
「いや、無いっしょ。初めてだよ。あんな飛鳥を見たのは♪」
「なんだか楽しそうにゃ〜」
ギィィン!!
3球、4球、5球と粘る夏目。太陽も負けまいと必死に腕を振る。
146。147。148キロと球速もどんどん上がっていく。
「フー...フー...」
「フッ...フッ....」
息が上がり、滴る汗を拭う2人。
一輝は少し間を取り、同じように真ん中に構える。
ニヤリと笑い太陽が足を上げる。
ンボッ!!
空気を切り裂くように、鞭のように早く振られた腕から放たれたボールが、唸りを上げて向かっていく。
そのボールを見て夏目がボヤく
「野球は楽しい...か。」
パキューン!!!
バットが空を切る。
「ストライクバッターアウト!!」
......
ー数時間後、宿舎ー
「UNO!!はい!大吾6連敗!」
「んじゃー大吾ジュースなー」
「クソッタレ!なんやコレ!クソつまらん!」
「そーいうのいいから早くジュース買ってこいよ」
「わかっとるわ!「ひやしあめ」でもなんでも買うてきてやるわ!!」
半泣きで部屋を飛び出していく大吾。
それを笑いながら座っている一輝と良平。
「あの天王ボーイズの藤大吾がパシリとか...二度と見れないんじゃねーか?」
「さすがに6回も買わせに行くのは可哀想じゃ...」
「いや、ええんちゃう。1回から3回まで階段を
往復すれば筋トレになるやろ。なぁー蓮もやらんかー?」
「...やらんわ」
鬼頭、剣心、白鳥が話し、鷹宮が拒絶する。
いつも通り何故か鷹宮の部屋でお話をしている。
「にしても、今日の日高えぐかったなー。
なんで今までキャッチャーだったんだ?」
「え、そうかな。なはははは」
鬼頭の言葉に少し照れくさそうにする太陽。
その話にみなが乗り出す
「それな!なんであんな球投げれんの?!」
「んー。別に何もしてないけどなー。
強いて言うなら小さい頃からじぃちゃんと川で水切りしてたくらいかな」
「江川卓かお前は」
「んー...でも、太陽も凄かったけど、焦斗なんか今日調子悪くなかった?」
良平のその言葉に、一輝が眉をピクつかせる
「確かに。俺が聞いてたのとだいぶ様子違ったな。どっか痛めてんの?」
「痛めては無いやろ。普通に投げてたし。
どうなん?一輝。」
「んーまぁ...久しぶりの実践だし勘が鈍ってたんだろ。すぐ良くなるよ」
「そう...なのか。」
要領を得ない返事をするチームメイトの顔を見て一輝は笑顔で話す
「大丈夫だよ!あいつはすげーんだから!
なんてったってあいつと組むのはこの俺だからな!はっはっは!」
「北島の方がええんやないのー」
「んだと鷹宮!お前ちょっとこっち来い!」
「お前がこいや」
本を読みながらイタズラっ子のような顔で嫌味を言う鷹宮に、一輝が立ち上がり近づこうとした
瞬間、ドタドタと走る音が外から聞こえてくる。
「おらぁー!飲み物買ってきたでー!
もう1回勝負や!次は負けへんからなぁ!」
「もうやめとけよ大吾。足パンパンになんぞ」
「うっさいわ!勝つまでやるに決まっとるやろ!俺の地元のルールで勝負や!」
「UNOにローカルルールなんてねーだろ」
....
ー結視点ー
沖縄合宿最終日、の夜。
明里ちゃんとお風呂に入った帰り道、忘れ物をした事に気づいた。
「ごめーんヘアゴム忘れちゃったー。」
「えー。一緒に行こうか?」
「んーん。すぐそこだし取ってくるよ。先行ってて!」
「はーい」
いやー失敗失敗。チームの出だし順調過ぎて
舞い上がっちゃってたYO!
高校生にも、U15チームにも勝ってほんとに強いなー。
一輝も夏目くんとなんかあったらしいけど最後は握手してたし、多分平気だよね。
あと一人、少し不安なのが....
「はっ...はっ....はぁ....」
そんな事を考えていたら、何か声が聞こえた。
え?不審者?いやいや。ここは関係者以外立ち入り禁止だし...
そう思いながら茂みの向こう側をひっそりの覗いてみる。
「はぁ...はぁ....くそっ...はぁ....」
「焦斗?!」
「!....結か...。」
「どーしたのそんな汗びっしょりで?!」
肩で息をする焦斗がそこに居た。
その目は見たことない、険しい顔をしていた。
明らかなオーバーワークだった。何か、感情を走って発散しているようにも見えた。
「...ランニング?やり過ぎじゃない??」
「あぁ?...はぁ。はぁ。別にいいだろ。」
「良くないよ!今日も3イニング投げたんだし、体力が余ってても疲労は取らないと!」
「....そうだよ。3イニングだよ...」
「え?」
「たった3イニングだ。たった3イニングしか投げなかったんだよ俺は!智幸さんに交代を打診された時も、食い下がらず引いた。向こうの投手は投げ続けたってのに...俺は引いたんだ!」
目が少し血走っている。怖い。
こんな焦斗は見たことない。
「代表に選ばれた時、泉や長房、新垣が居るのを知った時、どんな状況でも俺は自分をエースだと思ってた。」
「い、今は違うの?」
「お前も見たろ!日高のピッチングを!」
「太陽くん??」
汗を拭いながら焦斗が近づいてくる
「あの投球を見れば、誰だってアイツがエースだって思う。一輝もそうだ!」
「そ、そんな事ないでし...」
「違わない!!」
ガンッ!っとウチを壁に強めに打ち付ける焦斗。
「一輝だってそうだ。日高の球を受けた時、あの時のあの目...何かを期待してワクワクしてる目だ...」
「...」
「初めてだ...一輝が俺以外のピッチャーにあんな目をしたのを見るのは...初めてなんだよ。
一輝は...もうあいつの中では、理想のピッチャーは日高なんじゃ無いのか??」
初めてだった。焦斗がこんなに取り乱すのを見るのは。
一輝ほど長い付き合いでは無いけど、それでももう7年くらいの付き合いだったのに。
ウチの前で膝を着く焦斗を見るのは。初めて。
ウチは手をそっと、屈んでる焦斗の頭の上に乗せる。
「一輝にとってのエースは焦斗だよ。
それは間違いないよ。太陽君もいいピッチャーだけど、だからって一輝が焦斗を見放す分けないでしょ。」
「....」
何も言わず、そのまま屈んだままの焦斗。
頭をポンポンっと叩くと、口を開いた
「そんな思わせぶりな態度とったら一輝に嫉妬されるぞ。俺が」
「やっぱ一輝をわかってないね〜。
一輝はああ見えて大人だから、こんなんじゃ勘違いしないよ」
そして、ボーイズリーグ日本代表の沖縄合宿は
今日で終わりを迎えた。
ご視聴ありがとうございました!
本日の話より、不定期更新となります。よろしくお願いいたします。




